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第2話 聖女の奇跡



2-1:聖女の祈り――奇跡の演出


王宮で「聖女」としての立場を確立したパミリアは、平穏な朝を迎えつつも、王都に充満する期待と緊張に頭を悩ませていた。窓の外には、彼女をひと目見ようと集まる市民の姿があり、その視線に気付くと、パミリアはため息をついた。


(朝からこの騒ぎ……救世主扱いって本当に大変ね。)


彼女は銀髪を指先で払うと、静かに椅子に腰を下ろし、耳元の通信装置を軽く触れた。


「おはよう、テラ。今のところ問題はない?」


《テラⅣ》:「おはようございます、マスター。王都周辺には異常はありませんが、王国全体に瘴気の影響が拡大しつつあります。早急な対応が必要です。」


「……分かってるわ。」


彼女の手には、聖女の象徴として渡された「杖」が握られていた。中身は帝国の超音波発生装置だが、外見は美しく装飾された魔法の杖そのものだ。


「これが『祈り』の奇跡を演出する道具になるなんてね。」


《テラⅣ》:「未開惑星の文化に合わせた対応としては最適です。技術的干渉を最小限に留めつつ、信頼を得ることができます。」


パミリアは肩をすくめ、再び窓の外を眺めた。――その時、遠くから鐘の音が響いた。



---


王都の広場――聖女の儀式


「聖女様! 王都の人々が広場でお待ちです。」


宮廷の侍女が慌ただしく部屋へやって来た。王が催した儀式――「聖女の祈り」によって、王都の平穏を取り戻す場が用意されたのだ。


「はい、分かりました。行きましょう。」


パミリアは微笑みを浮かべ、聖女らしい気品を持って立ち上がった。広場へ向かう道中、王宮の廊下には貴族や兵士たちが整列し、パミリアの一挙手一投足を見守っている。


「聖女様、どうかこの国をお救いください……!」

「聖女様……!」


(まったく……私が何をしたというのよ。)


そう思いつつも、パミリアは表情一つ変えずに歩き続けた。やがて王都の中央広場が見えてくる。そこには無数の人々がひれ伏し、涙ながらに彼女の到着を待っていた。


「聖女様がお見えになった!」


その声が広場に響くと、人々の歓声が一斉に上がった。


「聖女様! 天の御使い!」

「我らをお救いください!」


パミリアは広場の中心にある祭壇へと向かい、静かに立ち止まった。


(……これも一つの舞台ね。やるしかないわ。)


彼女は手にした杖を高く掲げ、透き通るような声でゆっくりと語り始めた。


「――天にいます偉大なる存在よ。」


人々は息を呑み、その祈りの言葉に耳を傾ける。


「この地を覆う災厄を取り除き、ここに住まう人々に安寧を与えたまえ。」


パミリアは「祈りのポーズ」を取りながら、杖に内蔵された超音波発生装置を起動する。見た目には神秘的な光が杖から淡く放たれ、その光景に人々は心を打たれる。


「おお……聖女様の祈りだ!」

「なんと神々しい……!」


(ただの超音波なんだけど、こうやって演出すれば立派な『奇跡』になるのね。)



---


小さな奇跡――風と花


広場に漂う空気が微かに振動し、同時にパミリアは《テラⅣ》に小声で指示を出した。


「テラ、花の咲く演出を頼むわ。」


《テラⅣ》:「了解しました。周囲の植物に活性化ナノ粒子を散布します。」


彼女が杖を掲げると、広場の端に植えられていた木々が一斉に花を咲かせ始めた。――淡い光の中で、鮮やかな花弁が風に舞う。


「花が……花が咲いたぞ!」

「聖女様の力だ! 天が祝福を与えてくださった……!」


人々の歓声が再び沸き起こる。パミリアは祈りのポーズを崩さず、静かに目を閉じた。


(これでしばらくは人々の心も安らぐでしょうね。)


彼女が演出する「小さな奇跡」は、現地の人々にとって紛れもなく「本物の神聖な力」として映っていた。



---


王の感謝――さらなる期待


儀式が終わると、王がパミリアを王宮へと招き入れ、深く頭を下げた。


「聖女様……。王都の民は皆、あなた様のお力に救われました。」


「お役に立てて光栄です。」


パミリアは優雅に微笑んで答えたが、その表情の裏では冷静に今後のことを考えていた。


(このまま祈りの演出だけで問題を誤魔化し続けるわけにはいかないわね。)


王は続ける。


「聖女様、王都の民だけでなく、周辺の村々でも瘴気と魔獣の被害が増しております。どうか引き続きお力を……。」


(やっぱりそうなるわよね。)


