泰斗さんと連絡先を交換して、挨拶くらいはしましょうと言ってからしばらく。毎朝、スタンプと当たり障りのないメッセージのやりとりを続けていた。ずっと朝以外に連絡が来ることはなかったんだけれど、ちょうど退社時間頃に連絡が来た。何かあったのだろうか。私は取り敢えず、月曜の仕事の確認と片づけをしてからスマホを見る。
『もえさん、お疲れさまです。もしよかったら、今日これから二人で出かけませんか?』
二人で出かけませんかということは、奈美や大也さんは関係なくということだろうか。私に何か用事があるのだろうか。私と泰斗さんのつながりは奈美と大也さんくらいだと思うけど。何と返事をしたものかと悩んでいると、後ろから奈美が声をかけてきた。
「もえ、どこかでご飯食べて帰らない?」
「それが、泰斗さんから連絡が来てて、どうしたらいいのかなって思ってて」
「どれどれ。二人で出かけませんかって、いいじゃない。返事返事、今すぐ返事。もしかして、もえは乗り気じゃないの?」
「うーん。二人で会うような仲ではないかなって」
「相手が男だから、変に気にしてるだけじゃないの。それなら友だちのつもりで会ってみたらどうかな。別に泰斗さんのこと嫌いじゃないんでしょ。友だちと遊ぶくらいいいんじゃない?」
まあ、男の人相手だからって身構えちゃった部分はある。奈美と大也さんがらみでこれからも顔を合わせるんだろうし、仲良くしておいた方がいいか。奈美が急いで急いでというので、取り急ぎ分かりましたとだけ返事をする。すると、泰斗さんからの返事がすぐに来た。
『会社の前にいます』
泰斗さん、下で待っているみたいだ。もしかして、私が返事を悩んでいる間、ずっと待っていたのかな。奈美はいっておいでと私の背中を押した。荷物を持ってエレベーターホールへ向かう。私と二人で会いたいなんて、珍しい人だ。面白いことが言える訳じゃないし、見た目ももっさりなのに。泰斗さんは私と友人として会いたいのか、女の子としてみているのか。ちょっとだけ気になった。
会社を出ると、泰斗さんのシルバーの車が止まっていた。その側に泰斗さんが立っている。スーツ姿で、すらりと背が高い。相変わらずカッコいい。泰斗さんはどうぞといって、助手席のドアを開けた。私が乗り込むと静かにドアを閉め、運転席に乗り込む。
「もえさん、お仕事お疲れさまでした。突然連絡してすみませんでした。驚きましたよね」
「ちょっと驚きました。ずっと朝の挨拶だけでしたから」
「そうですね。でも、何だかせっかく連絡先を交換したのにもったいない気がして。もう少し仲良くなっておきたいなあと。迷惑ですか?」
「いいえ、迷惑ではないですよ。せっかく知り合ったんですから、仲良くしたいですよね」
車はどこへ向かうのか。繁華街を抜けていくところを見ると、少し郊外の方へ行くのかな。飲み物を買いましょうかといわれたが、さっきまでさんざん飲み物を飲んでいたので遠慮した。
「いいご飯屋さんを見つけたんですよ。大也は最近奈美さんに夢中で構ってくれないし、一緒に行く人もいなくて。それで、仲良くなる意味も込めてもえさんといったらどうだろうって」
「そうだったんですか。そのご飯屋さん、こんな格好でも大丈夫です?」
「こんな格好って、変な格好はしていないですよ。髪は前にあったときより短くしたんですね」
髪の毛切ったの気がついてたんだ。男の人ってそういうのあんまり気がつかない人が多いっていうけど。少なくとも、前の彼氏だったら気づいてないだろうな。しかし、この服でいいお店ってどんなだろう。相変わらずのよれよれカーディガンなんだけど。こうやって男の人と二人で食事するの久し振りすぎてどうしていいか分からない。困ったものだ。