「雪の庭 ジパング店」オープン初日》🌸
※一部文言を整理・調整しつつ、展開は原文の魅力を損なわず再構成しています。
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【1】開店前の異変と騒動の始まり
翌朝――。
「雪の庭 ジパング店」オープン初日。
店の前で掃除をしていた弥生が、急いで店内に駆け込んできた。
「大変です!開店前なのに、店の前に行列ができてます!」
「行列?……うち、別に大手チェーンってわけでもないのに……なんで?」
不思議に思いながらも、雪乃が店の外に出ると――
そこには老若男女が長蛇の列を成し、今か今かと開店を待っていた。
「これが噂の雪の庭か……」
「スイーツが絶品らしいわよ!」
「ジパングに出店って聞いて、今日は絶対来たかったんだ!」
興奮した声があちこちから聞こえてくる。
「……もしかして、姫様たちが昨日、また余計なことを……」
クレアが困ったように呟くと、雪乃は頭を抱えた。
「壱姉様たちの宣伝、完全にやりすぎたわね……静かに始めたかったのに……。」
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【2】オープンと混乱の開始
スタッフ全員が店頭に並び、雪乃が落ち着いた声で挨拶する。
「本日、『雪の庭 ジパング店』をオープンいたします。どうぞごゆっくりお楽しみください。」
拍手とともに、次々と客が店内に流れ込む。
開店直後からフル稼働の厨房とホール。
クレア、クラリス、シモーヌ、月、弥生、忍――皆が的確に動いていた。
「次、カフェラテとタルト!」 「こちら、お席へどうぞ!」
しかし――
「……え?何これ、すでに疲れてる……お茶を飲む暇がないなんて……。」
雪乃は予想以上の忙しさに早くも心が折れかけていた。
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【3】想定外の混雑と営業時間の問題
開店から3時間。予定の営業時間が迫るなか、まだ行列は尽きない。
「お嬢様、このままでは途中閉店になってしまいます。延長するしか……」
弥生の提案に、雪乃は苦々しい顔をする。
「やだ。疲れる……。」
「そんなこと言ってる場合じゃありません!途中で閉めたら暴動ものです!」
一方、クレアが冷静に切り出す。
「契約は3時間ですが……店長。今後のためにも、契約の見直しをご検討ください。」
「え?……また交渉ごと……?」
「労働時間の延長に応じます。その代わり、報酬の見直しをお願いします。」
雪乃は頭を抱えたが、状況から折れるしかなかった。
「……せいぜい、2時間延長が限界よ。」
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【4】終わらない忙しさと雪乃の葛藤
延長が決まり、スタッフたちは再びフル回転。
厨房もホールもフル稼働が続く。
「このケーキ、最高!」
「また来たい!」
――そんな中、雪乃は厨房の片隅でスフレを焼きながら小さくため息をついた。
「……こんなの、私の理想としていた店じゃない。」
本来の理想は、静かな空間でお客様と会話しながら丁寧にスイーツを出す喫茶店。
だが今は、騒がしく慌ただしいカフェになっていた。
「雪姉様、大丈夫?」
月の言葉に、雪乃は首を振りながらも答えた。
「……もう少しだけ、頑張ってみようかな。」
【5】頼れる助っ人たちの襲来
厨房が戦場と化す午後、雪乃はスフレの膨らみ具合に神経を集中させながら、止まないオーダーに必死で対応していた。
「次、カモミールミルクティー2と、フルーツタルト3つです!」
月の声が厨房に響き、弥生がその場で素早く紅茶の準備に入る。
汗を拭う暇もない。焼けた天板を入れ替えながら、雪乃は無言で耐えていた。
そんな時――
「おや、これは……まるで開戦前の魔術演習のようですね」
優雅で涼やかな声が、ホールの騒がしさの中でも妙に響いた。
ざわつく店内。その声に反応して、何人かの客が振り返る。
「えっ……?」
雪乃が顔を上げた先には、金色の髪をふわりと揺らしたヴィクトリア。
そしてその背後には、明るく手を振る元気いっぱいの少女・花がいた。
「お客様、申し訳ありません。私たちは本日、臨時スタッフとして参りましたの。どうぞお通しくださいませ」
ヴィクトリアが丁寧に一礼すると、その優雅な態度に気圧された客たちは自然と道を開けた。
花はその後ろから、厨房に向かって元気に叫ぶ。
「雪姉様、助っ人に来ましたよーっ! 今日こそ私の魔導スキルが役に立つときですっ!」