パミリアは静かに頷き、答えた。


「分かりました。王国全体が平穏を取り戻せるよう、できる限りのことをいたしましょう。」


「ありがとうございます、聖女様……!」



---


救世主の仮面と現実


その夜、自室に戻ったパミリアはベッドに腰を下ろし、大きく息を吐いた。


「……救世主の仕事って、本当に疲れるわね。」


《テラⅣ》:「お疲れ様です、マスター。ですが、現地の信頼を得たことは大きな成果です。」


「そうね。でも、これで終わりじゃないわ。」


彼女は手にした「聖女の杖」を見つめながら、静かに呟いた。


「瘴気の原因が分からない限り、この問題は解決しないわ。」


彼女の赤い瞳には、冷静な光が宿っていた。


「次は……瘴気の正体を突き止める必要があるわね。」


王国の人々には「聖女」として崇拝されながらも、その裏でパミリアは静かに現実と向き合っていた。救世主の仮面の下で、彼女の冷静な分析と科学的解決策が、着実に事態の核心に迫りつつあった。


――「聖女の奇跡」という舞台の幕が、ゆっくりと上がり始めていた。



2-2:空気清浄機の奇跡――瘴気の脅威に立ち向かう


王都の中心部にある大広場で「聖女の奇跡」を演出してから数日。人々の信仰と希望は日ごとに高まっていた。しかし、その平和を打ち砕く報告が、再び宮廷に飛び込んできた。


「聖女様、王都西部の地区で瘴気が発生しました!」


慌ただしい兵士の報告に、王宮の空気が一気に張り詰める。謁見の間では、王が玉座から立ち上がり、険しい顔でパミリアへと視線を向けた。


「聖女様……、またしても瘴気が広がっております。どうかお力をお貸しください……!」


王の声には焦りが滲んでいた。パミリアは静かに頷き、手にした「聖女の杖」を軽く握り直す。


「分かりました。私が向かいましょう。」


王や貴族たちは、パミリアの言葉に涙ながらに頭を垂れる。


「聖女様、何とありがたい……!」


しかし、パミリアの内心は冷静そのものだった。


(瘴気の発生源が王都近くまで迫ってきている……。ただの自然現象とは思えないわね。)


