ランチタイム、私は大きく伸びをして脱力した。仕事がまだ半日残っているかと思うとうんざりする。今日のランチはいつものお弁当ではなく、外に食べに来ている。昨日のレストランのすぐ近くにあるお店だ。奈美が奢ってくれることになっている。
春野菜のパスタを目の前に奈美は気味が悪いくらいににこにこと笑っている。よほど、機嫌がいいのだろう。私はそのテンションについていけなかった。
「あのねあのね、大也さんすっごくいい人なのよ。紳士的だし、お喋りも上手で楽しいし」
「それはよかったね。紳士的ってことは、昨日は何もなかったの」
「うん、お酒飲んだだけ。ちょっと物足りない気もしたけど、それでいいのよね。帰りも最寄り駅まで送ってくれてさ。ほんといい人」
「で、付き合うことにしたの?」
「それはもう少し様子を見てからにしようって。お互いに好きって思ってから付き合わないと傷つくだけだってさ」
手を出されなかったということは、大事な人と認識されたということか。大也さん、そこそこの人には手が早いみたいな話だったし。幸せそうにパスタを頬張る奈美に流せる情報じゃないけど。でも、本当に上手くいってよかった。彼氏がいないときの奈美って、しょんぼりしているか無謀なことをするかで、とてもじゃないが見ていられない。恋をしていないとダメなタイプっているけれど、奈美がまさにそういうタイプだ。
「今日もね、朝からおはようってメッセージ入ってて、少しやりとりしてから来たんだよ」
「もうそんなに仲良くなったんだ。付き合ってるも同然じゃない」
「もえはどうだったの?」
「どうって、駅まで送ってもらったけど」
「それだけ?」
頷くと、何故だか奈美は頭を抱えた。私は奈美と同じ春野菜のパスタを食ちに運んで、その味を堪能する。さっぱりした味で物凄く好みだ。よく噛んでアイスティーで流し込む。やっぱり、ストレートよりミルクを入れたいなと思い、ポーションを手に取ると奈美が止めた。パスタにミルクティーは合わないだろうか。
奈美の肩が震えている。どうしたんだろう。急に体調でも悪くなってしまっただろうか。
「連絡先の交換とかしなかったの?」
「しないよ。する必要ないもの。泰斗さんは大也さんについて来ただけだったし、私も奈美について行っただけだったし」
「もおー。何でもえを連れて行ったと思ってるのよ。いい男連れてくるって言ってたからなのよ。もえ、何年彼氏いないの、五年?」
「そ、五年」
「いい加減彼氏作ろうよ。で、ダブルデートとかしようよ」
いや、そんな力んで喋られても、彼氏作る気はないんだよね。それはたぶん、泰斗さんの方も同じだと思う。何かよく似ている感じだったから。奈美が気を使ってくれるのはありがたいんだけど、いい男が私に合うとも限らないし、まあ放って置いてくれると助かる。奈美はそんな私の考えは分かっているはずなんだけど。それでも奈美は引かなかった。
「泰斗さん、ムリだった?」
「ムリとかじゃないよ、いい人だったし。でも、ダブルデートしたいなら私でなくてもいいでしょ。他に彼氏のいる友だちいるじゃない」
「私はもえと行きたいのよ。彼氏といちゃいちゃするもえを眺めていたいのよ」
「いや、そんなの眺めなくていいから。私のことは取り敢えず置いといて、今はちゃんと大也さんをつかまえなきゃ。大也さんがいいんでしょ」
奈美はそうだけどさと言いつつ、パスタを口に運んだ。そう、奈美が今頑張るべきは私の彼氏作りじゃなくて、自分の彼氏作り。まずはお気に入りの大也さんを落とさないと。あの容姿あの性格なら、いくらでも彼女が出来そうだ。今盛り上がっているうちに落とさないと、後で大変になる。奈美は帰ったら連絡してみると言って、少し冷めたであろうコーヒーを飲んだ。