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第6話 みんなで飲み会。

 飲み会当日。あゆみは急用が入って欠席となった。酷く残念がっていたが、どうしても外せない用事らしく泣く泣く諦めたようだ。あゆみは小さな頃から智哉に憧れていたので、参加したかったのだろう。奈々は荷物が多かったからか悠里に送ってきてもらったらしい。美味しそうな料理と酒を並べて、奈々は満足げだ。奈々の手料理が食べたいといっていた悠里は、それ以上に満足げである。智哉は少し遅れてやってきた。


「わあ、智哉くん久しぶり。すっかり大人の男になったわね」

「奈々も高校のときとはずいぶん変わったね」

「智哉、それはあの頃と違って奈々が化粧をしているからだよ。高校の時はみんなすっぴんだったじゃん」

「あかり、それじゃあ私の化粧が濃いみたいに聞こえるわよ。そんなに化粧は厚くないから」

「化粧が厚かろうがすっぴんだろうが、奈々さんは綺麗だよ」

「ありがとう、悠里くん」


 智哉はウーロン茶で、他三人はビールを片手に乾杯した。私は一口ビールを飲んで唐揚げをつまむ。下味がしっかりついていて非常に美味しい。悠里は念願の奈々の料理を頬張って、うっとりと目を細めた。智哉も美味しそうに食べている。奈々はそんな私たちを見ながら、缶ビールを飲み干した。何種類か作ってきてくれたのだが、どれもしっかりとした味付けでごはんに合いそうだ。


「ごはん持ってこようかな」

「うふふ、あかりは飲むときでもごはん食べるから、おにぎりも作ってきたよ。智哉くんもお酒が飲めないのなら、食べる方がメインになるだろうし」

「奈々はこういうところは高校の時と変わらないんだね。本当に気が利く。お腹が空いているから、おにぎりは嬉しいよ」

「いやあ、智哉。俺の奈々さんをそんなに褒めるなよ。照れるだろ」

「おいおい、悠里。奈々はあんたのもんじゃないでしょうが。奈々にはちゃんと婚約者がいるんだから、忘れないように」


 悠里はすねたような表情でポテトサラダを食べる。奈々はどうしたらいいのか分からないような顔で笑うと、持ち込んだ焼酎で恐ろしく濃い水割りを作って飲む。焼酎の水割りなのだか水の焼酎割りなのだかが微妙だ。私はおにぎりをかじりながら、この奈々のペースには付き合わないようにしようと思った。久しぶりにみんなで会うのが嬉しいらしく、奈々のペースは早い。奈々のペースに合わせて飲んだら倒れそうだ。智哉は奈々の飲みっぷりに感心して拍手している。


「奈々は婚約者がいるんだね」

「うん、一応ね。智哉くんは彼女おいてきちゃったの?」

「おいてくるような彼女はいないよ。ブラック企業に勤めてたから忙しくて疲れてることも多くて、付き合ってもかまえないことが多かったんだ」

「そうなんだ。それはかまえない智哉くんも辛いだろうし、かまわれない女の子の方も辛いもんね」

「俺は奈々さんをかまうよ」

「だから、もうすぐ人妻になる人を口説こうとするんじゃない。悠里、そもそも今日は土曜日だよ。仕事でしょうが」

「俺、か弱いから」


 奈々と話したいがためだけに仕事をさぼったな。悠里の仕事は夜の仕事なので、まず土曜日に休みになることはない。智哉もアスパラの肉巻きを食べながら呆れている。顔がいいからモテるはずなのに、奈々のことを本気で想っているらしく悠里に彼女はいない。彼女がいないといえば、智哉も彼女がいないのか。この間二人で話したけれど、そこに突っ込んで話してはいなかった。智哉がフリーであるという事実に、私はどこか安心していて、急に我に返る。何で安心しているんだ自分。


「そういえば、あかりは彼氏いないの?」

「いないよ」

「彼氏はいないけどお見合いはしたんだよな。結婚に向けて進めたいっていわれたんだろ。それでどうしたんだ?」

「ちゃんとおばさん通してお断りしたよ。そもそも、おばさんが勧めるから仕方なくお見合いしたんだし断るでしょ、普通」

「そうだね。相手はあんまり会話が成立しないとかいってたもんね。そんなんじゃあ、お付き合いも出来ない。断って正解ね」

「ふうん、あかりがお見合いするとか意外だった」


 智哉にとって、私はどんな女に映っているのか謎だ。お見合いはしない女だと思われているのか。そこの部分は正解ではあるけど。悠里は奈々のことは好きだが、奈々の作る濃すぎる水割りは好みではないらしく、自分で作っていた。私は智哉のグラスが空いてるのを見て、ウーロン茶を注ぐ。びっくりしたように私の顔を見る奈々と悠里。悪かったな。いつも気が利かないからって、そんなに驚くこともないだろう。


「奈々は婚約者がいるのかあ。僕たちの中で一番最初に結婚するんだね」

「まあ、そうなるわね。ちょっと、結婚決めるまでには時間がかかったんだけど、上手くいきそう。旦那様には尽くすつもりよ」

「ああ、俺も尽くされたかった。俺なら奈々さんに苦労はさせないし、絶対に裏切らない自信あるんだけどな」

「まあ、仕事にちゃんといってからいいなよ」

「そういうあかりはお見合い断って、結婚どうするんだよ」

「結婚するつもりは今のところないよ。自分に合う相手がいるとも思えないし、相手に合わせるのは私の性格上ムリ。こんなん結婚出来るわけないでしょ」

「いいと思うけどね。ちゃんと自分の譲れない部分があって。何でも合わせてくる女の子も疲れるよ」


 ということは、智哉は何でも合わせてくるような女の子と付き合ったことがあるのか。それから、私たちはそれぞれの結婚観について語り合った。悠里はひたすら奈々を守りたいというし、奈々は婚約者に尽くすのだという。私は結婚には向かないと主張し続け、智哉だけどうもよく分からなかった。合わせる女が苦手ということは分かったけれど、それ以上のことについてははぐらかされた感じ。彼女はいないといっていたけれど、もしかしたら好きな人をおいてきたのかもしれない。誰かをにおわせているような、そんな雰囲気だった。

 午前一時を回って、奈々がいい感じに出来上がってしまったので、お開きにすることにした。酔っぱらった奈々を一人で帰すわけにはいかないし、今日は泊めようと思っていたのだけれど、奈々はふらふらながらも帰るという。悠里に送ってもらおうかと思ったが、酒を飲んでいるため車の運転が出来ない。そんなとき、智哉が送るといい出した。智哉なら酒は飲んでいないし適任だ。奈々の家を教えて送ってもらうことにしたのだが、何だかもやもやする。真面目な智哉のことだ、何もないと思うけど。

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