目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第45話: 雪の庭 ジパング店 新規オープン

「雪の庭 ジパング店」オープン初日》🌸


※一部文言を整理・調整しつつ、展開は原文の魅力を損なわず再構成しています。



---


【1】開店前の異変と騒動の始まり


翌朝――。

「雪の庭 ジパング店」オープン初日。


店の前で掃除をしていた弥生が、急いで店内に駆け込んできた。


「大変です!開店前なのに、店の前に行列ができてます!」


「行列?……うち、別に大手チェーンってわけでもないのに……なんで?」


不思議に思いながらも、雪乃が店の外に出ると――

そこには老若男女が長蛇の列を成し、今か今かと開店を待っていた。


「これが噂の雪の庭か……」

「スイーツが絶品らしいわよ!」

「ジパングに出店って聞いて、今日は絶対来たかったんだ!」


興奮した声があちこちから聞こえてくる。


「……もしかして、姫様たちが昨日、また余計なことを……」

クレアが困ったように呟くと、雪乃は頭を抱えた。


「壱姉様たちの宣伝、完全にやりすぎたわね……静かに始めたかったのに……。」



---


【2】オープンと混乱の開始


スタッフ全員が店頭に並び、雪乃が落ち着いた声で挨拶する。


「本日、『雪の庭 ジパング店』をオープンいたします。どうぞごゆっくりお楽しみください。」


拍手とともに、次々と客が店内に流れ込む。

開店直後からフル稼働の厨房とホール。

クレア、クラリス、シモーヌ、月、弥生、忍――皆が的確に動いていた。


「次、カフェラテとタルト!」 「こちら、お席へどうぞ!」


しかし――


「……え?何これ、すでに疲れてる……お茶を飲む暇がないなんて……。」

雪乃は予想以上の忙しさに早くも心が折れかけていた。



---


【3】想定外の混雑と営業時間の問題


開店から3時間。予定の営業時間が迫るなか、まだ行列は尽きない。


「お嬢様、このままでは途中閉店になってしまいます。延長するしか……」

弥生の提案に、雪乃は苦々しい顔をする。


「やだ。疲れる……。」

「そんなこと言ってる場合じゃありません!途中で閉めたら暴動ものです!」


一方、クレアが冷静に切り出す。


「契約は3時間ですが……店長。今後のためにも、契約の見直しをご検討ください。」


「え?……また交渉ごと……?」


「労働時間の延長に応じます。その代わり、報酬の見直しをお願いします。」


雪乃は頭を抱えたが、状況から折れるしかなかった。


「……せいぜい、2時間延長が限界よ。」



---


【4】終わらない忙しさと雪乃の葛藤


延長が決まり、スタッフたちは再びフル回転。

厨房もホールもフル稼働が続く。


「このケーキ、最高!」

「また来たい!」


――そんな中、雪乃は厨房の片隅でスフレを焼きながら小さくため息をついた。


「……こんなの、私の理想としていた店じゃない。」


本来の理想は、静かな空間でお客様と会話しながら丁寧にスイーツを出す喫茶店。

だが今は、騒がしく慌ただしいカフェになっていた。


「雪姉様、大丈夫?」

月の言葉に、雪乃は首を振りながらも答えた。


「……もう少しだけ、頑張ってみようかな。」




【5】頼れる助っ人たちの襲来


厨房が戦場と化す午後、雪乃はスフレの膨らみ具合に神経を集中させながら、止まないオーダーに必死で対応していた。


「次、カモミールミルクティー2と、フルーツタルト3つです!」

月の声が厨房に響き、弥生がその場で素早く紅茶の準備に入る。

汗を拭う暇もない。焼けた天板を入れ替えながら、雪乃は無言で耐えていた。


そんな時――




「おや、これは……まるで開戦前の魔術演習のようですね」




優雅で涼やかな声が、ホールの騒がしさの中でも妙に響いた。

ざわつく店内。その声に反応して、何人かの客が振り返る。


「えっ……?」

雪乃が顔を上げた先には、金色の髪をふわりと揺らしたヴィクトリア。

そしてその背後には、明るく手を振る元気いっぱいの少女・花がいた。




「お客様、申し訳ありません。私たちは本日、臨時スタッフとして参りましたの。どうぞお通しくださいませ」


ヴィクトリアが丁寧に一礼すると、その優雅な態度に気圧された客たちは自然と道を開けた。

花はその後ろから、厨房に向かって元気に叫ぶ。




「雪姉様、助っ人に来ましたよーっ! 今日こそ私の魔導スキルが役に立つときですっ!」




「ヴィクトリア!? 花!? ……どうしてここに?」




驚く雪乃に、ヴィクトリアは冷静に返す。




