あれからしばらく。
奈美は大也さんと頻繁に連絡を取り合っているみたいだった。仕事の関係で会えてはいないみたいなのだけれど、それでもだいぶ仲は深まったようだ。毎日のように、ランチタイムに惚気話を聞かされている。今日もたっぷり聞かされて、お腹いっぱいになった。
仕事は相変わらず忙しいが、いつもよりは早く帰れそうだ。
私はいつものように机の上を片づけ、明日の仕事をチェックしてから大きく伸びをする。
「もえ、あのね、お願いがあるんだけど。大也さんにドライブに誘われたのね。よかったら一緒に行かないかなあと思って」
「どう考えても私が浮くんだけど」
「いやいや、大也さんが泰斗さんを誘っておいてくれるって。泰斗さんがいるなら浮かないでしょ?」
まあ、確かに泰斗さんがいるなら、私の存在は浮かないだろう。でも、私がついて行く意味ってあるんだろうか。どうせドライブするなら二人きりの方がいいんじゃないかな。奈美の頼みだし行くけれど。
大也さんたちの方は仕事が終わっているとのことで、すぐに迎えに来るそうだ。奈美は嬉しそうに弾むような足取りでトイレに駆け込み、気合いを入れて口紅を塗り直した。
会社の前まで車が迎えに来ていた。どうやら運転手は泰斗さんのようである。車を降りた大也さんが奈美を後部座席に乗せ、私は自動的に助手席に乗り込むことになった。泰斗さんは私の顔を見ると頭を下げる。相変わらず知的な美形である。私たちが乗り込むと、車は静かに発進した。どこへ向かうのかは告げられていないけれど、取り敢えず安全運転で安心だ。
「泰斗、適当に流してくれ」
「分かったよ、ごゆっくり」
どうやら、泰斗さんに運転を任せて後部座席の二人はゆっくりいちゃつくようだ。それならドライブでなくてもよかったんじゃないだろうか。二人きりでカラオケ屋にでも行っていちゃつけばよかったのに。私がうんざりしていると、泰斗さんは進行方向を見たまま笑った。
「僕たちは僕たちで何か話でもしていた方がいいですね」
「そうですね」
「僕は運転手として呼ばれたんですよ。行き先は任されているんで、もえさんの好きなところに行きますよ」
「私の好きなところ、ですか。と言われても、あんまりドライブしたことがないので、どこへ行ったらいいのか」
「じゃあ、賑やかなところと静かなところ、どちらが好みですか?」
私が静かな方が好みだと答えると、車はゆっくりと左折した。
ちなみに後部座席の方からはきゃっきゃうふふと楽しそうな声が聞こえてくるのだが、私と泰斗さんはなるべくそれを聞かないように話し続けた。話し下手な私を気遣ってか、泰斗さんは話しかけてくれる。
「郊外の公園に向かおうと思うのですが、その前にコンビニで飲み物でも買いますか?」
「そうですね。特に後ろの二人はよく喋っているので、喉が渇くかと思います」
「全くです。もえさんはどんな飲み物が好きです?」
「ミルクティーとか好きなんですけど、最近夜にお茶系を飲むと目が冴えてしまうので飲めなくなりました。水か麦茶ですね。たまにジュース類も飲みますよ」
「なるほど。僕ももえさんと同じような理由でコーヒーが飲めないです。午前中ならぎりぎり大丈夫なんですけどね」
五年彼氏を作ろうとしなかった私は、こうして男の人とちゃんと話したことはなくて、頭の中は軽くパニックになっていた。自然に話せているのかが気になる。泰斗さんが色々話してくれるから助かっているけれど、一つ話題が終わる度に、次なにを話せばいいのかと緊張してしまう。
ちょっと奈美の様子を見てみると、嬉しそうにはしゃいでいる。大也さんと出会うまで元気がなかったから、その姿を見て私まで嬉しくなった。奈美が笑っているならそれでいい。