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第2話 ダンジョン

「ダンジョンってなんだっけ?」


アタシが首を傾げるとヨウは「えぇ?!」っと声を上げた。


「ダンジョンよ? ダンジョン! 義務教育レベルだよ? レベリング遠足……石打ちゴブリン……うぅ頭が」

「ヨウ? ヨーウー?」

「はっ……トラウマが……え、本当に? 知らないの?」

「たぶん? ガッコウいったことないし」

「そっか……なんかゴメン」

「いいっていいって」

「うん……えっとダンジョンっていうのは……」


ダンジョンというのは何十年だか前に突然世界中に同時多発的に開いた別次元の穴……らしい。

実際のところ、まだダンジョンの正体は掴めていない。

神のキマグレだとか、別世界の侵略だとか、芳しい諸説がある。

ダンジョンの中には様々な怪物……モンスターが跳梁跋扈していて、放置すると溢れてしまうらしい。

最初にダンジョンが開いた際は夥しいモンスターが地表に這い出し世界中多大な被害をもたらした。

それをダンジョン災と呼ぶそうだ。


「あー……だいぶ昔、映画で見たような変な怪物をたくさん殺した気がする」

「……他所の国に比べて、ニッポンはダンジョン災の影響が少なかったって話なのだけど……自国にミサイル撃って事態を納めた国もあるのに」

「アタシ、なんかしちゃった?」


ダンジョン……なんだか映画のような、絵空事のような話だけれど、だいたいがアタシの存在がその絵空事だし気にしたら負けだ。

たしか昔、歩いていたら急に二足歩行の豚とかバカみたいにでかい蟻とかその他諸々みたいなのに襲われた×10000みたいなことがあった気がする。

出所らしい巣穴を見つけて、なんかでっかい化物を叩き潰してやったのだ。


「なるほど、あれがダンジョンだったのか」

「名乗り出たら? 表彰されるかもよ」

「やーよ、面倒くさい。で、そのダンジョンとお金、どう関係するの?」 

「ダンジョンは災厄だけじゃなく恵みももたらしたの。モンスターのドロップする素材とかね。ダンジョンで採取できる未知の素材は技術革新を起こしたわ」


各種モンスターの素材はモチロン、オリハルコン、アダマンタイトみたいなフィクションにしかないような鉱石に、溶けない氷、浮く石、万病を癒す薬の沸く泉。

未知の素材は、ここ数十年で解析、加工され人類の技術レベルは飛躍的に進歩した。


「え、まさか紙幣の衛星追跡って……本当にできるの」

「え、それは知らないけど……」

「知らんのかい」

「ともかく! ダンジョンで採れる素材は現代において無くてはならないモノ。それを売ってお金を稼ぐことができるの」

「なるほどね~」


ヨウの言いたいことはだいたいわかった。

アタシに素材を採ってこいと、そういうことだ。

実際前にモンスターというのも倒してるわけだし。


「問題は……ライセンスなのよねぇ」

「ライセンス? 免許ってこと?」

「そ。ダンジョン関連の法律が整備されてて原則、ダンジョンは国に管理されてるの。入り口も強固な壁で囲まれて氾濫に備えるのと同時に出入りも完全に管理されてる。素材の売買にもライセンスが必要よ」

「あ、わかった。ライセンス取るのにシャカイホショウバンゴウがいるんでしょ」

「ザッツライ!」

「じゃあダンジョン入れないんじゃない」

「え、壁抜けしなよ」

「基準バグってる?」


さっき、銀行から盗むのはダメだと言った舌の根の乾かないうちに勝手に国の管理するダンジョンに入れとは。

ヨウの基準がわからない。でもこれがヨウなのだ。


「とにかく善は急げよ! 試しにダンジョンに行って、何でもいいから素材を採ってきて!」

「ダンジョンってどこ?」

「……さぁ? でも何か大きな壁に囲まれてるんだしすぐに見つかるでしょ」

「アバウトだ……ま、ちょっと行ってきまーす」

「お土産ヨロシク~……素材売買はこっちで考えとくからとにかく何か持ち帰ってね」


そんなこんなでアタシの最初のダンジョンアタックというわけだ。

素肌の上にヨウのジャージを履いてそれから透明になる。アタシは裸にならなくてもフルステルスできるのだ。え、見えないなら裸でもいいだろうって? 殺すぞ?

