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第2話

 聖堂から引きずり出されたミライは、冷たい石畳の上に倒れ込んだ。夜の冷気が肌を刺し、先ほどまでの熱気に包まれた祭典が嘘のようだった。頭の中は真っ白で、何も考えられない。ただ、アルトの冷たい言葉と、人々の疑いの目が、脳裏に焼き付いて離れなかった。


「偽りの聖女…」


その言葉が、何度も何度も頭の中で反響する。自分が偽物だなんて、考えたこともなかった。幼い頃から神殿で育ち、神に祈りを捧げ、人々のために力を尽くしてきた。それが全て嘘だったというのか?


ミライは震える手で、胸元に下げられた聖女の証であるペンダントを握りしめた。温かい光を放っていたはずのペンダントは、今は冷たく、重く感じられた。まるで、彼女の心を象徴しているようだった。


周囲には、野次馬が集まっていた。先ほどまで彼女を崇め奉っていた人々が、今は好奇の目で、あるいは軽蔑の目で彼女を見下ろしている。中には、罵声を浴びせる者もいた。


「偽善者!」


「よくも騙してくれたな!」


ミライは顔を上げることができなかった。彼女は、これまで人々のために生きてきた。人々の笑顔を見るのが、何よりも嬉しかった。それなのに、今はこんな形で裏切られるなんて…。


彼女はゆっくりと立ち上がった。足は震え、体は鉛のように重い。どこへ行けばいいのか、何をすればいいのか、全く分からなかった。ただ、この場にいてはいけない、ということだけは分かった。


ミライはよろめきながら、王宮を後にした。夜の王都は静かで、祭典の賑わいが嘘のようだった。街灯の灯りが、彼女の影を長く伸ばしていた。


あてもなく歩き続けるうちに、ミライは王都の城壁まで来ていた。巨大な城壁が、彼女を外界から隔てているように感じられた。彼女は、この壁の向こうへ行かなければならない。この国から、この忌まわしい記憶から、逃げなければならない。


城門の前には、衛兵が立っていた。ミライの姿を見ると、彼らは顔をしかめた。


「お前…聖女だった女か。」


一人の衛兵が、冷たい声で言った。


「もう聖女ではない。」


ミライは力なく答えた。


「分かっている。早く出て行け。二度とこの国に戻ってくるな。」


衛兵はそう言うと、城門を開けた。ミライは一礼し、城門をくぐった。


城門を抜けると、そこは暗い夜道だった。月明かりだけが、彼女の足元を照らしていた。ミライは振り返らず、ひたすら前へ進んだ。


どれくらい歩いただろうか。気づくと、彼女は森の中にいた。木々の間から漏れる月光が、幻想的な風景を作り出していた。ミライは疲れ果て、木の根元に座り込んだ。


彼女は、これまでのことを思い出していた。幼い頃、神殿に引き取られたこと。神官たちから教えを受け、魔力を磨いたこと。初めて奇跡を起こした時の、人々の喜びの顔。全てが、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。


そして、アルトとの出会い。初めて会った時から、彼は優しく、ミライのことを大切にしてくれた。婚約が決まった時は、本当に嬉しかった。彼となら、きっと幸せになれると思っていた。


それなのに、なぜ…?


ミライは再び涙を流した。悲しみ、怒り、絶望…様々な感情が、彼女の中で渦巻いていた。


夜が明け、東の空が白み始めた。木々の間から差し込む朝日に照らされ、ミライは顔を上げた。彼女の目は、昨日までとは違っていた。悲しみの中に、強い意志が宿っていた。


「私は、負けない。」


彼女は小さく呟いた。


「必ず、真実を明らかにする。そして、私を陥れた者たちに、償いをさせる。」


ミライは立ち上がった。彼女の旅は、始まったばかりだった。


この後、ミライは道中で様々な困難に遭遇します。野盗に襲われたり、飢えに苦しんだり、心無い人々に騙されたり…。しかし、彼女は決して諦めなかった。彼女を支えていたのは、真実を求める強い意志と、いつか必ず復讐するという決意だった。


また、道中で親切な人々との出会いも描かれます。彼女を助けてくれる老夫婦、困っている人々を助ける旅の商人、不思議な力を持つ賢者…。彼らとの出会いが、ミライの心を癒し、彼女に新たな力を与えていくのです。


そして、これらの経験を通して、ミライは自身の内なる力に気づき始めます。彼女は、聖女として与えられた力だけでなく、人間としての強さ、知恵、勇気を身につけていくのです。







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