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第9話

 バルド侯爵の陰謀が阻止されてから数ヶ月が経った。王都アストライアには、以前の活気が戻りつつあった。物価は安定し、治安も改善され、人々は穏やかな日々を送っていた。


ミライは、以前のように神殿に戻ることはなかった。彼女は、聖女という特別な立場ではなく、一人の人間として、王都の人々と共に生きることを選んだ。彼女は、アルフレッド卿の遺志を継ぎ、王国の改革に尽力していた。彼女は、王宮に出入りし、王や大臣たちに助言を与え、人々の生活をより良くするための政策を提言していた。


彼女の言葉は、以前のように神託としてではなく、一人の賢明な女性の意見として、真摯に受け止められるようになった。ミライは、人々との対話を大切にし、彼らの声に耳を傾け、彼らが本当に必要としているものは何かを理解しようと努めた。


ミライの活動は、王都の人々だけでなく、王国全体に影響を与えるようになった。彼女の提言によって、貧しい人々への支援制度が拡充され、地方の村々への援助も行われるようになった。彼女の活動は、人々の間に希望と信頼を取り戻し、王国全体を良い方向へと導いていた。


ガイは、事件後、王宮騎士団に復帰した。彼は、その勇敢さと正義感から、多くの人々から尊敬される存在となっていた。彼は、ミライの活動を陰ながら支え、彼女が困った時にはいつでも助けに駆けつけた。


二人の間には、特別な絆が生まれていた。それは、恋人同士のような激しい感情ではなく、互いを深く理解し、尊敬し合う、静かで穏やかな愛情だった。二人は、互いの存在が、自分にとってかけがえのないものであることを知っていた。


リリアンは、事件後、神殿で奉仕の日々を送っていた。彼女は、以前の傲慢さを失い、謙虚な心を取り戻していた。彼女は、ミライに心から謝罪し、自分の犯した罪を深く後悔していた。


ミライは、リリアンを許した。彼女は、リリアンがバルド侯爵に利用されていたことを知っていたし、彼女自身も過ちを犯したことがあるからだ。ミライは、リリアンに、過去の罪を償い、新たな人生を歩むように励ました。


リリアンは、ミライの言葉に感謝し、神殿で真摯に奉仕活動に取り組むようになった。彼女は、以前の知識と経験を生かし、神殿に訪れる人々を助け、心の支えとなる存在となっていった。


ある日、ミライは、ガイと共に、王都を見下ろす丘の上に立っていた。夕焼けに染まる王都の景色は、息を呑むほど美しかった。


「この景色を見ると、全てが報われた気がするわ。」


ミライは、感慨深げに言った。


「ああ。お前のおかげだ。」


ガイは、優しく微笑みながら言った。


「私だけじゃないわ。ガイ、あなた、そして、王都の人々、みんなのおかげよ。」


ミライは、ガイの目を見つめながら言った。


二人は、しばらくの間、夕焼けに染まる王都の景色を眺めていた。静かな時間の中で、二人の心は深く結びついていた。


ミライは、過去の苦しみや悲しみを乗り越え、新たな人生を歩み始めていた。彼女は、聖女という特別な立場を失った代わりに、人間としての自由と、大切な人々との絆を手に入れた。


彼女は、これからも、人々のために、王国のために、自分の力を尽くしていくことを心に誓った。そして、愛する人々と共に、穏やかで幸せな日々を送っていくことを願った。




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