耳元の通信装置を指で軽く触れ、こっそり《テラⅣ》に通信を送る。


「テラ、王都西部の瘴気の状況を確認して。」


《テラⅣ》:「了解しました、マスター。王都西部地区の大気汚染度が急速に上昇しています。瘴気の粒子濃度は前回の村よりも高いです。」


「……放置すれば危険ね。」


パミリアは決意を固め、宮廷を後にした。



---


王都西部――瘴気に覆われた街


馬車で王都西部へと急行すると、現場の光景にパミリアは思わず息を呑んだ。


灰色の靄が街全体を覆い、人々が咳き込みながら逃げ惑っている。通りには倒れ込んだ人々も見え、瘴気の影響が深刻であることは一目瞭然だった。


「聖女様が来られたぞ!」

「助けてください! 聖女様!」


周囲の人々が涙ながらに手を伸ばしてくる。パミリアは彼らを見つめ、優しく微笑んだ。


「皆さん、安心してください。必ず瘴気を取り除いてみせます。」


そう言いながら彼女は街の中心に立ち、耳元で《テラⅣ》に再び指示を出す。


「テラ、例の空気清浄機を用意して。魔法の道具に偽装するのを忘れないでね。」


《テラⅣ》:「了解しました。家庭用空気清浄機を『聖女の魔法の道具』として転送します。」



---


聖女の道具――奇跡の浄化


パミリアは人々の視線を一身に浴びながら、ゆっくりと両手を広げた。そして、彼女の手の中に「天からの光」が降り注ぐように、純白の「聖女の道具」が現れた。


――それは、見慣れた帝国製の 家庭用空気清浄機 だった。だが、現地人にはそれが何か分かるはずもない。


「天の恵みによりし、瘴気を浄化する聖なる道具です。」


パミリアが静かに宣言すると、人々は息を呑み、その「魔法の道具」に畏敬の念を抱いた。


「おお……聖女様の奇跡だ!」

「まさに天から遣わされた道具だ……!」


パミリアは内心苦笑しながら、空気清浄機を街の中心に設置し、スイッチを入れた。


「ウィィィィン……」


白い機械音が周囲に響き、空気清浄機のフィルターが動き始める。その瞬間、周囲の瘴気が渦を巻くように吸い込まれていった。


「な、なんだ……? 空気が……澄んできた……!」


最初に気付いたのは子供だった。彼が深呼吸をして、驚いた顔で叫ぶ。


「すごい! 苦しくないよ!」


その声に、周囲の人々が驚きながら空気を吸い込み始める。確かに、これまでの息苦しさが徐々に和らいでいるのが分かった。


「聖女様の道具が瘴気を消している!」

「これぞ天の奇跡……!」



---


人々の歓喜――救世主への信頼


瘴気が空気清浄機によって浄化されていく様子を見て、パミリアはゆっくりと杖を掲げ、再び「祈り」のポーズを取った。


「天にいます偉大なる存在よ……この地の穢れを清め、安寧を与えたまえ。」


祈りの言葉が終わる頃には、王都西部の瘴気はほとんど姿を消していた。青空が広がり、街全体が再び生命を取り戻したかのようだった。


人々は歓声を上げ、涙ながらにひれ伏した。


「聖女様……! 本当に瘴気を消し去ってくださった!」

「これこそ奇跡だ! 聖女様、ありがとうございます!」


パミリアは微笑みながら、静かに頷く。


「もう安心してください。瘴気は消えました。」


彼女のその言葉に、人々の歓声がさらに大きくなった。



---


瘴気の分析――次の一手


夜、王宮の自室に戻ったパミリアは、空気清浄機のデータを確認しながら《テラⅣ》と通信を続けていた。


「テラ、瘴気のサンプルは採取できた?」


《テラⅣ》:「はい、瘴気は未知の有害粒子と微量のエネルギー反応で構成されています。自然発生ではなく、外部的要因による可能性が高いです。」


「やっぱり……誰かが意図的にこの瘴気を広げているのね。」


パミリアは椅子に深く座り込み、静かに夜空を見つめた。


(私が聖女として振る舞っている間に、瘴気を操る黒幕が動いている――?)


彼女の赤い瞳が静かに輝く。救世主としての奇跡を演じながらも、彼女はこの世界の異変の核心に向かって一歩ずつ近づいていた。


「次は……その黒幕を見つける番ね。」


静かな決意と共に、パミリアは新たな対策を考え始めた。



2-3:王国の信頼と依存――瘴気の広がり


王都西部の瘴気を「聖女の奇跡」として浄化して以来、パミリアの存在は王国全土でますます絶対的なものとなっていた。噂は瞬く間に広がり、彼女の姿を一目見ようと、宮殿前には毎日のように人々が集まっていた。


「聖女様、どうか私の村もお救いください!」

「聖女様、私の娘が病に倒れているのです!」


窓の外から聞こえてくる悲痛な叫びに、パミリアは再びため息をついた。


(救世主にされるのも楽じゃないわね……。)


彼女は椅子に座り、耳元の通信装置を触れて《テラⅣ》と静かに交信を始める。


「テラ、最近の瘴気の拡大状況はどうなっているの?」


《テラⅣ》:「報告します。王都周辺を中心に、瘴気の発生頻度が増加しています。さらに遠方の村でも同様の汚染が確認されました。」


「……なるほど。つまり、これは局所的な問題じゃなくて、もっと広範囲に広がっているわけね。」


《テラⅣ》:「その通りです。自然現象ではなく、意図的な瘴気拡散が行われている可能性が高いです。」


パミリアは顎に手を当て、静かに考え込んだ。


(これ、完全に誰かの仕業ね。でも今は、その正体を突き止める時間がない……。)


その時、扉をノックする音が響き、王宮の侍女が恐る恐る顔を出す。


「聖女様、王が至急お呼びです。」


「分かりました。」


立ち上がり、手にした「聖女の杖」を軽く握りしめると、彼女は堂々とした足取りで謁見の間へ向かった。



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王の懇願――広がる瘴気の危機


「聖女様、再びこのようなお願いをするのは心苦しいのですが……。」


謁見の間では、王が重い表情で頭を下げていた。周囲には王国の将軍や重鎮が集まり、彼らの顔にも焦りの色が見える。


「北部の村で瘴気が発生し、数日で村人の半数が倒れたとの報告が入りました。」


「北部……?」


パミリアは地図を広げ、王が示す村の位置を確認する。王都からはかなり離れているが、瘴気の拡散スピードが異常に速いことに気付いた。


「(これ、確実に自然発生じゃないわね……。)」


王は続ける。


「これ以上、瘴気が広がれば我が王国は滅んでしまうでしょう。どうか、聖女様のお力で北部の村をお救いください!」


「……分かりました。私が参りましょう。」


その一言に、王は深く頭を下げ、重鎮たちも安堵の表情を浮かべた。


「ありがとうございます、聖女様……!」


(本当に、救世主にされると逃げ場がないわね……。)


