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第3話 :王宮からの招待状と新作マカロン4 :晩餐会の余韻と新たな波乱

 晩餐会が無事に終わり、雪乃は王宮の門を出たところで、ようやく大きなため息をついた。

「疲れた……けど、なんとか乗り切ったわね。」

特製マカロンは貴族たちに大好評だったし、王族からの賛辞まで受けた。だが、その反動で心も体も限界に近かった。


用意されていた馬車に乗り込むと、雪乃は背もたれに深く体を預けた。

「もうこんな仕事、二度とごめんだわ……。」

そう呟きながら、紅茶を飲みたい衝動に駆られるが、ここには愛用の茶器も、落ち着けるカウンターもない。それが余計に彼女の心を乱していた。



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忍と弥生との再会


「雪の庭」に戻ると、忍と弥生が入口で出迎えた。

「お嬢様、お疲れさまでした。」

「おかえりなさいませ。どうでしたか、王宮の晩餐会は?」


雪乃は疲れた顔のまま、二人に答えた。

「ええ、まあね……スイーツは大成功だったし、褒められすぎてもう嫌になるくらいよ。」


弥生がニヤリと微笑む。

「つまり、お嬢様は自分の魅力で貴族たちを虜にしてしまったと。」

「違うわよ! 私の魅力じゃなくて、マカロンの魅力よ!」

雪乃は慌てて否定するが、忍は静かに指摘する。

「お嬢様、王女らしさが漏れていなかったか心配です。」

「全然漏れてないわよ! ……多分。」


二人の軽い追及をなんとかかわし、雪乃は疲れた体を引きずるようにして店内へ向かった。



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晩餐会を振り返る雪乃


カウンターの奥に座り、ようやく紅茶を一口飲むと、雪乃はほっとした顔になった。

「やっぱり、自分の店が一番落ち着くわ。」

弥生が少し心配そうに尋ねる。

「でも、本当に問題はなかったんですか?」


雪乃は少し黙った後、晩餐会での出来事を思い出しながら話し始めた。

「まあ、途中でちょっとしたトラブルはあったけどね。マカロンをドレスにこぼしたり、貴族同士で軽く言い争いがあったり……。」

「それ、結構なトラブルでは……?」

弥生が眉をひそめるが、雪乃は軽く手を振って言った。

「でも、私がうまく収めたから大丈夫よ。『スイーツは争いを和らげるものですわ』なんて言ってね。」

「お嬢様、それ本当にその場のノリで言っただけですよね?」

忍が冷静に指摘すると、雪乃は視線をそらして紅茶をもう一口飲んだ。



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新たな波乱の兆し


その時だった。店の扉が再びノックされる音が響いた。

「この時間に誰かしら?」

雪乃が不思議そうに呟くと、忍が扉を開けた。そこに立っていたのは、晩餐会で出会った王宮の侍従だった。


「雪乃店主様、夜分遅くに失礼いたします。実は、本日の晩餐会でのスイーツについて、王宮より正式に追加の注文が入りました。」

「追加の注文?」

雪乃は驚いた顔で立ち上がる。侍従は続けて言った。

「次回の王宮の催しで、ぜひ再び『雪の庭特製マカロン』を提供いただきたいとのことです。」


その言葉に、雪乃の顔が青ざめた。

「……え? またやるの? そんなの聞いてないわ!」

「申し訳ございませんが、王宮からの正式なご依頼ですので……。」

侍従の丁寧な言葉に、雪乃は頭を抱えた。弥生と忍も微妙な表情を浮かべている。


「お嬢様、これはチャンスかもしれませんよ。」

弥生が慎重に切り出すが、雪乃は即座に否定した。

「チャンスじゃないわ! これは罰ゲームよ!」


侍従は困惑しながら頭を下げる。

「お返事は数日以内にいただければ結構ですので、どうぞご検討ください。」

そう言って立ち去る侍従を見送り、雪乃はカウンターに崩れ落ちた。

「もう嫌……自由な喫茶店ライフがどんどん遠のいていく気がするわ……。」



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次なる準備を始める気配


しかし、雪乃がいくら反対しようとも、弥生と忍は冷静に次の準備を進める気配を見せ始めていた。

「お嬢様、次回の王宮の催しでは、さらに華やかなスイーツを用意したほうがいいですね。」

「そうですね。今回のマカロンを基に、アレンジしたものを考えておきましょう。」


二人の話を聞きながら、雪乃はふてくされたように紅茶を飲み干した。

「なんで私の喫茶店が、こんなことになっちゃったのかしら……。」


カウンター越しに聞こえる街の喧騒は、今日も穏やかだ。しかし、雪乃の心の中では、次なる波乱が迫っている気配がしてならなかった。



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エンディング


雪乃の嘆きが静かに店内に響く。

「どうして私の店、もっとひっそりしていられないのかしら……。」

忍が小さく呟く。

「お嬢様の魅力が強すぎるからでしょう。」

「それ、褒めてるんだか皮肉なんだか分からないわよ!」

弥生が小さく笑いながら、こう言った。

「でも、お嬢様。どんな波乱が来ても、私たちが支えますから安心してください。」


その言葉に、雪乃は少しだけ救われた気分になりながら、再び紅茶を注いだ。果たして次の王宮の依頼をどうするか――それを決めるのは、もう少し後になりそうだった。





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