花の突然の参戦
店内が忙しさを増し、月と弥生が厨房に引っ込んだタイミングで、フロアには忍・セリーヌ・クラリスの三人だけが残っていた。
ほんの一瞬、接客が追いつかず、フロアに隙が生まれる。
その隙を見逃さなかったのは――花だった。
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ちょこちょこと動く小さな影
魔導回路のスケッチを脇に置いた花は、小柄な体でテーブル間を軽やかにすり抜けていく。
「ご注文をお受けたまります!」
満面の笑顔と透き通る声に、お客様たちは一瞬で心を奪われた。
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お客様たちの反応
「えっ、この子……店員さん?」「めちゃくちゃ可愛いんだけど!」「笑顔がスイーツより甘い!」
テーブルのあちこちから歓声が上がり、花は一躍人気者に。
その愛らしさと無邪気さに、客たちはメロメロになっていく。
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店員たちの驚き
「ちょっ、花様!? 何をしてるんですか!」
慌てて駆け寄る忍に、花は無邪気な笑顔で返す。
「だって、みんな忙しそうだったから。私もお手伝いしたいの!」
セリーヌは戸惑い、クラリスはため息をつきつつも納得する。
「確かに、お客様たちも喜んでるし……花姫様、案外接客向いてるのかも」
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月の反応と指示
厨房で準備をしていた月が、フロアの笑い声に気づき様子を見に来る。
花が愛想を振りまきながら接客しているのを見て、驚きと苦笑いが同時に浮かんだ。
「花……あなた、自由すぎるわよ……」
弥生も小声で笑う。
「でも本当に、接客の天才かもしれませんね」
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お客様の指名と月の不安
その後も、花への注文は絶えなかった。
「花ちゃん、こっちお願い!」「また来てくれて嬉しい!」「花ちゃんにスイーツ運んできてほしい!」
花は「はいっ!」と元気よく応え、笑顔でテーブルを回る。
――その様子を厨房から見守っていた月は、思わずため息をつく。
「……嬉しいけど、このままだと目立ちすぎるわね。スタードールの店長が見てたら……」
忍が横から小声で続ける。
「たしかに……あの人なら、花様をスカウトしかねません」
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月の切り替えし
お客様の「花ちゃんお願い!」の声に、花が反応しかけた瞬間。
「ご注文なら、私が承ります」
月がスッと間に入り、優雅な笑みで丁寧に対応する。
「花はまだ小さいので、あまり無理はさせられないんです。ご理解いただけますか?」
「もちろんです。素敵なお姉さんですね」
――月は場を乱すことなく、スムーズに客の期待を別方向へと導いていく。
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花と月のやり取り
「月姉様、過保護すぎる……」
不満げに口を尖らせる花に、月は優しく応える。
「無理して倒れたら意味ないでしょ?姉として、あなたのことは守らなきゃいけないのよ」
花はむくれながらも、言い返せなかった。
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雪乃の見解
その様子を紅茶片手に眺めていた雪乃が、ぽつりと呟く。
「花がすごいのは、計算してないからよ。ただ素直に動いてるだけ。それが魅力になってるの」
月は苦笑いで返す。
「それが一番危険なのよ、雪姉様……」
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忍と弥生の感想
忍がフロアの端でぽそり。
「本当に……月様がいなかったら、お店が花様に乗っ取られてるかも」
弥生も肩をすくめながら笑う。
「でも月様のフォローも完璧ですしね。あの二人がいれば、この店は大丈夫ですよ」
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月の気遣いと雪乃のマイペースさ
「月さんもかわいいよ!」
お客様からの褒め言葉に、月がわずかに照れた表情を見せる。
それを聞いた雪乃が、またも紅茶をすすりながらにやり。
「……私も、そろそろお店の役に立たないとねぇ」
弥生がきっちり返す。
「はい、ぜひお願いします。今日こそ動いてください!」
雪乃は優雅に肩をすくめながら返す。
「私はここで、癒しを提供してるの。それも立派な役割よ?」
弥生は無言でため息をつき、静かに持ち場へ戻っていった。
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花の無邪気な笑顔と、月の的確なフォロー。
そして雪乃の飄々とした観察眼――。
それぞれの持ち味が絶妙に重なり合い、今日もカフェは笑顔と甘い香りに包まれていた。