そう内心でぼやきながらも、パミリアは静かに微笑んだ。



---


北部の村――さらなる瘴気の異常


翌日、パミリアは王国の兵士たちを率いて北部の村へ向かった。道中、村へ近づくにつれて、空気が徐々に濁っているのが分かる。


「……これは。」


村の入口に立った瞬間、彼女の目の前には灰色の瘴気が一面に広がり、まるで地面を這うように漂っていた。空には黒い鳥が飛び交い、不気味な静けさが村全体を包んでいる。


「これは……昨日の王都西部よりも酷いわね。」


《テラⅣ》:「マスター、瘴気の粒子濃度が異常値に達しています。このまま放置すれば、数時間で周囲一帯が汚染されます。」


「……分かったわ。例の『聖女の道具』を用意して。」


《テラⅣ》:「了解。空気清浄機を転送します。」


パミリアは兵士たちに振り返り、冷静に指示を出した。


「皆さん、瘴気に近づきすぎないよう注意してください。私がこの地を浄化します。」


兵士たちは息を呑み、一斉に頭を下げた。


「聖女様、どうかご無事で……!」



---


奇跡の浄化――救世主の限界


パミリアは静かに村の中央に立ち、両手を天に掲げた。


「天にいます偉大なる存在よ……この穢れを清め、ここに住まう者たちに安寧を与えたまえ……。」


「聖女様の祈りだ……!」


兵士たちの声が震える中、彼女の手に光が宿り――その瞬間、転送装置から帝国製の 家庭用空気清浄機 が姿を現した。


パミリアはそれをそっと地面に置き、スイッチを押す。


「ウィィィィン……」


白い煙が周囲に渦を巻き、空気清浄機が瘴気を吸い込み始める。最初はゆっくりと、だが確実に瘴気が薄れていき、周囲の空気が澄んでいくのが分かった。


「空気が……!」

「息が楽になった……! 聖女様が瘴気を消してくださった!」


村人たちが倒れ込んだ地面から顔を上げ、歓声を上げ始める。兵士たちも涙ながらに彼女を見つめた。


「聖女様……! なんとお美しいお姿だ……。」


(はぁ……救世主扱いもここまで来ると、逆に怖いわね。)


だが、空気清浄機の効果は確かであり、村は瘴気から解放された。



---


救世主と真実――黒幕の影


その夜、王宮へ戻る馬車の中で、パミリアは《テラⅣ》に向かって静かに語りかけた。


「テラ、今回の瘴気、何か新しいデータは?」


《テラⅣ》:「瘴気の濃度が増加している原因は外部エネルギー反応です。何者かが瘴気を意図的に生成・拡散していると考えられます。」


「やっぱりね……。」


パミリアの赤い瞳が、月明かりに照らされて静かに光った。


(救世主の振りを続けながら、この問題の根源を探る――それが私の役目ね。)


王国の人々は彼女を「聖女」として崇拝し、依存し始めている。しかし、その裏で彼女は一つの真実にたどり着きつつあった。


「この瘴気を操っているのは誰なのか……必ず突き止めてみせる。」


パミリアの決意が固まる中、王国にはさらなる危機が静かに迫っていた――



2-4:平穏な一時――束の間の休息と不安


王都北部の瘴気を浄化した翌朝、宮殿には久しぶりに平穏な時間が流れていた。王都の空は透き通るような青さを取り戻し、人々は安堵の笑みを浮かべていた。


「聖女様のおかげだ……!」

「天の遣いがこの国を守ってくださったんだ!」


街の至るところからそんな声が聞こえ、宮殿の中庭にも多くの市民が集まり、祈りを捧げていた。


「(まったく、救世主扱いもここまでくると気が引けるわね……)」


パミリアは自室の窓からその光景を眺め、小さくため息をついた。彼女の銀色の髪が柔らかく揺れ、ルビーのような赤い瞳がわずかに曇る。


《テラⅣ》:「マスター、現地人たちの信頼は絶大です。このままの状況を維持すれば、問題の根本解決も容易になるでしょう。」


「……信頼されるのはありがたいけど、瘴気の広がりが止まったわけじゃないわよ。」


パミリアは静かに杖を手に取り、指で滑らかな表面をなぞった。これはただの「超音波発生装置」にすぎないが、人々には「聖女の奇跡の象徴」として映っている。


(瘴気の発生原因……そして、それを操っている何者か。手がかりはまだ不十分ね。)


