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第6話 夜の公園。

 コンビニに寄って飲み物を買って、そのまま郊外を走っていく。やがて、辿り着いたのは小さな公園だった。こんな小さな公園によく気がついたなってくらいの。泰斗さんはよくドライブをするのだろうか。全然迷うことなくすんなりここまで来たけれど。

 公園に着くなり、奈美と大也さんは車を降りた。二人の手はしっかりとつながれている。


「もえさんも降りますか?」

「いえ、暖かくなってきたとはいえ、夜は冷えますし。それに、奈美と大也さんが降りたってことは、話したいことがあるのかなって」

「そうですね。車の中では話しにくいこともあるでしょうしね。僕たちは車の中で待機していましょう」


 私はペットボトルの麦茶を飲んで、外を眺める。郊外に来ると家は街中ほど多くない。街灯も多くなくて少し薄暗い印象を受ける。流石に公園内は少し明るいけれど、わずかな遊具があるだけでやっぱり寂しい感じだ。

 泰斗さんは麦茶を飲むのは久し振りですと微笑む。さっきコンビニに寄ったとき、あまり飲みたいものがなかったらしく、私と同じ麦茶にしたのだ。泰斗さんは一つ息を吐いた。


「運転、疲れました?」

「このくらいなら平気ですよ。人を乗せると少し緊張するんですけどね。もえさんは運転しないんですか?」

「私は免許持ってないんです。親にお前はどんくさいから運転には向いてないって言われて、免許を取らなかったんです」

「そうなんですか。それはそれで賢い選択ですよね。ムリに免許を取って事故っては大変ですから」

「ですよね。壁にこするとかならまだしも、他の車にぶつけちゃったらと思うと怖いですもん」


 泰斗さんはふとスマホを取り出した。誰かの連絡でも待っているのかと思ったら、スマホを握りしめたまま落ち着かない様子だ。何かあったんだろうかと思っていると、少し困ったような顔で言った。


「連絡先を交換しませんか?」

「連絡先ですか?」

「ええ、大也からまた一緒に遊ぶときに必要になるかもしれないから交換しておけって言われて。イヤならいいです。ムリに交換してくれとは言いませんから」

「イヤではないですよ。交換しましょう。それにしても、大也さんまた私たちを誘うつもりでいるんですね」

「何人かで遊ぶ方が好きなんですよ。必要なときしか連絡しませんから、安心して下さい」

「それも何ですよね。挨拶くらいはしましょうか」

「分かりました」


 こうして連絡先を交換した私たちは、挨拶をするということにした。連絡先を交換するだけ交換して無言というのも、かなり気まずいなあと思ったのだ。泰斗さんは真面目な人っぽいから、毎日挨拶してくれそう。それはそれで面白いのかもしれない。

 私はスマホを鞄にしまって、ふと寒いんじゃないかと思って奈美たちを見た。

 すると、奈美と大也さんはいい雰囲気で抱きしめ合っていた。どんな話をして、どういう結果に至ったかは想像に難くない。


「僕たち、何を見せられているんでしょうね」

「そうですね。普通に二人で会って告白すればよかったんじゃないですかね。わざわざ私たちの目の前でしなくても」

「証人を作りたかったんですかね。まあ、本人たちが幸せになれるなら、いいですけどね」

「そうですね。あんなに幸せそうな奈美を見たら、文句は言えませんね」


 しばらく抱き合った後、二人は戻ってきた。少し寒そうにしていたので、私は奈美に上着を貸す。寒そうな顔色をしながらも、奈美は幸せそうに笑っていた。大也さんはそんな奈美を温めている。


「私たち、付き合うことにしたの」

「二人ともありがとうな」


 私と泰斗さんは心から祝福した。

 これでもう落ち込んでる奈美を見なくていいのだ。大也さんはきっと奈美を大事にしてくれるだろう。美男美女のなかなかいいカップルなのではないだろうか。

 こういうのを見ていると、恋をするのもいいのかなあと思わなくもない。しないけど。

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