「ポチさんのチョーカーって、チョーカーマイクになってるんですか? 時々小声で喋ってますよね!」
「ん! そうだよ!」
「え~誰とお話されてるんですか? もしかして恋人さん?」
ただいまトーキョーダンジョンの2層目。
1層目はすぐに階段が見つかっちゃので。戦闘も無し。
トーキョーダンジョンは人が多いから上の層ではモンスターのリポップ? のタイミング次第で出会わないこともしばしばあるらしい。
ハルちゃんと雑談しながら、アタシとしてはノロノロノロノロノロノロ……ノロがいっぱいなペースで進行中。
や、いつもならこの会話の時間で2つ、3つは層を進んでるからね。
「んー、恋人かな。パートナー? 一緒に住んでてね~家から通話中! 配信も見てるよ~」
「わ~! なんかいいですね! そういうの。えっ、どんな方なんですか?」
「え~とね~……『名前言わないでよ』あっ 名前言うなだって『歳も』……ちょっと口うるさいんだけど、可愛い子だよ! 日本人形みたいな?」
「えっ……女性の方なんですか?」
「うん」
“百合だと?”
“レズカップルか。まぁ今時は珍しくもない”
“世は多様性よ”
“ここにもリア充が”
“百合ア充か……”
“ポチちゃんもかなりレベル高いぞ。ジャージがもさいけど”
もさいっ言うなし……ちゃんとお洒落着もあるわ。
他にダンジョンに着てくる服ないんだからしょーがないじゃん。
「っていうかアキ君もハルちゃんも、カップルライバーなのにらしいことしないじゃん。手繋いだりしないの?」
「手繋いでたらダンジョン内で咄嗟に行動できないですよ!」
アキ君が割って入ってくるけど、こうやってる間もアキ君は周囲にしっかり目を配ってる。慎重というか生真面目というか。
「じゃあ普段は? 手繋ぐ? キスは? アタシはいっぱいするよ~、キッス」
「わわわわ……ポチさぁん。ちょっと恥ずかしいですよ! 配信……配信してますから!」
ハルちゃんが赤くなる。こりゃキスもまだですなぁ。
グヘヘヘ……と、もうちょっとこの話題を振ってやろうかなと思っていると「ハル! ポチさん!」とアキ君が警戒を促してきた。
ゲッゲッと喉を鳴らしちょうどゴブリンが3匹現れたのだ。
“ゴブリン、タイミング悪いぞ”
“雑談配信より雑談してたのに”
“赤裸々な話もっと聞かせてくれ”
流れるコメントに若い2人が若干耳を赤くしながら戦闘体勢に突入だ。
「僕が2匹仕留めます! ポチさんは残った1匹を! ハル、アレをやるよ!」
「は~い」
「わかったよ!……エンチャントファイア!」
アキ君が剣を鞘から抜き放つと同時に、ハルちゃんの杖から炎が飛び出して剣に纏わりつく。
アキ君が燃え盛る剣でゴブリンをなで斬りすれば、斬ったところから燃え上がりゴブリンは呆気なく崩れ落ちた。
“付与魔法”、“新魔法か!”とコメントも盛り上がる。
こりゃ、負けてらんないね!
『ほら! ポチ、忘れてないわよね』
「大丈夫!」
アキ君が引いて目配せしてくる。アタシの番だ。
アタシはヨウから言われた通りにある言葉を口にする。
「ブースター!」
そのまま、アキ君と同じくらいのスピードで駆け込んでゴブリンの横っ腹に蹴りを入れた。ゴブリンはすっとんでダンジョンの壁に叩きつけられる。
それでお仕舞いだ。3匹のゴブリンは瞬く間にダンジョンの染みになる。ドロップ品は……無かったよ。
「ナイスナイス~! アキ君やる~」
「それを言うならポチさんですよ! 今の動き凄いです! 本当に10レベルですか?!」
「ブースター……って叫んでましたよね。もしかしてスキルですか?」
「そー! アタシ覚醒スキルがあるんだ! ブースターっていって発動中は何倍も強くなるの! ちょっと疲れちゃうんだけどね」
えー、もうお分かりでしょう……嘘です! デタラメです! スキルなんてありません!
これがヨウの考えた作戦。題して『フェイクスキル作戦』!
アタシのとんでもパワーは全部スキル由来ってことにしようという実にわかりやすい作戦だ。
超手加減してるパワーだけども。
スキルっていうのは……ダンジョンから授かる不思議な力だ。覚醒スキルと、取得スキルに分かれてる。
取得スキルは簡単で、ドロップ品の中にスキルを取得できる通称スキル石ってアイテムがあって、それで得られるスキルの事。ハルちゃんの火の魔法がそうだね。
覚醒スキルっていうのは……なんていうの、目覚めるパワー? レベルが上がったり、あるいはピンチの時に急にスキルを取得したりするらしい。
効果も強力だったりユニークだったり……たまに外れもあるらしいけど。
どちらも使い込めば強化されたり、出来ることが増えたり、進化したりもするってことだ。
スキル持ってないんでよくわからん!
詳しくはダンジョン協会のホームページで!
“覚醒スキルでセルフ強化ってかなり当たりじゃね”
“しかも速度も膂力もかなり上がってたな。アキとおなじくらいまで”
“ハル&アキが30レベルだっけ? 単純じゃないだろうけどポチが10レベルなら3倍くらいにはなってんじゃね”
“めちゃくちゃ将来有望じゃん”
“ライバーやったら絶対見るのに”
「覚醒スキル……凄いです! これならこのままドンドン進んでも良さそうですね!」
「ポチさん! 凄いです!」
コメントもハル&アキも興奮してる。
あがめよたたえよ! 本当のアタシはもっと凄いぞ!
でも、ま! さっきの力加減ならそこまでおかしくは見られてないみたいだし、ヨウも『その調子よ』って褒めてくれた。このままガンガンいってみよ~!