約束の時間になって、みんながそろった。料理は奈々の作ってきた分も合わせるとそれなりの品数になる。奈々はいつも通り中華系の料理を作ってきていた。珍しく私の作ったものが並んでいるけど、誰もそれには気がつかない。ということは、少なくとも見た目はあゆみが作ったものと同程度に出来ているのだろう。あゆみがつきっきりで指導してくれたので当たり前かもしれないが。
それにしても、奈々と悠里のいちゃいちゃっぷりにはまいった。二人ぴったりくっついているのだから、見ているこちらはどうしていいのか分からない。智哉を見やると羨ましそうな顔をしている。そうか、智哉もいちゃいちゃラブラブしたいタイプの人間か。
「珍しいね、浅漬け。久しぶりに食べた。このからあげとポテトサラダ、あゆみちゃんが作ったんじゃないでしょ。いつもとちょっと味が違う」
「え、味違うの。おかしいな、いつもと同じはずなんだけどなあ」
「んー、そういえば確かにいつもとはちょっと違うな。おばさんが作ったのか?」
「いや、私が作ったんだけど」
「あかりがこの料理作ったの、全部?」
うなずく私に沈黙して固まる奈々と悠里。智哉だけは美味しいねと食べてくれていた。しかし、どうしてあゆみに教わって作ったのに味が違うんだろう。私にはそこがよく分からなかった。私が作ったものをみんなが食べている。これはほぼ初めての経験だ。中学生や高校生のときに家庭科で作ったときには班のみんなに食べさせたけど、大人になってからは料理そのものをほとんどしていない。何だか、ちょっと不思議な気分だ。
「あかり、このポテトサラダ美味しいよ。このコロッケは?」
「ああ、ポテトサラダが余ったから衣つけて揚げたんだよ。あゆみに教わりながら作ったんだけど、何であゆみが作ったものと味が違うんだろう」
「あゆみちゃんのレシピで作ったのかもしれないけど、味見したのはあかりなんじゃない?」
「基本私かな。でも、あゆみも味見してるよ」
「それはね、きっとあゆみちゃんがあかりの味に合わせたんだと思うよ。違う味っていっても少し違うだけだから」
「時が違うのは気にしなくてもいいんじゃないかな。これがあかりの味なんだよ。僕は美味しいと思うよ」
私は褒められ慣れていないので恥ずかしくなってしまう。奈々は相変わらず濃すぎる焼酎を飲みながら、私の料理を摘む。カラ酒することが多い奈々にしては珍しいことである。悠里は奈々のグラスを確認しながらビールを飲む。私と智哉はごはんを食べながら、それぞれビールとウーロン茶を飲んでいる。
「智哉って、もしかしてお酒飲んだことないとか」
「そんなことはないよ。会社の飲み会とかでは飲まされてたし、飲めないことはないんだよ。ただ、あんまり強くないと思うから、正体不明になるのがいやで飲まないんだ」
「あかりなんかしょっちゅう正体不明になってるぞ」
「悪かったな。あんたの彼女だって毎回正体不明になって記憶とばしてるじゃんよ」
「奈々さんはいいんだよ。俺の天使なんだから」
そうか、智哉は全く飲めないわけではないのか。それなら、一杯くらいどうかと誘ってみてもいいかも。でも、待てよ。もしかしたら、会社の飲み会でいやなことがあって飲まなくなったのかもしれない。それなら、誘うのはよくないのかも。やめておこう。と思ったら、早速奈々が酒をグラスに注いでいた。奈々は気が利くし思いやりもあるいい子なんだけど、酒を注ぎたがるところがあるのだ。特に酒が入ると、その癖が出やすい。
「奈々、やめておきなよ」
「飲めないわけじゃないんだからいいじゃない。一杯だけ一杯だけ」
「あかり、大丈夫だよ。飲み過ぎなければ具合も悪くならないだろうし」
「奈々さん、流石にこれは濃いよ。もうちょっと薄くしてやってくれないかな」
「あらそう。残念、みんなで一緒に酔いつぶれようと思ったのに」
「うちら三人はいいけど、智哉は巻き込まないでくれないか」
智哉は悠里がかなり薄めた水割りを口にして、わあ久しぶりだと呟いた。その表情はいやそうではなく、楽しそうに見えた。けれど、智哉は表情に出すタイプではないので少し心配だ。智哉が飲んだからか奈々はご機嫌である。
「あかりは智哉くんのことが心配なのね。すっかり彼女してるわ」
「そんな彼女面してるつもりはないよ。ただ心配なだけ」
「智哉、気をつけろよ。あかりは男に距離感が分からないとか扱いづらいとかいわれてきた女だからな」
「そうなの。僕的には距離感が分からないってこともないし、扱いづらいなんて思わないけど」
「それは智哉がまだ私と再会して日が浅いからだと思うよ。そのうち、そういうこといった男の気持ちが分かってくるんだと思う」
私がそういうと、智哉はポテトサラダコロッケを食べながら、そうかなあと首を傾げる。そうなのだ。今まで色々な男と付き合ってきたけれど、だいたい距離感が分からないとか扱いづらいとかいわれてきたのだ。最初にいわれたときはショックだったなあと思い返す。でも、そのあとは私が扱いづらいのは、お前が扱うのが下手なんじゃボケェと思うことにしたのだった。
「女性に対して扱いづらいとか失礼だよね。あかりの場合はちょっと甘えるのが下手で苦手になっちゃっただけだと思うんだけど」
「何それ。何がどうしてそういう解釈になった」
「うーん。あかりは悠里と奈々みたいにべったりくっつくのは苦手そうって思って。あかりの性格上、奈々みたいに男に甘えられないでしょ」
「ああ、分かる分かる。あかりって男といても甘えていくようなタイプじゃないよな」
「だから僕もあんまりくっついてはいかないんだけど。扱いづらいって人は本当にあかりのこと好きだったのかな。僕はあかりの反応見ながら距離詰めたり離れたりするの好きだよ」
「あかり、よかったわね、いい彼氏で。お似合いじゃない」
よくもまあ、勝手に都合のいいように解釈してくれるものだ。智哉だって男なんだからいずれ私の扱いにくさが分かるときがくるんだろう。でも、私の反応見ながら距離詰めるとか、初めてのタイプの男かもしれない。あのたばこ渡したときとかも、ちょっと私がいやだと思ったとき、無理に押しては来なかったな。本当に反応見て距離感保っているのかもしれないな。そう思うと嬉しくなってビールを飲み干した。
飲み会は深夜まで続いた。奈々と悠里は終始仲良さげにくっついていて、私と智哉は微妙な距離感を保ちつつ楽しんだ。