ぴよぴよさんの留守番
雪の庭 ラルベニア店 は、しばらく休業していたが、ついに再オープンの日を迎えた。
店の扉を開け、久しぶりに足を踏み入れた雪乃たちを迎えたのは、店内の天井の梁にじっと佇む ぴよぴよさん だった。
「おかえりなさいませ、雪の庭の店員の皆様!」
……とでも言いたげに、ぴよぴよさんは 元気よく羽ばたき、店員たちの周りを嬉しそうに飛び回る。
「ただいま、ぴよぴよさん」
雪乃が優しく微笑むと、ぴよぴよさんはさらに勢いよく羽ばたき、雪乃の頭の周りを旋回し始めた。
「えっと……ぴよぴよさん、留守番ありがとう。でも、そろそろ、頭の周りを飛ぶのはやめて……」
しかし、ぴよぴよさんはすぐにはやめず、名残惜しそうに何度か旋回してから、ようやく天井の梁へと戻った。
「忠誠心の塊ですね」
クレアが感心したように言う。
「でも、あんなに愛される店長ってすごいと思います」
クラリスが微笑む。
「ぴよぴよさん……こんなに懐かれていたとは……」
雪乃は少し感動しながらも、ようやく深呼吸し、店の前に立った。
雪の庭、再オープン!
「それじゃ、お店を開けるよ」
月が宣言し、店員たちがそれぞれ準備に入る。
月が厨房でオーブンの火を調整し、クレアとクラリスが店内を整える。シモーヌは入り口でお客様を迎える準備をしている。
そして、月が大きく扉を開いた。
「長らくお休みさせていただきましたが――」
「喫茶店『雪の庭』、再オープンです!」
その声とともに、待ちわびたお客様たちが次々と店内へと入ってきた。
「やっと再開したのね!」
「ここのスコーンが食べたかったんだ!」
「ジパング店には行けなかったけど、やっぱりラルベニアの雪の庭が好き!」
次々と寄せられるお客様の声に、雪乃は改めてこの場所の大切さを実感する。
「お待たせしました、皆さん!今日は特別に、新作スイーツもご用意していますよ!」
その言葉に、店内の雰囲気は一気に明るくなった。
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ラルベニア店、再オープンと夜の“成長”
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常連客の気遣いと、店の温かさ
雪の庭 ラルベニア店 は、久しぶりの営業にもかかわらず、大盛況だった。
だが、それは決して 混雑しすぎることなく、スムーズに運営されていた。
その理由は、この店が常連客に愛されているから だった。
「お嬢さん、今日は空いてるかい?」
「すみません、少しお待ちくださいね。でも、満席になったら、スタードールさんでお待ちいただけると助かります」
そう、この店の常連たちは 雪乃が疲れて閉店してしまうことを知っている。
だからこそ、あえてスタードールで待機し、混雑を調整してくれていた のだ。
「やっぱり、この店が落ち着くのよね」
「でも、雪乃店長の体力の限界を超えさせたら大変だからな」
店の運営すら客が考慮してくれる――それこそが、雪の庭が愛される理由だった。
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新スタッフの驚きの転職
そんな中、再オープンを迎えた店内では、常連客の 驚きがもう一つあった。
「あれ?お姉さん、前スタードールにいなかった?」
「はい、こちらに転職しました」
そう答えたのは、新スタッフの クレア・アーシェン。
「ええっ!?スタードールの接客チーフだったよね!?」
「まさか、雪の庭に引き抜かれるとは……!」
驚く常連たち。
なにせ、スタードールと雪の庭は ラルベニアの二大人気喫茶店 だったのだ。
「だって、労働条件が圧倒的に良かったんですもの」
「給料倍、労働時間は半分……そりゃ勝てないわ」
「店長……それって経営的に大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。私は、ちゃんと経営者としてやってるわ。」
雪乃はそう言いながら、(たぶん、たぶんね……) と心の中で呟いた。
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夜の“成長”に騒然!?
