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均衡の守護者 - ミライの物語
均衡の守護者 - ミライの物語
ゆる
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年05月12日
公開日
3.5万字
完結済
ミライは、古代文明の遺産を受け継ぎ、世界の均衡を守る使命を背負った少女。彼女は、世界の根源と呼ばれる強大な力と繋がり、その力を制御することで世界の平和を保ってきた。しかし、平穏な日々は長くは続かない。新たな脅威、混沌と破壊を司る力が胎動を始める。ミライは、仲間たちと共に、再び世界を救うための戦いに身を投じることになる。それは、力と心、過去と未来、そして、希望と絶望が交錯する、壮大な物語の幕開けだった。

第1話



王都アストライアは、建国記念祭の熱気に包まれていた。石畳の道は色とりどりの旗で飾られ、広場には露店が立ち並び、人々は歌い、踊り、酒を酌み交わしていた。空には祝砲が轟き、街全体が幸福感に満ち溢れていた。その中心、王宮の大聖堂では、祭典の最高潮を飾る儀式が執り行われようとしていた。


祭壇の中央に立つのは、王国の聖女、ミライ。純白のローブを纏い、背中まで伸びた艶やかな黒髪は、宝石を散りばめたティアラによってまとめられている。その顔立ちは清らかで、人々を惹きつける不思議な魅力を持っていた。彼女が現れると、周囲の喧騒が静まり、神聖な空気が満ちていく。人々は彼女を一目見ようと、固唾を呑んで見守っていた。


ミライは、幼い頃から神殿で育ち、その類まれなる魔力で数々の奇跡を起こしてきた。病人を癒し、枯れた大地に恵みをもたらし、人々の心を温かい光で包み込んできた。その功績は王国中に知れ渡り、老若男女問わず、彼女を敬愛していた。まさに、王国の象徴とも言える存在だった。


儀式は厳かに進められていた。神官の詠唱が聖堂内に響き渡り、荘厳なパイプオルガンの音色が人々の心を震わせる。ミライは祭壇の前で静かに目を閉じ、祈りを捧げていた。彼女の周囲には淡い光が満ち溢れ、その神々しさを際立たせていた。


その時だった。


聖堂の重厚な扉が、大きな音を立てて開かれた。騒然とする人々の視線の先には、王国の第一王子、アルトの姿があった。普段は穏やかで優雅な彼だが、その表情は険しく、目に怒りの炎を宿していた。その異様な雰囲気に、聖堂内の空気は一変した。


アルトは足早に祭壇へと進み、ミライの目の前で立ち止まった。その手には、何かの証拠と思われる巻物が握られている。ざわめきが広がる中、アルトは深呼吸をし、力強い声で宣言した。


「ミライ!貴様は偽りの聖女だ!」


聖堂内は騒然となった。人々の間に動揺が広がり、何が起こったのか理解できないまま、混乱に陥った。ミライは驚きで目を見開き、アルトを見つめた。彼の言葉が信じられなかった。


「アルト様…一体、何を…?」


ミライの声は震えていた。彼女にとって、アルトは婚約者であり、心から信頼していた相手だった。彼の口からそのような言葉が出るとは、想像すらしていなかった。


アルトは冷たい視線をミライに向け、巻物を広げた。


「この巻物には、貴様の不正の証拠が全て記されている!貴様がこれまで起こしてきた奇跡は、全て仕組まれたものだったのだ!」


アルトの言葉は、聖堂内に雷のように轟いた。人々の間に疑念が広がり始め、ミライを見る目が変わり始めた。これまで彼女を敬愛していた人々も、戸惑いを隠せない。


ミライは必死に否定しようとした。


「違います!私は…私は何も…!」


しかし、アルトは聞く耳を持たなかった。彼は次々と証拠らしきものを挙げ、ミライを糾弾していく。その内容は具体的で、ミライがこれまで行ってきた奇跡の一つ一つが、巧妙な策略によって演出されたものだと示していた。


例えば、病人を癒したとされる奇跡は、事前に病状を操作し、治癒したように見せかけたもの。枯れた大地に恵みをもたらした奇跡は、事前に特別な肥料を撒いていたもの。全てが緻密に計画され、実行されていたというのだ。


ミライは愕然とした。そのようなことをした覚えは全くない。一体誰が、何のために、このようなことを…?


彼女の頭の中は混乱していた。アルトの言葉、人々の疑いの目、そして、自分を陥れた者の存在。全てが彼女を押し潰そうとしていた。


アルトの糾弾は止まらない。彼はさらに厳しい言葉でミライを責め立てた。


「貴様は神を欺き、人々を欺いた!その罪は万死に値する!よって、この場で貴様を聖女の位から剥奪し、国外追放を言い渡す!」


その言葉は、ミライの心に突き刺さった。国外追放。それは、故郷を、愛する人々を、全てを失うことを意味していた。


ミライは膝から崩れ落ちた。彼女の目から、大粒の涙が溢れ出した。何が起こったのか、なぜこのようなことになったのか、全く理解できなかった。ただ、絶望の淵に突き落とされたことだけは、はっきりと分かった。


聖堂内は騒然とした空気に包まれていた。人々は互いに顔を見合わせ、囁き合っていた。これまで聖女として崇められてきたミライが、一瞬にして罪人へと転落した。その光景は、人々に大きな衝撃を与えた。


祭典の熱気は完全に冷め、代わりに重苦しい沈黙が聖堂を支配していた。建国記念祭という祝賀の場で、王国の象徴とも言える存在が断罪されるという前代未聞の事態に、人々は言葉を失っていた。



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