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第46話:ラルベニア店再オープンにむけて

新たな仲間の勧誘


落ち着いた日常へ


ジパング店の開店当初の騒がしさが嘘のように、今では穏やかな時間が流れていた。

静かに紅茶を淹れる音、スイーツを楽しむ客たちの笑顔――

ようやく雪乃の理想とする 「落ち着いた喫茶店」 が形になってきた。


「オープン時の混雑が嘘のようね。」

雪乃はカウンターで紅茶を淹れながら微笑む。


「これで、やっと一日 3時間の営業 にできるわ。」

彼女にとって 「長時間営業=疲れる」 という最大の問題がようやく解決しつつあった。


そして、ふと考える。


「そろそろ ラルベニア店の再オープン も考えられるわね……。」



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月の指摘


「雪姉様、それはいいですが……再オープンも、また混雑が予想されますよ?」

横で伝票整理をしていた 月 が顔を上げた。


「そ、そうね……」

雪乃は眉をひそめる。


「あの時は 花やヴィクトリア、師匠まで応援 に来てくれたからなんとかなったけど……。」


雪乃は腕を組んで考え込む。

あのカオスな状況を もう一度経験するのは絶対に嫌だ。


「あと1人…… 厨房も接客もできる人材が欲しいところね……。」



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新たな人材探し


「それなら、またヘッドハンティングする?」

月がクスッと笑いながら提案する。


「また?スタードールから引き抜いたクレアちゃんみたいに?」

雪乃は苦笑した。


「あれは特例よ……あそこまでの接客のプロなんて、そうそういないわ……。」


「でも、ジパングに適任がいなければ、また ラルベニア側で探すのも手 じゃない?」


月の提案に、雪乃は少し考えた。



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候補者選び


「……確かにラルベニアの方が人材が集まりやすいけど……」

雪乃は視線を店内のカウンターへ向ける。


そこでは クレア が完璧な接客をこなしながら、忍と弥生と軽快に話している。

ヘッドハンティングが大成功だったことは間違いない。


「……でも、さすがにまたスタードールに行くのは気が引けるわ……。」


「なら、別の店か……それとも 意外なところから探す か?」


「……意外なところ?」

雪乃は月の言葉に首を傾げた。


「そう、例えば 元貴族の使用人とか、冒険者だった人 とか?」


「えっ、そんな人が接客や厨房できるの?」

雪乃は驚く。


「むしろ、接客ができる騎士や使用人って、スタードールよりも強いかもよ?」

月がニヤリと笑う。


「……考えてみる価値はあるわね。」

雪乃はそう呟きながら、新たな人材を求めて ラルベニアへ行く決意を固めた。


新たな夜と青いぴよぴよさん



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花の突然の訪問


ジパング店が落ち着いてきたものの、最近 夜の姿を見かけない ことが雪乃にとって大きな問題になっていた。

夜がいれば接客もできるし、厨房の補助も完璧。何より彼女の存在が 店の安定感 を生み出していた。


「夜ちゃんがいないと厳しいわね……」

雪乃はカウンターでため息をつく。


すると、突然 「きたよ」 という声が響く。

振り向くと、そこには 花が立っていた。


「え? 花?」

月も驚いたように声を上げる。


花が忙しくなってから、ジパング店に顔を出すのは かなり珍しくなっていた。

しかし、問題は 花だけではなかった。


彼女の横に立つ 一人の少女。


いや、少女というより 夜だった。

しかし、いつも見ていた夜より 一回り大きく、頭一つ分背が高くなっている。


「よ、夜ちゃん……よね?」



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夜の"成長"


