目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第11話 泰斗さんの趣味。

 ふと、目が覚めた。薄暗い。ここはどこだろう。私は確か飲み屋で意識を失って、それからの記憶がない。眠い目を凝らしてみると、ベッドの上にいるようだった。けれど、自分のベッドでないことは確かだ。私のベッド周りはぬいぐるみだらけのはずなのに、それが一つもない。

 私はベッドを下りてドアの方へ向かう。静かにドアを開けて顔を出すと泰斗さんが座っていた。


「もえさん、目が覚めたんだね。急に眠ってしまったからびっくりしたよ」

「ここは、その」

「僕の家だよ。酔っぱらった大也と奈美さんを送って、もえさんは家が分からないので、取り敢えずここへ」

「そ、そうだったのね。迷惑かけてごめんなさい」

「迷惑じゃないから安心して。水でも飲む?」


 泰斗さんはそう言って立ち上がると、キッチンへ向かった。私、なりゆきとはいえ、泰斗さんの家にお泊まりしてしまったようだ。恥ずかしい。

 そっと見回すと、私の部屋と違って綺麗に整理整頓されている。余りに綺麗な部屋で、私はどうしていいか分からずに、テーブルの側に座る。テーブルの上にはゲーム機のコントローラーが置いてあり、画面を見ると見慣れたゲームの画面が映っていた。これは私の大好きな競走馬育成ゲーム、ダービーランではないか。泰斗さんもこのゲームをやっていたのか。


「はい、お水。何か欲しいものはあるかな。食べたいものがあるなら作るし、お菓子もあるよ。あ、飲んだ次の日ににお菓子はないか」

「私、甘いものでお酒飲めるタイプだよ。今のところお腹は空いてないから、大丈夫」

「もしよかったらチョコのお菓子でよければ食べて。どうしたの、画面見つめて」

「私、このゲーム好きなの」

「もえさんが起きるまでと思ってやってたんだ。いいよね、自分の好きな馬育てられて」


 泰斗さんは子どものように笑う。泰斗さん、私と同じゲーム好きなんだ。ちょっと嬉しいような。そういえば、意識が途切れる前に奈美が私の趣味をバラしてしまったのだった。でも、泰斗さんの様子は変わらない。競馬が好きなのかな。それはそれで元彼の悪夢がよみがえるのだけれど。

 私はチョコのお菓子を摘みながら、レースの様子を眺める。


「待っててね、今終わらせるから」

「私、ゲーム見てるのも好きだよ。もう少し見ていたい」

「分かったよ、ありがとう。じゃあ、もう少し続けるね」

「あの、私ずっと競馬が好きなの隠してたの」

「僕もね、競馬が好きなことはあんまり言わないようにしてたんだ。だから、こうやってもえさんの前でこういうゲームしたりするのはすごく嬉しいんだ」


 何でも、泰斗さんの前の彼女さんは競馬とかに一切興味がなかったどころか、ギャンブルは嫌いと言って話をすることすら嫌がったらしい。結局それが原因で別れたそうだ。私の方は彼があまりに競馬にのめり込みすぎるので別れたというと、辛かったねと言ってくれた。聞けば、泰斗さんは競馬はするけど、そんなに金額は賭けないんだとか。程々に楽しんでる競馬好きの男の人もいるんだと感心した。


「もえさんはどんな馬育ててるの?」

「私は白毛馬の牧場作ってるよ。血統とかはよく分からないけど」

「分かる。僕も種付けは大体適当。血統まで勉強したら沼の底までいくんじゃないかって気がしてさ。そうか、白毛馬の牧場か。僕も新しいデータ作ってみようかな」

「可愛いよ。毎年子どもが産まれるのが楽しみで。白い子が産まれたときは喜びが半端なくて」


 どうやら、泰斗さんも白毛馬の牧場を作るようだ。これでまた話せることが増えたな。私が喜んでいると、泰斗さんは少し寂しそうな顔をした。どうしてだろうと思ったけれど、聞いていいものか分からなかったので、泰斗さんが言ってくれるのを待つことにした。

 泰斗さんはチョコじゃ足りないねと立ち上がり、何か作るよと言う。一応遠慮したのだけれど、実際お腹が空いていたし、お願いしてしまった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?