新たな仲間の勧誘
落ち着いた日常へ
ジパング店の開店当初の騒がしさが嘘のように、今では穏やかな時間が流れていた。
静かに紅茶を淹れる音、スイーツを楽しむ客たちの笑顔――
ようやく雪乃の理想とする 「落ち着いた喫茶店」 が形になってきた。
「オープン時の混雑が嘘のようね。」
雪乃はカウンターで紅茶を淹れながら微笑む。
「これで、やっと一日 3時間の営業 にできるわ。」
彼女にとって 「長時間営業=疲れる」 という最大の問題がようやく解決しつつあった。
そして、ふと考える。
「そろそろ ラルベニア店の再オープン も考えられるわね……。」
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月の指摘
「雪姉様、それはいいですが……再オープンも、また混雑が予想されますよ?」
横で伝票整理をしていた 月 が顔を上げた。
「そ、そうね……」
雪乃は眉をひそめる。
「あの時は 花やヴィクトリア、師匠まで応援 に来てくれたからなんとかなったけど……。」
雪乃は腕を組んで考え込む。
あのカオスな状況を もう一度経験するのは絶対に嫌だ。
「あと1人…… 厨房も接客もできる人材が欲しいところね……。」
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新たな人材探し
「それなら、またヘッドハンティングする?」
月がクスッと笑いながら提案する。
「また?スタードールから引き抜いたクレアちゃんみたいに?」
雪乃は苦笑した。
「あれは特例よ……あそこまでの接客のプロなんて、そうそういないわ……。」
「でも、ジパングに適任がいなければ、また ラルベニア側で探すのも手 じゃない?」
月の提案に、雪乃は少し考えた。
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候補者選び
「……確かにラルベニアの方が人材が集まりやすいけど……」
雪乃は視線を店内のカウンターへ向ける。
そこでは クレア が完璧な接客をこなしながら、忍と弥生と軽快に話している。
ヘッドハンティングが大成功だったことは間違いない。
「……でも、さすがにまたスタードールに行くのは気が引けるわ……。」
「なら、別の店か……それとも 意外なところから探す か?」
「……意外なところ?」
雪乃は月の言葉に首を傾げた。
「そう、例えば 元貴族の使用人とか、冒険者だった人 とか?」
「えっ、そんな人が接客や厨房できるの?」
雪乃は驚く。
「むしろ、接客ができる騎士や使用人って、スタードールよりも強いかもよ?」
月がニヤリと笑う。
「……考えてみる価値はあるわね。」
雪乃はそう呟きながら、新たな人材を求めて ラルベニアへ行く決意を固めた。
新たな夜と青いぴよぴよさん
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花の突然の訪問
ジパング店が落ち着いてきたものの、最近 夜の姿を見かけない ことが雪乃にとって大きな問題になっていた。
夜がいれば接客もできるし、厨房の補助も完璧。何より彼女の存在が 店の安定感 を生み出していた。
「夜ちゃんがいないと厳しいわね……」
雪乃はカウンターでため息をつく。
すると、突然 「きたよ」 という声が響く。
振り向くと、そこには 花が立っていた。
「え? 花?」
月も驚いたように声を上げる。
花が忙しくなってから、ジパング店に顔を出すのは かなり珍しくなっていた。
しかし、問題は 花だけではなかった。
彼女の横に立つ 一人の少女。
いや、少女というより 夜だった。
しかし、いつも見ていた夜より 一回り大きく、頭一つ分背が高くなっている。
「よ、夜ちゃん……よね?」
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夜の"成長"
「成長しました」
夜は淡々と答える。
しかし、魔力で動くホムンクルスである夜が 成長する などあり得ない話だった。
「はぁ? どういうこと?」
雪乃が思わず聞き返す。
「新しい筐体にプログラムとメモリーを移した」
花がさらりと説明する。
「……それって、要するに体を変えたってこと?」
月が困惑気味に尋ねる。
「そういうこと。前の体より、より人間らしい動作が可能になったし、戦闘能力も強化されたよ」
花が さらっととんでもないことを言う。
「いや、そんな簡単に言わないでよ!」
雪乃がツッコミを入れる。
「花、王宮の仕事で忙しいのではなかった?」
月が疑問を口にする。
「うん、忙しいから、合間にちょこちょこと作った」
「……ちょこちょこでできることなの?」
月と雪乃が 同時に ツッコミを入れた。