「成長しました」


夜は淡々と答える。

しかし、魔力で動くホムンクルスである夜が 成長する などあり得ない話だった。


「はぁ? どういうこと?」

雪乃が思わず聞き返す。


「新しい筐体にプログラムとメモリーを移した」

花がさらりと説明する。


「……それって、要するに体を変えたってこと?」

月が困惑気味に尋ねる。


「そういうこと。前の体より、より人間らしい動作が可能になったし、戦闘能力も強化されたよ」

花が さらっととんでもないことを言う。


「いや、そんな簡単に言わないでよ!」

雪乃がツッコミを入れる。


「花、王宮の仕事で忙しいのではなかった?」

月が疑問を口にする。


「うん、忙しいから、合間にちょこちょこと作った」


「……ちょこちょこでできることなの?」

月と雪乃が 同時に ツッコミを入れた。



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新たな仲間:青いぴよぴよ


「あと、この子も」


そう言うと、花は ポシェットから青い小鳥を取り出した。


「ぴよぴよさんジパング店バージョン、青いぴよぴよさん」


花が手を離すと、青いぴよぴよさんは ひらりと飛び立ち、天井の梁にとまった。


「……まさか、これも花が作ったの?」

月がじっと小鳥を見上げながら尋ねる。


「うん。ジパング店専用のAI搭載。雪姉様の指示がなくても、適切な接客アシストをするよ」


「……ちょっと待って」

雪乃は頭を抱える。


「つまり、夜の新しい体と、青いぴよぴよさんを、王宮の仕事の合間に"ちょこちょこ"作ったってこと?」


「そうだよ? なんでそんなに驚くの?」

花がきょとんとした顔で答える。


「驚くに決まってるでしょう!!」

雪乃と月が同時に叫んだ。



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新たな"夜"とぴよぴよの活躍


「……まあ、なんにせよ、夜ちゃんが戻ってきたのは助かるわ。」

雪乃が胸を撫で下ろす。


「それに、ぴよぴよさんも……まあ、便利ならいいけど」

月が天井の梁にとまる青いぴよぴよを眺める。


「雪姉様、試しに何か指示してみたら?」

月が提案する。


「……じゃあ、テーブル4番のお客様に、おしぼりを持っていって」


「ぴよぴよ!」

青いぴよぴよは素早くカウンターから おしぼりをくわえ、客席へと飛んでいく。


「……すごい」

雪乃は呆然とする。


「ジパング店も、どんどんおかしな店になっていくわね……」

月がぼそっと呟いた。


夜のバージョンアップと雪乃の抗議



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夜のバージョンアップがもたらすもの


店内が落ち着きを取り戻し、新たな体となった夜の紹介が一段落したところで、花がさらなる爆弾を投下した。


「夜は、バージョンアップで調理スキルが上がってるよ」


「え? じゃあ、厨房の補助もできるの?」

雪乃が期待を込めた目で夜を見る。


「はい、料理の手順を最適化し、効率的な調理が可能です」

夜が淡々と答える。


「頼もしいわ! 人員不足は、これで解消できるかも」

雪乃は心底ホッとした表情を見せる。


「調理スキルは、雪姉様のデータを参考にしてるから、期待できるわよ」

花が自信満々に胸を張る。


「それは嬉しいけど……雪姉様みたいにすぐ疲れて休んだりしない?」

月が意地悪そうな笑みを浮かべながら尋ねた。


「そんなネガティブなデータは、排除してあるから大丈夫」


花があっさり答えた瞬間――


「ちょっと、月! 花!」

雪乃の抗議の声が響く。



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爆笑する店員たち


「だって、雪姉様、よく『ちょっと休憩……』って言ってティータイムに入っちゃうじゃない」

月がくすくす笑う。


「そうそう、そのせいで私たちが大慌てすることもあったしね」

クラリスも同調する。


「なので、夜にはその傾向は組み込んでません」

花がキッパリと言い切る。


「いや、私はそんなに休んでばかりじゃないわよ!?」

雪乃が必死に反論するが――


「ええ、確かに休んでばかりではありませんね。休んでお茶を飲んでる時間も含めてですが」

クレアがさらりとコメントを追加する。


「くぅぅ……!!」

雪乃は真っ赤になって口をパクパクさせるが、言い返せない。


そのやり取りを見ていた店員たちは、一斉に大爆笑 した。



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夜の実力を試す


「と、とにかく! 夜が厨房を手伝ってくれるのなら、試してみましょう!」

雪乃が話を無理やり軌道修正する。


「では、試しに何か作ってもらいましょうか?」

月がニヤリと微笑む。


「では、雪姉様の得意なスコーンを」

花が提案する。


「ふむ……では、夜、スコーンを作ってみよ」

雪乃が腕を組んで指示を出す。


夜は「了解しました」と一言だけ返し、素早く動き始めた。


サクサク、トントン、シャッシャッ……


夜の動きは無駄がなく、正確で、まるで職人のようだった。

ものの数分でスコーンの生地が整えられ、オーブンに入れられた。


「う、うそでしょ……? こんなに手際がいいなんて……!」

雪乃は目を見開く。


「さすが、雪姉様のデータを参考にしてるだけあるわね」

月が感心しながら頷く。


「ただし、ネガティブな部分は排除済み」

花が再び念を押す。


「もう、その話はいいから!!」

雪乃の抗議の声が店内に響き渡った。



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