その日、雪の庭 ジパング店 の扉がゆっくりと開かれた。
優雅な立ち姿のまま店内へと歩み入ったのは、ジパング第六王女・夢姫 だった。
「いらっしゃい、夢。珍しいわね。」
カウンターの奥で紅茶の準備をしていた雪乃 は、顔を上げて微笑みながら迎える。
「雪姉様こそ、いつまでこんな“喫茶店ごっこ”をなさるのですか?」
夢は ため息交じり に言いながら、店内を見渡した。
「ごっこって……」
雪乃は苦笑しながら、ティーポットを取り出し、手慣れた手つきで湯を注ぐ。
「ご自分が第三王女 であることをお忘れですか?」
「……忘れてはいないけど。」
「姉様、ご自分がどれだけ政治的影響を持つか、お考えください。」
夢は、品のある仕草で椅子に腰を下ろし、静かに紅茶が淹れられるのを待った。
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南蛮帝国の話
「はいはい、お説教はその辺にして。それより、この前まで南蛮帝国に行っていたのでしょう?その話を聞かせてほしいわ。」
雪乃が 話題を変えるように 言うと、夢は 少しだけ表情を緩めた。
「友好国に興味を持たれるのは良いことですわね。」
差し出された紅茶 の湯気をふっと吹き、香りを楽しみながら夢は語り始める。
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「南蛮帝国は、ジパングとはまったく異なる文化を持つ国です。」
「基本的に中央集権の帝政国家 であり、皇帝が絶対の権力を持っています。しかし、近年では貴族層と商業都市 が力を持ち始めており、内部での政治的なバランスが変わりつつあります。」
「なるほど、ジパングとはまた違った統治形態ね。」
雪乃は興味深そうに頷く。
「ええ、さらに、南蛮帝国の文化は非常に多様で、交易を通じてさまざまな民族や思想が融合しています。そのため、街を歩けば異なる言語や服装の人々が混在していて、活気に満ちていますわ。」
「ふむふむ。食文化はどう?」
「さすが雪姉様、まずそこを聞かれますのね。」
夢はクスリと笑いながら続ける。
「食文化はとても豊かです。スパイスを多用した料理が特徴的で、魚介類と果物を組み合わせた料理などもあります。紅茶文化も発展しており、多種多様な茶葉が存在します。雪姉様が興味を持たれそうなお茶 もたくさんありましたわ。」
「それは興味深いわね……。」
雪乃は 目を輝かせる。
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南蛮帝国のスイーツに関心を持つ雪乃
「特に、南蛮帝国のスイーツは独特 です。」
「ヨーグルトを使ったケーキや、花のシロップをかけた焼き菓子、スパイスを効かせたクッキーなど、ジパングやラルベニアでは見られないもの が多いですわ。」
雪乃の目が さらに輝きを増した。
「へぇ……それは面白そうね。」
「姉様、まさか……」
「違うわよ。」
雪乃は さらりと否定する。
「もう二店舗経営 してるんだから、これ以上手を広げるつもりはないわ。でも、新しいスイーツには興味があるの。」
夢は じっと雪乃を見つめる。
「……本当に、お店を増やすつもりは?」
「ないない。お店を増やしたら、忙しくなってお茶を飲む暇がなくなるじゃない。」
「……そこですか。」
呆れたように ため息をつく夢。
雪乃の "優雅な怠惰" は、どこまでも貫かれるのだった。
--第50話:南蛮帝国視察計画!
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雪の庭 ジパング店
「知りたい!詳しく南蛮帝国のスイーツについて!」
雪乃は瞳を輝かせながら宣言した。
その瞬間、店内の空気がピシッと張り詰めた。
「雪姉様!まさか、南蛮帝国に行くなんて言わないよね?」
月が鋭い視線で睨みつける。
「行きたい。知りたい。」
即答する雪乃。
「ダメです!!!」
店員全員が 一斉に大声で反対した。
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大反対の嵐!