「壱姫女王の命を受けまして、新規オープンの様子を視察に参りましたが……これは視察どころか総力戦ですね。少しでもお力添えできればと思いまして」


「雪姉様! 今日は私たちも一緒に戦場に立ちますよ!厨房も接客も任せてください!」




「本当に……ありがとう。めちゃくちゃ助かる……!」


雪乃はホッと息をつき、笑みを浮かべた。




しかし、その安心も束の間。

入口から再びざわめきが起こる。




「……この香り、懐かしいわね」




今度は、どこか落ち着いた低音が店内に響いた。

そこに立っていたのは、淡い紫の羽織を纏った一人の女性――雪乃の師匠、**夕霧(ゆうぎり)**だった。




「し、師匠……!?」




雪乃はスフレ用のヘラを取り落としそうになりながら叫ぶ。

厨房も一瞬、静まり返った。




「弟子の晴れ舞台を、見逃すわけにはいかないでしょう? けれど……想像以上の盛況ぶりね」




夕霧はゆっくりとホールを見渡し、笑みを浮かべながら袖をたくし上げる。




「少しだけ、手を貸すわね」




「ま、待ってください師匠!? こんな忙しい中で、無理に動かなくても!」




「……あなたの“雪の庭”で、私の教え子たちがこんなにも頑張っているのよ。師として黙って見ていられるほど、年は取ってないつもり」




そう言って、夕霧は厨房にすっと入り込む。




「それじゃあ、私はスフレと紅茶を。リズムは任せて」




「……はいっ!」




雪乃は力強く頷き、すぐに作業に戻る。




夕霧の所作は美しく、無駄がない。

オーブンの火加減を見極めながら、手際よくティーポットに湯を注ぎ、生クリームの泡立ち加減まで同時に調整していく。




「すごい……本当に、師匠って感じ」

花が魔道具の掃除をしながら見とれていた。


「私、まだまだですね……」

雪乃が小さく呟くと、隣の夕霧がくすりと微笑む。




「比べる必要なんてないわ。今のあなたが、あなたの店の“味”を作るのよ」




その言葉に、雪乃の目が見開かれる。

不思議と肩の力が抜けて、彼女の動きにもリズムが戻ってきた。




厨房では夕霧が、ホールではヴィクトリアが完璧な立ち居振る舞いで接客をこなし、花が魔道具による補助と料理サポートを請け負っていた。




「すごい……あの混雑が、まるで嘘みたいだ」

クレアが感嘆の声を漏らす。




「よし、みんな! あと一息、気合入れていくわよ!」

雪乃が叫ぶと、スタッフたちの声が一斉に響き渡る。




「はいっ!」




「ラストスパート、全力でまいりますわ」

ヴィクトリアがエレガントに応え、花が勢いよく拳を掲げる。


「オッケー! 魔道具フル稼働!」




雪乃は再びオーブンの前に立ち、深呼吸した。




「……やれやれ、本当に頼れる人たちね」


その口元には、少しだけ誇らしげな笑みが浮かんでいた。


波乱のオープン初日、

最強の助っ人たちが集結し、喫茶店「雪の庭 ジパング店」は、ようやく本来のリズムを取り戻しつつあった――。


【6】閉店と次なる一歩


ようやく訪れた閉店時間。

疲れ切ったスタッフたちが集まり、雪乃がねぎらいの言葉をかける。


「みんな、本当にお疲れ様。」


クレアが頷く。

「大成功と言える初日でしたね。」


月も笑いながら言った。

「これが毎日だと体力が持たないけどね。」


弥生がそっとお茶を差し出すと、雪乃はひと息ついて小さく微笑んだ。


「ありがとう、弥生ちゃん……でも、これが毎日は無理……。」


それでも、彼女の表情にはどこか達成感が滲んでいた。



---


【8】翌日の会議とオープン時間の見直し


翌朝、スタッフ会議が開かれた。

クレアが静かに口を開く。


「店長。混雑を避けるために、オープン時間を早めるのが適切かと。」


「……あ、頭痛……。」


雪乃は本気で嫌そうな顔をする。


「朝は早起きしないといけないじゃない……お茶を飲む時間がなくなるじゃない……」


スタッフ全員の視線が冷たく突き刺さる。


「……お嬢様、むしろ朝に分散すれば昼以降は余裕ができますよ?」

弥生が優しく諭すと、雪乃もようやく観念した。


「わかったわよ……でも私はお昼に来るから!」


「もちろんです。」

弥生が笑顔で頷いた。



---


【9】次なる展開へ


こうして、**「雪の庭 ジパング店」**は新たな営業時間と体制で運営されることとなる。

雪乃は思案顔で呟く。


「人手、もっと増やさないと……ラルベニア店も再開したいし……。」


未来に向けて、彼女の新たな挑戦が始まろうとしていた――。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?