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第36話政略結婚は、奴隷と変わらない1:壱姫の決意



王城の大広間

壱姫の声が王城の大広間に響き渡る。その堂々たる威厳と確信に満ちた言葉に、リヒター卿は思わず足を止め、顔を上げた。


「今、何とおっしゃいましたか、壱姫殿下?」


壱姫は冷ややかな目で彼を見つめ、肩をすくめながら言い返した。

「リヒター卿、耳が遠くなる歳ではあるまい。」


リヒター卿は狼狽しながら続けた。

「ですが、そのお話、耳を疑わざるを得ません。」


壱姫は少し笑みを浮かべ、冷静な口調で言葉を繋げた。

「困った御仁だな。では、もう一度言おう。解放された奴隷たちを我がジパングで引き受け、彼らが自立するための支援を行う、と言ったのだ。わが国では奴隷解放の実績と経験があり、そのノウハウもあるからだ。」


壱姫の信念


リヒター卿は額に汗を浮かべながら問い返した。

「しかし、なぜ他国の民である奴隷たちに、それほど肩入れしてくださるのですか?」


壱姫の瞳が鋭さを増し、彼女は毅然とした態度で答えた。

「他国だと?そんなことは関係ない。自由を奪われようとしている者がいるのなら、他国だろうが自国だろうが、妾は全力で救い、守る。それが国の頂点に立つ者の責務というものだ。」


その力強い言葉に、リヒター卿は息を呑む。


壱姫はさらに続けた。

「奴隷を労働力としか見ないお前たちは、彼らの命や未来の可能性を奪い続けている。それが正義だとでも言うのか?そんな愚かな国家とは条約など結べぬ。」


揺れるラルベニア


リヒター卿は深く頭を下げながら懇願するように言った。

「……おっしゃることはごもっともです。しかし、我が国の伝統や経済への影響は甚大でございます。どうか少しの猶予をお与えください。」


壱姫は冷然とした目で彼を見据えた後、小さく息を吐き、答えた。

「猶予はくれてやる。その間に、この国がどれだけ本気で未来を見据えるか、妾が見届けてやろう。」


壱姫の提案


壱姫はリヒター卿を見据え、具体的な提案を口にした。

「我が国は、すでに奴隷問題を解決している。そのすべてのノウハウを提供してやる。」


リヒター卿は驚きと戸惑いを隠せず、問いかけた。

「ジパングが……そのような問題をすでに……。」


壱姫は冷静な口調で続けた。

「そうだ。我が国もかつては奴隷制度が存在していた。だが、妾と父上が徹底して根絶させたのだ。お前たちが直面している問題とその解決法、すべて妾は知り尽くしている。そして、そのノウハウを惜しむことなく提供してやると言っているのだ。」


リヒター卿はためらいがちに応じた。

「ですが、そのような政策を迅速に導入できるかどうか……。」


壱姫は軽く鼻で笑い、切り捨てるように言った。

「できるかどうかではない。やるのだ。それが条約締結の最低条件となることを理解しておけ。」


壱姫の決意


壱姫は立ち上がり、鋭い目でリヒター卿を見つめた。

「この問題に妥協はない。どれだけ困難であろうと、人の自由を守る。それが妾の信念だ。」


リヒター卿は震える声で答えた。

「速やかに王国全体で対策を講じます。その進捗については、必ず殿下にご報告いたします。」


壱姫は軽く頷き、彼に最後の言葉を告げた。

「よい。行け。そして二度と妾の前で猶予などという軽々しい言葉を口にするな。」


その言葉を最後に、リヒター卿は深々と礼をし、大広間を後にした。


独白


リヒター卿が去った後、壱姫は一人静かに窓の外を見つめ、呟いた。

「奴隷制度など、見ているだけで虫唾が走る。これは妾自身のための戦いだ……この世から奴隷制度という不快な存在を消し去る。それが妾の役目だ。」


その目は、遠く未来を見据え、人々の命運を変える決意に満ちていた――。



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