アパートを通り抜け、500mくらいまで飛び上がり、遠視を効かせてみればドームの様なモノがすぐに見つかる。


「これ、球場じゃなかったんだなぁ」


透視で中身を確認してみれば、割りとよく見るドーム球場だと思っていたモノがどうやらダンジョンを覆う壁だったみたいだ。

沢山の人が並んでいて、皆、剣とか、ハンマーとか、銃とか、物々しく武装している。もしこの列が野球観戦客ならこの世の終わりだろう。


「ではでは……Go ahead, Make my day」


呟くのはお気にの映画のお気にの台詞。

果たしてダンジョンは私を楽しませてくれるだろうか。


列を追い越し、見張りらしき軍服の人の横をすり抜け、ぽっかりと地面に空いた穴を潜るとそこは穴の中とは思えないようか明るい空間だった。洞窟のような岩と土の混ざったような、直径7,8m程の円形の通路に見える。

耳を澄ましてみれば、アチコチから金属のぶつかるような音がする。


「ふーん……戦闘中ってかんじ?」


姿を消したまま、音のする場所の1つを確認しに行くと4人の若い男女と、5匹の緑の肌に粗末な腰ミノをつけた醜い小人のような怪物が戦っていた。


「お! こいつはわかる! ゴブリンでしょ!」


思わずキャッキャッと手を叩いて声をあげてしまったけど、戦闘に集中してるのか気づかれなかったみたい。

しばらく眺めていたけれど5分程経ってようやくゴブリンが2匹、剣やら矢を受けて倒れたけれどまだ3匹健在。

若者達も前衛の男の子が負傷したのか動きが悪い。


「うーん……尺稼ぎ乙」


正直、飽きてきたのでアタシは雑に拳を振って残ったゴブリン3匹の頭を破裂させた。

グラリと頭を失くしたゴブリンが倒れ、何が起こったかわからず若者達はキョロキョロと辺りを見回し混乱している。

ゴブリンの亡骸はしばらくすると地面に吸い込まれるように消えて、後にはゴブリンの握っていたこん棒と腰ミノが落ちていた。


「これがドロップってやつ?」


無造作に拾い上げると、若者達がまた驚いている。

いっけね……ドロップ品にステルスしてなかった。

そりゃあ突然こん棒と腰ミノが浮き上がったらまじインビジブル、驚くに決まってるよね。


とりあえずなんかバッチい気がするけどドロップ品も手に入ったのでヨウのアパートにすっ飛んで帰ることにした。


「ヨウ~! ただいま~!」

「ポチお帰り~!」

「はい! ドロップ品! 取れたてだよ!」

「はぁ?」


ヨウはこん棒と腰ミノを見せた瞬間、笑顔を一転心底侮蔑したように落胆の顔になった。


「ポチ……ナニコレ」

「こん棒と腰ミノ、ゴブリンの」

「こんなのが売れるわけないでしょ! チョー浅いとこのドロップじゃん! アンタ、その無駄パワーはマジで無駄無駄の無駄だったわけぇ?」

「えぇ……理不尽……何でもいいっていったのに」

「ゴミ拾って来てなんて言ってないんだけど?」

「辛辣……吐きそ」


ちょっぴり悲しくなった。涙がでちゃう、化物だもん。

しくしくとやってみせるとヨウはすぐに顔色を変えてアタシを抱きしめてくれる。


「あぁ! ゴメンね、ポチ。別にポチのことゴミって言ったわけじゃないの」

「うん」

「ほらもう泣かないで」

「うー……キスして」

「はい、チュ」

「ギューってして」

「はい、ギュー」

「この腰ミノつけて踊って」

「は?」

「チッ」

「そんなに余裕あるならもっかいダンジョン行っとく?」

「もう今日は行かない……映画見る」

「しょうがないにゃあ」


結局またゴロゴロして映画を垂れ流しながらヨウと身体を重ねてそのまま朝までグッスリ眠る。

ちなみにヨウがチョイスした映画はハムナプトラだった。

ダンジョン? 呪われし怪物蔓延るピラミッドはダンジョンなの? ダンジョンか。











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