日曜日、天気もいいし暖かいしジンギスカン日和だ。悠里が火おこし担当で智哉が肉と野菜担当、奈々は取り分ける担当である。私はすることがないので食べる担当となっている。あゆみも参加したそうにしていたが、今日初めてのお見合いのため不参加だ。相手がいい男であることを祈ろう。智哉が味付けラム肉ともやし、タマネギ、ニラを焼いていく。程良く火が通ったところでうどんを投入して少々待つ。そして、奈々がそれぞれの皿に取り分け、食べ始める。悠里は火をおこすという仕事が終わったので、後は食べる専門だ。
「あかり、守護霊の件とやらは落ち着いたのか?」
「ああ、それは解決したよ。あれから嫌がらせもないし、落ち着いてるよ」
「ほんと守護霊が嫌がらせなんてするなんてね。大変だったわね。そうだ、あかり。私と悠里くんの守護霊って相性いいの?」
「酷いんだよ。俺は見えてるのに、奈々さん信じてくれないんだよ」
「だって、悠里くんだと自分の都合のいいようにいってそうなんだもの。あかりに聞いた方が確かかなと思って」
「守護霊ねえ」
奈々の守護霊は私たちより少し年上の落ち着いた感じの女性である。一方、悠里の守護霊は中肉中背の若い男性だ。二人は少し離れた場所でこちらを見ながら仲良く話をしている。うちの守護霊たちとは大違いだ。未崎と志緒もこの近くにいるが、未崎が話しかけようとすると志緒が横を向いている。志緒は嫌がらせをしなくなっただけで、私や未崎をまだ認めていないらしい。奈々と悠里の守護霊は私の視線に気がついたのか、こちらに向かって手を振っていた。
「奈々と悠里の守護霊は仲がよさそうだよ。心配しなくていい」
「そっかあ、よかった。心配だったんだ、悠里くんの守護霊と私の守護霊が仲悪かったらいやだなって」
「仲がいいに越したことはないよね。うちの守護霊たちはまだ馴染んでいないみたいだよ。というか、僕の守護霊が拒絶してるね。困るよ」
「いいなあ、守護霊が見えるって。私も見えたらよかったのに」
「いいことばかりじゃないよ。守護霊以外の霊も見えるからね」
「守護霊の話はもういいよ。奈々さん俺のこと信じてくれないし。俺は肉を食べるよ」
奈々に信じてもらえなくて悠里はすねていた。奈々は信じていないわけじゃないよといって悠里に肉を取り分ける。炭水化物大好きな私はうどんを中心に食べていた。味付けラム肉の汁を吸ったうどんが美味いのだ。うどんを多めに用意してよかった。奈々も私の好みをよく分かっていて、うどんを多めに取ってくれる。智哉はバランスよく食べているようだった。奈々は器用にみんなの分を取り分けながら、自分でも食べながらビールを飲む。その指には綺麗な指輪がはめられていた。
「奈々、綺麗な指輪してるね」
「ああ、この指輪ね。綺麗でしょう。実はね、悠里くんにプロポーズされたの」
「悠里、奈々にプロポーズしたのかい。ここのところ、妙に顔が緩んでいるなと思ったらそういうことだったのか」
「お互いに色々準備があるからすぐってわけにはいかないんだけどな。家族にも紹介するつもりだよ。知った仲とはいえ、一応顔合わせはちゃんとやるよ」
「おめでとう奈々。こら、悠里。奈々を幸せにしろよ。奈々を泣かせたら私が締め上げるからな」
「泣かせたりなんかしないよ。誓う」
そうか、奈々は悠里と結婚するのか。前の婚約者と別れてからの展開が激流のようだったな。早い。別れたと思ったら悠里が慰めて、いつの間にか付き合ってて。それで、もう婚約なんだから早いったらない。いちゃいちゃする奈々と悠里を眺めていると、智哉がそっと隣に座った。その表情は穏やかだ。どういう気持ちでいるんだろう。奈々と悠里のことを祝福しているのか、私に何かを求めているのか。奈々にとっては結婚って現実的な話なんだろうなあ。私にとってはまだ遠い話である。だいたい、まだ智哉と特に何も進展ないもんなあ。
「ねえ、あかり。あかりは智哉くんと燃えるような恋してないの?」
「燃えるような、ねえ。何をどうしたら燃えるのかよく分からないよ」
「おいおい、智哉。あかりはあんなこといってるぜ。いいのかよ。せっかく、あかりに会うためだけに帰ってきたのに。もしかして、もう二人の仲は冷めてるとか?」
「冷めてはいないよ。燃えるような恋も憧れるけれど、僕はあかりのことをゆっくり待ちたいんだ。あかりはゆっくり時間をかけないと受け入れてくれないからね」
「そういうつもりはないんだけど。私に会うために帰ってきたってどういうこと?」
「ブラック企業に疲れたのは確かだけど、本当はあかりに会いに帰ってきたんだ。だからこそ、あかりのことは時間をかけてゆっくり大事にしていきたいんだ」
「確かにあかりの場合は時間かけた方がいいわね。短時間で距離詰めようとした相手とはことごとく別れているから」
そうだったっけ。そりゃ、私のことをよく知りもしないくせに好きだの愛してるだのいってくるやつは信用ならないけど。奈々はよく私のことを見てるなあ。智哉もよくそこに気がついたものだ。これなら、もう少し付き合いを深めるのを先延ばしにしてもよさそうかも。正直、自信ないんだよね。私は奈々みたいに料理が出来るわけじゃない。掃除や洗濯もいまいちだ。そんな私が結婚を考えられるわけがない。私はビールを取ろうと手を伸ばす。その手を智哉が取って、指輪をはめた。
「何これ」
「これはまだ婚約指輪じゃないよ。ただのプレゼント。婚約指輪はもっとちゃんとしたのにするから待ってて」
「ふむふむ、このままあかりと智哉くんが婚約して結婚までいくと、あかりは私のお義姉さんになるわけね。よろしくね、未来のお義姉さん」
「ええっ、奈々が義妹なんていやだよ。私より何でも出来るのに、比べられたらいやじゃん」
「いや、うちの母さんはあかりが何も出来ないこと知ってるから大丈夫だぞ」
「それ知られてるのも何かいやだな」
「大丈夫、比べられることはないよ。僕がそんなことはさせないから。僕が必ずあかりのことを守るから」
守るっていわれて悪い気はしないけど、実際問題奈々と私の家事力には大きな開きがあるわけで。もしこの先家族が集まったら、気が利く上に家事力の高い奈々が義妹としているなんて、どう考えても私が浮くじゃないか。いくら智哉が気を使っても私の気の利かないところや家事力の低さは隠せない。はっ。私はどうしてまだ婚約すらしてないのに、結婚後の心配をしているんだ。でも、結婚するなら相手は智哉なんだろうな。智哉以外、結婚相手が考えられない。いつの間に智哉はこんなに私の心の中に入ってきていたんだろう。左手にはめられた指輪にそっと触れる。どうやって知ったのか、サイズはぴったりだ。私は指輪を見つめて智哉とのことを真剣に考えようと決めた。