そして、店内でさらに 騒然とする出来事 が起こる。
「……え?夜ちゃん?」
「あれ?夜ちゃん、大きくなった?」
常連客たちの目に映ったのは、かつて小学生くらいだった夜が、中学生くらいの少女に成長している姿だった。
「ええっ!?この短期間でそんなに!?」
「いつの間に……?」
客たちは驚き、スタッフたちも戸惑いを隠せない。
しかし、夜本人はいつも通り、紅茶を運びながら、さらりと言い放つ。
「成長期なんです」
「成長期!?そんな急激に!?」
「いやいや、ちょっと前まであんなに小さかったのに……!」
店内がざわつくが、夜は気にする様子もなく、仕事をこなしている。
「まあ、成長期なら仕方ないよな……」
「確かに……人によっては急に背が伸びることもあるしな……」
客たちは無理やり納得し、会話を続ける。
客たちは 夜を普通の人間だと思っている。
そのため、店側も「夜は普通の女の子」として扱うしかなかった。
「成長期かぁ、羨ましいな……俺なんて中学で成長止まったのに……」
「そういうものですよね」と夜。
それを聞いた雪乃は、
「(……いや、違うから!!)」と心の中で叫んだ。
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ラルベニア店、順調な再出発へ
こうして、雪の庭 ラルベニア店 は、順調に再オープンを果たした。
常連たちの気遣い、優秀な新スタッフ、驚きの成長(?)を遂げた夜。
だが、雪乃は頭を抱えていた。
「……なんか、私の目指す“落ち着いた喫茶店”って、違う気がするのよね……」
しかし、その顔はどこか楽しそうだった。
この喫茶店は、今日も愛され、これからも騒がしく、温かく続いていく。
第47話:転移門の向こうから――小さいままの花!?
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突然の歓声に戸惑う花
転移門が開くと、そこから 花が姿を現した。
その瞬間、店内は 歓声 に包まれた。
「おおっ!花ちゃんは小さいままだー!」
「よかった!花ちゃんだけは変わってない!」
「夜ちゃんが急に大きくなったから、花ちゃんまで成長してたらどうしようかと思ったよ!」
「ええっ?なに?なに?なにーっ!?」
予想外の反応に 花は目を丸くして、周囲を見回す。
「ちょっと、どゆこと!?なんでそんなに喜ばれてるの!?」
花が戸惑っていると、常連客の一人が 真剣な顔 で語り始めた。
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常連たちの“成長ショック”
「いや、だってさ……夜ちゃん、めちゃくちゃ成長したじゃん?」
「そ、そうですね……成長期らしいですけど……」
「成長期って言っても、たった数週間で小学生から中学生くらいに急成長するなんて……そんなことある!?」
「たしかに……俺たちは騙されないぞ……って思ったけど、夜ちゃんは普通に接客してるし……。」
「でも、その点、花ちゃんは安心感ある!変わらず小さくて可愛いままだ!」
「ええぇ……なんか複雑……。私、そんなキャラじゃないんだけど……。」
「いやいや、花ちゃんはこのままでいてくれよ。」
「“永遠の天才少女”って感じで、いいじゃん!」
「俺たちの希望だよ!」
「ちょっと待て!勝手に希望にするな!」
思わぬ方向に話が進み、花は 両手をバタバタと振って 全力で抗議した。
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スタッフたちの反応
一方、店の奥では、雪乃と月がこっそり話していた。
「……なんか、花ちゃんのイメージがどんどん固定化されてるわね。」
「本人が意図しないまま、“小さいままの天才”になってるね……。」
「まぁ、事実、花は昔からあんまり背が伸びてないし……。」
「というか、花ちゃんって成長期まだ終わってないよね?」
「うーん……でも、花がもし本当に成長したら、今度はお客さんがショックを受けるかも……?」
「夜ちゃんのときみたいにね……。」
そう、夜が突然成長して 常連客がパニックになったばかりだった。
その経験を考えると、花まで急に背が伸びたら 騒動になりかねない。
「ま、まぁ……花ちゃんはこのままでいいんじゃない?」
「うん、うちの店は、みんなキャラが濃すぎるし、バランス的にもいいかもね。」
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花の“逆襲”宣言!?
しかし、そのやりとりを 花本人はしっかり聞いていた。
「……ふふふ、私だって成長するかもしれないのに、みんな好き勝手言ってくれるじゃない。」
花は ニヤリと不敵な笑み を浮かべると、腕を組んで 大胆な宣言 をした。
「いいわ、私だっていつか、夜みたいに“成長”してみせるわ!」
「お、おう……?」
「期待してる……?のかな?」
「ふふふ、私が大人になったら、みんな驚愕するわよ!」
そう言い放つ花だったが――
「あれ?でも、成長したら、お客さんたちにガッカリされる……?」
「……」
「うわぁ、どうしよう!?私、このままでいたほうがいいの!?」
思考が 迷走し始めた 花。
そんな様子を見た雪乃と月は 肩をすくめて 苦笑するのだった。
「花ちゃんは、このままがちょうどいい気がするわね……。」
「うん、本人が悩むことじゃないと思うけどね……。」
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そして、雪の庭は今日も賑やかに――
こうして、転移門を使って登場した花は 思わぬ人気 を得ることになった。
だが、それが 本人にとって良かったのかどうか は……まだ分からない。
だが、そんなことは気にせず、雪の庭は いつも通り、賑やかに営業を続けるのだった。