休日。家でのんびりしていると、奈美が訪ねてきた。玄関でちょっと待っているように伝えて、慌てて散らかしっぱなしの部屋を片づける。いつものことなので、奈美も気にしていない。取り敢えず、昨日食べ散らかした食器だけ台所に片づけ、ゴミを捨ててから招き入れると、いつもより綺麗だねと笑った。
「ご飯食べたかな。一応お菓子と差し入れ持ってきたんだけど」
「ありがとう。何にもやる気がしなくて、ひたすらごろごろしてた」
「そっかあ、そんな予感がしてた。だから私も食べてきてないんだよね」
「何か温めるものとかある?」
「冷凍パスタ。フリーズドライのスープも持ってきたよ」
「分かった。今温めてくるね」
私は奈美から冷凍パスタとフリーズドライのスープを受け取ると、温めに台所へ向かう。ミートソースのパスタはたぶん奈美の。たらこパスタが私のだろう。温めるだけのものは楽でありがたい。普段は一応ちゃんと料理を作っているんだけど、たまには冷凍食品を食べるのもいい。私はパスタにスープを添えてテーブルに並べる。奈美は美味しそうと言って手を合わせた。
「いただきます。もえはたらこパスタでよかったんだよね」
「うんうん。私の好物分かっててくれて嬉しい。でも、今日はデートじゃないんだね。お休みだし、デートでもしてるんじゃないかって思ってたんだけど」
「うーん、土日は忙しいみたい。なかなか誘ってくれないの。ところで、泰斗さんとはこの間二人でご飯食べたんでしょ。どうだった?」
「ホッケ定食と隠しメニューのパフェが美味しかったかな」
奈美はホッケ定食って男女で食べるものじゃないわと言って頭を抱えた。美味しかったんだからいいじゃないと言うと、あんたはそういう子よねと笑う。私はお洒落なレストランとかに連れて行かれるより、定食屋くらいがちょうどいい。奈美はスープを飲んで、何にもなかったのねとため息を吐いた。そういう奈美の方はどうなんだろうと思ったが、私のことを色々言っているくらいだから、そういう余裕があるのだろう。
「メニューはどうあれ、二人で食事する仲になったわけでしょ。いい加減付き合わないの。泰斗さんから言ってこないなら、もえから言ったっていいと思うよ」
「いいよ、男は。私、こんなだし」
「休日にルームウェアで競馬中継見てること?」
「もう、分かってるなら確認しないでよ」
「いいじゃない、競馬が好きだって。何かおかしなこと?」
おかしくはないかもしれないけれど、男の人は競馬好きな女をなかなか受け入れてはくれない。元彼と別れて、一回だけ別の人と付き合おうとしたことがあったけど、競馬好きな部分が受け入れられなくて付き合うには至らなかった。それがトラウマになっていると言えなくもない。競馬好きな女とかないわーって言われたし。
「そもそもよ、もえを競馬にハメたのって元彼でしょ。なら、受け入れてくれる人もいるってことじゃない。競馬やってる人とか」
「競馬の話出来るのとかは憧れるけど、競馬やってる人はちょっと。沼ってたらヤバいもの。元彼と別れた原因が競馬にお金を使いすぎることだったんだから」
「競馬の話は出来るけど、競馬にお金を使いすぎないライトな人なら?」
「そんな都合のいい人いるわけないよ。競馬好きは金使うのよ」
「それこそ偏見でしょ。節度を持って楽しんでる人だっているでしょ、もえみたいに。それがダメなら、競馬好きになるように教育するとか」
私は奈美と競馬中継を見ながら、不毛な会話を繰り返すのだった。男が競馬好きなのと、女が競馬好きなのでは印象が違う。きっと、それを知ったら泰斗さんだって引くだろう。競馬好きになるように教育すればいいと言うが、実際に教育された身としてはそれはしてはいけないことだと思う。奈美はふうんといってお菓子の袋を開けるのだった。少食でもお菓子は別腹なのだ。