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第10話 お酒は程々に。

 今日はいつもの四人で飲みに来ていた。前日から飲みに行こうと誘われていたので、いつもよりはまともな服装をしている。珍しくスカートをはいているくらいだけど。お店はちょっと綺麗めで落ち着いた雰囲気。個人的には居酒屋とかの方が好みなんだけど、大也さんの選んだ店だから仕方がない。

 それにしても大也さんはこうやってみんなで遊ぶのが好きなんだなあ。奈美と二人きりでっていう時間ももちろんあるんだろうけれど、私と泰斗さんも含めてっていうのが結構多い。


「もえさん、泰斗とご飯行ったんだって。で、どうかな、泰斗」

「え、どうって」

「大也、今日はちょっとペース早いよ。奈美さんもそう思いますよね」

「うーん、どうかな。お酒飲める人好きだからなあ。でも、私も気になってるのよ。泰斗さんともえの仲」

「奈美、ダメだよ。奈美もペース早い」


 奈美と大也さんはペース配分を完全に間違ってしまっていた。おかげで早く帰れそうではあるけど、ちょっと心配だ。大也さんがどのくらい飲む人なのか知らないけれど、奈美はそんなに飲める方ではない。潰れてしまったらどうやって連れて帰ればいいんだ。私はグラスのお酒を飲み干して、ため息を吐いた。奈美はそんな私の心も知らず、大也さんといちゃいちゃしている。


「大丈夫だよ。二人が酔い潰れても、僕が送っていくから」

「泰斗さん、もしかして飲んでないの?」

「うん。元々お酒が強い方じゃないからね。大也がこういう調子の時はソフトドリンクにして、運転手に徹するんだよ」

「そうなんだ」


 大也さんは気持ちよさそうに飲んでいて、今日は特別機嫌が良さそうだ。奈美もつられて調子よく飲んでるし、これは後始末が大変そうだな。泰斗さんが素面なのが救いといえば救いか。私が程々にを心がけて飲んでいると、大也さんがどんどんお酒を勧めてくる。ちょっとぽうっとしてきたなと思ったら、大也さんが質問してきた。


「もえさんって趣味は何?」

「えっと、ゲーム、かな?」

「へー、ゲーム好きなんだ。どんなゲームするの?」

「あの、シミュレーションゲーム的な」


 奈美の目が何か訴えかけている。言いたいことは分かっている。せっかくの機会だから、今本当の趣味を明かしてしまえというのだろう。たぶん、今がそのチャンスなんだとは思うけど、嘘は吐いていないんだ。本当にゲームは好きだからよくやるし。競走馬育成ゲームだけど。

 大也さんはゲームが趣味だってさ、と泰斗さんに話しかけている。そういえば、泰斗さんと趣味の話をしたことはなかった。私はそこは地雷なので避けていたけれど。


「そろそろ限界だね、大也。みっともない姿見せる前に帰ろう」

「んー、そうすっか。じゃあ、今日は俺の奢りな」

「いいの、大也さん。何だか、大也さんにお金使わせちゃって。結構高いお酒も飲んじゃったし」

「いいよいいよ。俺さ、この間馬券当てたんだよ。三連単」


 馬券。大也さん、競馬やる人だったんだ。みんなに奢れるくらいの金額の配当って、この間あったレースのどれだろう。この間っていつだ。気になったのはそこだった。ここで酔っぱらった奈美が爆弾発言をする。


「ねえねえ、もえ。私わかんないんだけど三連単って何?」

「いや、私は知らないよ。三連単とか知らないよ。奈美、分かる前提で話すのやめて」

「もえは三連単しないんだ。何だっけ、もえがいつもしてるやつ」

「へー、もえさん競馬やるんだ。面白いよね、競馬。昨日の宝塚記念もさあ」


 ああっ、奈美ってば、奈美ってば。何のために私がその話を避けてきたと思っているんだ。せっかく、泰斗さんをいい人だなって、異性として好きかもしれないと思いかけていたところなのに。全部終わりじゃないか。もういいや。どうなっても。もう知らない。大して飲んでもいないのに、この辺で私の意識は吹っ飛んだ。

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