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新たな仲間:青いぴよぴよ
「あと、この子も」
そう言うと、花は ポシェットから青い小鳥を取り出した。
「ぴよぴよさんジパング店バージョン、青いぴよぴよさん」
花が手を離すと、青いぴよぴよさんは ひらりと飛び立ち、天井の梁にとまった。
「……まさか、これも花が作ったの?」
月がじっと小鳥を見上げながら尋ねる。
「うん。ジパング店専用のAI搭載。雪姉様の指示がなくても、適切な接客アシストをするよ」
「……ちょっと待って」
雪乃は頭を抱える。
「つまり、夜の新しい体と、青いぴよぴよさんを、王宮の仕事の合間に"ちょこちょこ"作ったってこと?」
「そうだよ? なんでそんなに驚くの?」
花がきょとんとした顔で答える。
「驚くに決まってるでしょう!!」
雪乃と月が同時に叫んだ。
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新たな"夜"とぴよぴよの活躍
「……まあ、なんにせよ、夜ちゃんが戻ってきたのは助かるわ。」
雪乃が胸を撫で下ろす。
「それに、ぴよぴよさんも……まあ、便利ならいいけど」
月が天井の梁にとまる青いぴよぴよを眺める。
「雪姉様、試しに何か指示してみたら?」
月が提案する。
「……じゃあ、テーブル4番のお客様に、おしぼりを持っていって」
「ぴよぴよ!」
青いぴよぴよは素早くカウンターから おしぼりをくわえ、客席へと飛んでいく。
「……すごい」
雪乃は呆然とする。
「ジパング店も、どんどんおかしな店になっていくわね……」
月がぼそっと呟いた。
夜のバージョンアップと雪乃の抗議
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夜のバージョンアップがもたらすもの
店内が落ち着きを取り戻し、新たな体となった夜の紹介が一段落したところで、花がさらなる爆弾を投下した。
「夜は、バージョンアップで調理スキルが上がってるよ」
「え? じゃあ、厨房の補助もできるの?」
雪乃が期待を込めた目で夜を見る。
「はい、料理の手順を最適化し、効率的な調理が可能です」
夜が淡々と答える。
「頼もしいわ! 人員不足は、これで解消できるかも」
雪乃は心底ホッとした表情を見せる。
「調理スキルは、雪姉様のデータを参考にしてるから、期待できるわよ」
花が自信満々に胸を張る。
「それは嬉しいけど……雪姉様みたいにすぐ疲れて休んだりしない?」
月が意地悪そうな笑みを浮かべながら尋ねた。
「そんなネガティブなデータは、排除してあるから大丈夫」
花があっさり答えた瞬間――
「ちょっと、月! 花!」
雪乃の抗議の声が響く。
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爆笑する店員たち
「だって、雪姉様、よく『ちょっと休憩……』って言ってティータイムに入っちゃうじゃない」
月がくすくす笑う。
「そうそう、そのせいで私たちが大慌てすることもあったしね」
クラリスも同調する。
「なので、夜にはその傾向は組み込んでません」
花がキッパリと言い切る。
「いや、私はそんなに休んでばかりじゃないわよ!?」
雪乃が必死に反論するが――
「ええ、確かに休んでばかりではありませんね。休んでお茶を飲んでる時間も含めてですが」
クレアがさらりとコメントを追加する。
「くぅぅ……!!」
雪乃は真っ赤になって口をパクパクさせるが、言い返せない。
そのやり取りを見ていた店員たちは、一斉に大爆笑 した。
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夜の実力を試す
「と、とにかく! 夜が厨房を手伝ってくれるのなら、試してみましょう!」
雪乃が話を無理やり軌道修正する。
「では、試しに何か作ってもらいましょうか?」
月がニヤリと微笑む。
「では、雪姉様の得意なスコーンを」
花が提案する。
「ふむ……では、夜、スコーンを作ってみよ」
雪乃が腕を組んで指示を出す。
夜は「了解しました」と一言だけ返し、素早く動き始めた。
サクサク、トントン、シャッシャッ……
夜の動きは無駄がなく、正確で、まるで職人のようだった。
ものの数分でスコーンの生地が整えられ、オーブンに入れられた。
「う、うそでしょ……? こんなに手際がいいなんて……!」
雪乃は目を見開く。
「さすが、雪姉様のデータを参考にしてるだけあるわね」
月が感心しながら頷く。
「ただし、ネガティブな部分は排除済み」
花が再び念を押す。
「もう、その話はいいから!!」
雪乃の抗議の声が店内に響き渡った。
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