「南蛮帝国は、ラルベニアなんかよりはるかに遠いのですよ!何ヶ月もかかるんですよ!その間、お店をどうするつもり!?」
月が声を荒げる。
「……か、わかったわよ。お店もちゃんとやる。閉店後ちょっと覗いて来るだけならいいでしょ!?」
雪乃は渋々譲歩したつもりだった。
「雪姉様!何ヶ月もかかるほど遠いって言ったよね!?話聞いてた!?」
「月こそ、忘れてない?あれを。」
雪乃が指差したのは、ラルベニアとジパングをつなぐ『どこでも転移門』だった。
「……は?」
月は絶句した。
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転移門を南蛮帝国につなげる!?
「それってつまり……」
月が 顔を引きつらせながら 言葉を続ける。
「南蛮帝国にも転移門を作るってこと!?」
「そうね。あれがあれば、何ヶ月もかけて旅する必要なんてないわ。」
涼しい顔で答える雪乃。
「無茶言わないでください!!」
店員全員がもう一度声をそろえて反対した。
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そこに現れる花
「ねえ、花に頼めば、何とかしてくれると思うの。」
その言葉が口をついた瞬間、
まるで呼び出されたかのように、店の扉が開いた。
「転移門を南蛮帝国につなげたいって?」
花が、唐突に現れた。
「なんで知ってるの!?」
月が驚く。
「夜から連絡があった。」
「雪乃様が望んでるようなので連絡しました。」
涼しい顔で答える夜。
「新しい転移門を用意するよ。汎用形。」
さらっと言い放つ花。
「汎用形?」
雪乃が疑問を口にする。
「ここのは、ラルベニアの雪の庭の店内に固定してるけど、汎用形は、行先を入力すればどこにでもつながるタイプ。」
無制限の転移門!?
「え、つまり……どこにでもつなげられるってこと?」
「そう。」
あっさりと答える花。
「なにそれ、チートアイテムじゃない……」
月が呆れる。
「さすがに、初回の転移には座標のセットが必要だけどね。でも、一度セットすれば、保存してボタン一つで瞬時に移動できる。」
「……これ、南蛮帝国どころか世界中どこにでも行けるってことよね?」
「うん。でも、行ったことのない場所にいきなり繋ぐのは危険だから、あらかじめ視察して安全なな場所を調べてその座標を登録する必要があるけど。」
月の懸念
「花、ちょっと待って!そんなものを作ったら、悪用される可能性があるんじゃない?」
「だから、アクセス権を持つ人間しか使えないようにしてるよ。」
「……なんか、どんどん未来技術が実装されていってる気がするんだけど。」
月が頭を抱える。
「未来技術?魔法技術だよ」
花が、答える。
転移門の最終調整
「じゃあ、明日までに完成させるね。」
「は!?明日!?」
「作るの自体は簡単だよ? 実はここのゲートも基本設計はおなじ。別な座標を入力できないようロックしてあるだけなの」
雪の庭 ジパング店・二階
「ただ、向こうに転移門の扉を置きっぱなしってのは、トラブルのもとだから、
あちらに到着して扉を閉じると消えるようにした。」
花がさらっと言い放つ。
雪乃と月は、その言葉に目を見開いた。
「え……?そんなことできるの?」
「できるよ。」
花が当然のように答える。
「……もう、驚かないわよ。」
雪乃が深いため息をつくと、月も同じように肩を落とした。
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帰還方法も万全?
「じゃあ、帰ってくるときはどうするの?」
月が疑問を投げかけると、花は天井の梁を見上げた。
「青ぴよさん!」
花の呼びかけに応じ、天井の梁から青ぴよぴよさんがひらりと舞い降りる。
「この子を一緒に連れて行って、帰還する時は、この青ぴよぴよさんに『帰還』って伝えて。」
「……え?」
雪乃は 思わず聞き返す。
「青ぴよさんが帰還の意思を受け取ると、それを夜が受信して、こちらから転移門を開く仕組みになってる。」
「……はあ。」
雪乃は理解するのを諦めたように、がっくりと肩を落とす。
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ついに準備完了!
「これで、いつでも南蛮帝国に行けるね。」
涼しい顔をする花と夜。
「もうツッコむ気力もない……。」
雪乃と月は、呆れながらため息をつくのだった――。
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