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第2話 お見合いが終わって。

 奈々の部屋はピンクと白でまとめられていて、ベッドの上に猫やうさぎのぬいぐるみが置いてある可愛らしい部屋だ。よく遊びに来るから慣れているはずなのに、あまりにも可愛らしくて何だかくすぐったい気がする。ここに来る途中で買ってきた缶ビールを渡すと、奈々はキャラクターもののエプロンを放って喜んだ。二本を残して冷蔵庫にしまうと、キッチンから皿をいくつか運んでくる。どうやら料理を作ってくれていたようだ。


「あかり、ワンピースがシワになるといけないから、私の部屋着貸すね。今日はゆっくり出来るんでしょ?」

「ゆっくり出来るけど、ワンピースのシワなんかどうでもいいから、部屋着はいいよ」

「いいから着替えて。シワはどうでもよくても、着慣れないワンピースじゃくつろげないんじゃない?」

「まあ、それはそうだね。じゃあ、部屋着借りるよ」


 やわらかなピンク色の生地の可愛らしい部屋着を着る。ふんわりと優しい柔軟剤の香りがした。ワンピースも着慣れないけれど、こんな可愛らしいデザインの部屋着も着慣れない。けれど、ワンピースよりは楽なので、貸してくれた奈々に感謝だ。ワンピースはハンガーに掛けてもらって、私はテーブルにつく。そこには料理上手な奈々の手料理が並んでいた。お腹の空いていた私は取り敢えず奈々と乾杯をして、揚げたての春巻きにかぶりつく。


「あかり、お見合いお疲れさま。で、いい男だったの?」

「おじさんから聞いてるでしょ。清潔感はあるものの、それ以外褒めるところはなかったよ。会話は成立しないし」

「うん、あかりの好みではなさそうってことくらいは聞いてるかな。会話が成立しないってどういうこと?」

「一方的な質問ばっかで、答えても話を広げることがなくて、何か面接みたいだったよ」

「せっかく、こんなに可愛くおしゃれしたのに、面接だったのはちょっと辛いね」

「一応、おばさんの持ってきた縁談だから、失礼のないように気合い入れたんだよ。わざわざワンピースまで買ってさ。それがこれだもんね」


 奈々はそっかといいながら、小皿にエビチリを取り分けてくれた。ちょっと辛めの大人の味わいのエビチリである。私が一本目のビールを半分飲んだところで、奈々が二本目のビールを取りにいく。決して私がゆっくり飲んでいるわけではない。奈々のペースが速いのだ。しかも、ほとんどつまみを食べない。いわゆるカラ酒である。だから、テーブルの上の料理はほぼ私のためのものだ。奈々はぐびぐびとビールをあおると、ほうと息を吐いた。


「目的としては好かれるよりも、嫌われたかったのよね。上手く嫌われることは出来たの?」

「うん。普通に趣味聞かれてギャンブルって答えた時点で引いてたし、守護霊の話をしたら真っ青になって帰っていったよ」

「それは、成功だね。胸張って趣味がギャンブルって答えるのがあかりらしいね。守護霊の話をいきなりするのはちょっと可哀想かも」

「決め手が欲しかったからね。ギャンブルならびっくりするだけで、許容する可能性も微妙にあるじゃない。けど、突然守護霊がとかいい出した方が危ない女に見えるでしょ」

「今頃おばさんにお断りの返事が来てるわね」


 ありがたい話である。この縁談はこちらから断りづらかったから、断ってくれるならこの上なく嬉しい。ちょっと辛めの麻婆豆腐を食べながらにやついてしまった。奈々は市販の麻婆豆腐の素などは使わないので、辛みや塩味も大体私の口に合わせてくれている。しかし、お酒のあてというよりはご飯のおかずにちょうどいい。春巻きもエビチリも、この麻婆豆腐も食べているとごはんが欲しくなる。と思っていたら、奈々がごはんを持ってきてくれた。


「あかりはごはん食べながら飲むのよね。ビールも持ってきたよ。そろそろ飲み終わるでしょう」

「ありがとう。奈々の作る料理はごはんが食べたくなるね。毎回作ってくれてありがたいけど、太る」

「それはありがとう。そうだ、守護霊の話をしたみたいだけど、何かうちの守護霊ってちゃんといるのかな。あんまり気配がしないんだけど」

「うん、今はそばにいないね。守護霊っていってもいつもそばにはいないよ。あっちの世界も忙しいらしいから。でも、困ってるときとか弱ってるときはそばにいるから、安心して」


 奈々は私ほどではないが霊感が強いので、守護霊の気配を感じ取れるのだった。たぶん、珍しい部類の人間である。けれど、私の周りは何故だか霊感の強い人が多くて、そんなに珍しい感じはしない。守護霊の話も普通にするし。本当ならば守護霊の話は普通にしないものなのだろう。今日会った男の反応が普通なのだと思う。ちなみにうちの守護霊は今はそばにいない。


「そうだ。智哉くんがこっちに帰ってくるのよね。久しぶりだよね、智哉くんに会うの」

「え、智哉がこっち来るの、いつ」

「いつだったかなあ、明後日くらいって聞いたよ。それもこっちに来るんじゃなくて帰ってくるの」

「ということは、こっちに住むってこと?」

「そうそう。あかりってば幼なじみなのに何も知らないのね。智哉くんのお母さんから何も聞いてないの?」

「うん、聞いてない。ていうか、奈々は誰から聞いたの」

「悠里くんから」


 へえ、智哉こっちに帰ってくるんだ。織部智哉は私の幼なじみで、悠里というのは智哉の弟である。悠里とは仲がいいが、智哉がこっちに帰ってくる話などしていただろうか。悠里が話さなかったのか、私が覚えていないのか。しかし、智哉は何でわざわざ都会に出たのに、こんな田舎に帰ってくるんだろう。都会の生活に慣れたら田舎の生活なんてつまらないだろうに。結婚して田舎でのびのび子育てをしたいとかなら、理由としてはわかるけれど、智哉が結婚したという話は聞いたことがない。流石に結婚くらいのビッグニュースなら覚えているだろう。


「楽しみだね。そうだ、智哉くんがよければ飲み会とかしない?」

「飲み会かあ、楽しそうだね。最近、奈々と飲むか悠里と飲むかだから」

「そうだね。智哉くんと飲むなら、悠里くんも誘ったら楽しそうだよね」

「悠里もねえ。じゃあ、誘ってみるか」

「わあ、楽しみ」


 楽しみはいいけど飲み過ぎないようにしてくれればいいんだけれど。奈々はどうも飲み過ぎてしまうことが多い。飲み会の場所はどこにするのかは、智哉が来てからということで。そもそも智哉が飲み会に来てくれるとは限らないし。まあ、断ることはないのだろうけど。

 それから私たちはさんざん飲んだ。そのまま奈々の家に泊まり、朝は二日酔いで二人して具合が悪くなったのだった。

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