「ヴィクトリア!? 花!? ……どうしてここに?」
驚く雪乃に、ヴィクトリアは冷静に返す。
「壱姫女王の命を受けまして、新規オープンの様子を視察に参りましたが……これは視察どころか総力戦ですね。少しでもお力添えできればと思いまして」
「雪姉様! 今日は私たちも一緒に戦場に立ちますよ!厨房も接客も任せてください!」
「本当に……ありがとう。めちゃくちゃ助かる……!」
雪乃はホッと息をつき、笑みを浮かべた。
しかし、その安心も束の間。
入口から再びざわめきが起こる。
「……この香り、懐かしいわね」
今度は、どこか落ち着いた低音が店内に響いた。
そこに立っていたのは、淡い紫の羽織を纏った一人の女性――雪乃の師匠、**夕霧(ゆうぎり)**だった。
「し、師匠……!?」
雪乃はスフレ用のヘラを取り落としそうになりながら叫ぶ。
厨房も一瞬、静まり返った。
「弟子の晴れ舞台を、見逃すわけにはいかないでしょう? けれど……想像以上の盛況ぶりね」
夕霧はゆっくりとホールを見渡し、笑みを浮かべながら袖をたくし上げる。
「少しだけ、手を貸すわね」
「ま、待ってください師匠!? こんな忙しい中で、無理に動かなくても!」
「……あなたの“雪の庭”で、私の教え子たちがこんなにも頑張っているのよ。師として黙って見ていられるほど、年は取ってないつもり」
そう言って、夕霧は厨房にすっと入り込む。
「それじゃあ、私はスフレと紅茶を。リズムは任せて」
「……はいっ!」
雪乃は力強く頷き、すぐに作業に戻る。
夕霧の所作は美しく、無駄がない。
オーブンの火加減を見極めながら、手際よくティーポットに湯を注ぎ、生クリームの泡立ち加減まで同時に調整していく。
「すごい……本当に、師匠って感じ」
花が魔道具の掃除をしながら見とれていた。
「私、まだまだですね……」
雪乃が小さく呟くと、隣の夕霧がくすりと微笑む。
「比べる必要なんてないわ。今のあなたが、あなたの店の“味”を作るのよ」
その言葉に、雪乃の目が見開かれる。
不思議と肩の力が抜けて、彼女の動きにもリズムが戻ってきた。
厨房では夕霧が、ホールではヴィクトリアが完璧な立ち居振る舞いで接客をこなし、花が魔道具による補助と料理サポートを請け負っていた。
「すごい……あの混雑が、まるで嘘みたいだ」
クレアが感嘆の声を漏らす。
「よし、みんな! あと一息、気合入れていくわよ!」
雪乃が叫ぶと、スタッフたちの声が一斉に響き渡る。
「はいっ!」
「ラストスパート、全力でまいりますわ」
ヴィクトリアがエレガントに応え、花が勢いよく拳を掲げる。
「オッケー! 魔道具フル稼働!」
雪乃は再びオーブンの前に立ち、深呼吸した。
「……やれやれ、本当に頼れる人たちね」
その口元には、少しだけ誇らしげな笑みが浮かんでいた。
波乱のオープン初日、
最強の助っ人たちが集結し、喫茶店「雪の庭 ジパング店」は、ようやく本来のリズムを取り戻しつつあった――。
【6】閉店と次なる一歩
ようやく訪れた閉店時間。
疲れ切ったスタッフたちが集まり、雪乃がねぎらいの言葉をかける。
「みんな、本当にお疲れ様。」
クレアが頷く。
「大成功と言える初日でしたね。」
月も笑いながら言った。
「これが毎日だと体力が持たないけどね。」
弥生がそっとお茶を差し出すと、雪乃はひと息ついて小さく微笑んだ。
「ありがとう、弥生ちゃん……でも、これが毎日は無理……。」
それでも、彼女の表情にはどこか達成感が滲んでいた。
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【8】翌日の会議とオープン時間の見直し
翌朝、スタッフ会議が開かれた。
クレアが静かに口を開く。
「店長。混雑を避けるために、オープン時間を早めるのが適切かと。」
「……あ、頭痛……。」
雪乃は本気で嫌そうな顔をする。
「朝は早起きしないといけないじゃない……お茶を飲む時間がなくなるじゃない……」
スタッフ全員の視線が冷たく突き刺さる。
「……お嬢様、むしろ朝に分散すれば昼以降は余裕ができますよ?」
弥生が優しく諭すと、雪乃もようやく観念した。
「わかったわよ……でも私はお昼に来るから!」
「もちろんです。」
弥生が笑顔で頷いた。
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【9】次なる展開へ
こうして、**「雪の庭 ジパング店」**は新たな営業時間と体制で運営されることとなる。
雪乃は思案顔で呟く。
「人手、もっと増やさないと……ラルベニア店も再開したいし……。」
未来に向けて、彼女の新たな挑戦が始まろうとしていた――。