彼女の思考を遮るように、扉をノックする音が響いた。


「聖女様、王が謁見の間でお待ちです。」


侍女が静かに告げると、パミリアは軽く頷き、優雅な仕草で立ち上がった。


「分かりました。すぐに向かいます。」



---


王の感謝――そして安堵


謁見の間へ足を踏み入れると、王と貴族たちが待ち構えていた。パミリアが姿を見せると、一斉に頭を垂れる。


「聖女様、王国の危機を救ってくださり、誠に感謝いたします。」


王が深々と頭を下げ、その隣の将軍が口を開いた。


「北部の村からの報告によれば、瘴気は完全に消滅し、村人たちも快方に向かっているとのこと。これもすべて聖女様の奇跡のおかげです。」


「……よかったです。」


パミリアは微笑みながら静かに頷くが、その言葉の裏にある疲労を誰も気づくことはなかった。


(これでしばらくは瘴気の被害も抑えられるわね。でも――これは一時的なもの。)


王は満面の笑みを浮かべ、言葉を続けた。


「聖女様、どうか今後も我が王国をお守りください。あなた様がいてくだされば、この国はきっと救われます。」


(……やっぱりそうなるわよね。)


パミリアは内心でため息をつきながらも、柔和な笑みを浮かべて答える。


「もちろんです。私にできることがあれば、全力を尽くしましょう。」


王や貴族たちの顔に感動と安堵の色が広がる。


「ありがとうございます、聖女様……!」



---


束の間の休息――宮殿の庭園


謁見の後、パミリアは宮殿の庭園で一人静かな時間を過ごしていた。色とりどりの花々が咲き誇り、噴水の水音が心地よく響く。


(王都の空気は浄化されたけど、これも長くは続かない……。)


彼女はベンチに腰掛け、顔を上げて空を見つめる。青く澄んだ空には、どこか不吉な違和感が漂っているように思えた。


「……この空が、ずっとこんなに綺麗ならいいのに。」


彼女が小さく呟くと、耳元の通信装置から《テラⅣ》の声が聞こえた。


《テラⅣ》:「マスター、王都周辺の瘴気は完全に浄化されました。しかし、北部以外にも別の地域で小規模な瘴気の発生が確認されています。」


「やっぱりね……。次から次へと湧いて出るなんて、明らかに自然現象じゃないわ。」


彼女は膝の上に手を置き、指先で軽くリズムを刻む。


「原因を突き止めるのが先決ね。でも、その間にも王国の人々は――」


その時、不意に足音が近づいてくるのを感じた。振り返ると、そこには宮殿の王子が立っていた。



---


王子の言葉――聖女への信頼


「聖女様、ここにおられましたか。」


王子は静かにパミリアへと近づき、彼女の前に立つ。


「王子……何かご用でしょうか?」


パミリアは微笑みながらも、内心で少し警戒を強めた。王子は彼女の隣に座り、少し緊張した面持ちで口を開く。


「……聖女様、あなたが来てくださったおかげで、我が王国は救われつつあります。本当に感謝してもしきれません。」


「そう言っていただけて嬉しいです。でも、まだ終わっていません。」


パミリアの冷静な言葉に、王子はしばらく黙り込み、やがて真剣な表情で彼女を見つめた。


「聖女様。どうか、この国に永遠にいてはいただけないでしょうか?」


「――え?」


パミリアの目がわずかに見開く。王子は続ける。


「この国には、あなたの力が必要です。そして……あなたがいれば、私たちは必ず繁栄できると信じています。」


(……これは、つまり依存の始まりね。)


彼女は静かにため息をつき、優しい微笑みを浮かべながら答えた。


「そのお気持ちはありがたいのですが、私はあるべき場所に帰る運命です。」


「……そうですか。」


王子は寂しそうな表情を浮かべながらも、深く頷いた。


「ですが、あなたがこの国にいてくださる間は、私が全力でお守りします。」


「ありがとうございます。」


パミリアはそう答えつつも、心の中では別のことを考えていた。


(このまま救世主として振る舞い続けていたら、この国の人々は何も解決できないまま依存するだけになる。)



---


迫り来る危機――静かな夜


夜、パミリアはベッドの中で静かに目を閉じていた。しかし、彼女の心は落ち着かない。


「《テラⅣ》、瘴気の発生状況、引き続き監視しておいて。」


《テラⅣ》:「了解しました、マスター。」


彼女は天井を見つめながら呟いた。


「このままでは……いつかもっと大きな脅威が現れる。」


瘴気の発生は止まらない。それを操っている「何者か」の存在――その影が、彼女の心を静かに締めつけていた。


――救世主としての束の間の平穏。その裏では、新たな危機が確実に迫っていた。







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