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第13話 リバイバル

ゴギュリ


「うわぁ」

「わぁ……」

“うわっ”

“首いった”

“素手でオークの首折るとか……こっわ”

『ポチ……アンタ……』

「え、ナニ?」


トーキョーダンジョン9層目にしては珍しいオーク君。

単独だったのでサクッと背後をとって首をグギッとやって仕留めたら白い目で見られてます、アタシです。


「す、すごい力ですね……流石覚醒スキルです」

「う、うん! そうだね、アキ君!」


や、やめろ! そんな生暖かい目で見るなー!


「首コキ知らない!? 映画だと皆やってるのにー!」

「映画……ですか?」

「あの、すいません……あんまり知らなくて」

“映画かぁ懐かしいな……全然見なくなったなぁ”

“映画とかオワコンじゃん”

“ポチちゃん意外とニッチな趣味があんだね”

“エイガ??” 


あー……そうだよねー。今の若い子はあんまり映画とか見ないもんねー。

ダンジョン配信見てるか、ダイバー目指すかだもんねー。だがオワコンとは何だ! オワコンとは!

ほら! ヨウが『はぁ!?』っていって切れたよ!

うわ……キーボードめっちゃ叩いてる!

ガガがガガってこっちまで聞こえる!


“何がオワコンよ! 映画はね、アートなの! 監督と俳優、映像と音楽の為す魔術なの! ダンジョン配信なんてリアルタイムのスリルとかいってその場しのぎで盛り上がるだけじゃない! 緻密に計算された編集の芸術には遠く及ばないわ! だいたいライバーには背景が無い! 所詮は日銭稼ぎの人気稼ぎ! タイパ? コスパ? そんなの知るか! 黙って2時間スクリーンにかぶりついてみろっての!”


うわぁ……やっちゃった……長文コメントきたぁ……。

ほらぁ、ハル&アキも他の視聴者さんもドン引きだよ。

しかもまだキーボード叩いてるし……!?


「ヨウ~? 恥ずかしいからヤメテー」

『はっ!?』


あ、声落としてなかった。

コメント欄に“ヨウ?”、“よう?”って出てるし、例の長文の投稿者もYOUだからね……アハハ……バレたね。

……ぶっちゃけアタシは映画にヨウ程こだわりないんだよね。あと、ヨウも基本好きな映画はB級ホラーだ。


「あの……もしかして……」

「うん……今のなっがいコメントがアタシのパートナーの……あー、名前出ちゃったし……ヨウっていうの」

『あああああ……穴があったら入りたい』

“なんだかわからんけど熱意は伝わったよ”

“長文オタクコメの向こうは推定美人か……推せるな”

“ポチ&ヨウで雑談配信してよ”


だから配信はしないってば。ヨウは美人だけどね!

さて、わちゃわちゃしたけど目の前にはボス扉!

ハル&アキとしてはリベンジになる10層ボス戦だ。

あ、ちなみにアタシも一緒に挑むことになったよ。


「ポチさん、10層のボスはトロールです。大柄ですが動きは鈍いのでポチさんの身のこなしなら回避は余裕だと思います。僕と一緒に脚を狙ってください」

「ポチさんが加わるなら私は火力重視でよさそうだね」

「らじゃ~! まっかせといて!」 


簡単な作戦会議もして、ボス扉に手をかけようというところでアキ君は逡巡したように動きを止めた。


「どしたの?」

「……いえ、またイレギュラーがあったらと考えてしまってか」

「ちょっと不安はあるよね。あの時は為す術もなくて……生き残れたのが不思議なくらい」


うん、まぁ、助けたのはアタシだが。

あの黒トロールは推定90レベルらしくて、ざっとハル&アキの3倍。普通は絶対勝てない相手だ。

まだ恐怖がこびりついているんだろう……今日はそれを払拭する為の挑戦でもあるんだ。


「大丈夫! 大丈夫! このポチさんがついてるんだから!」

「はい、頼りにさせてもらいます。でも何かあったら帰還の翼を使うので、すぐに僕に触れてください」

「私達の方がレベル高いはずなのに、ポチさんの方がベテランみたいですね」

「そりゃあ、長生きしてるからね!」


笑い合って緊張も少しほぐれて、アキ君が扉に手をつけたタイミングでアタシはハルちゃんにそっと耳打ちした。


「ね……ボスに勝ったらアキ君にキスしちゃいなよ」

「えっえぇ!? ポチさん! これからボス戦ですよ!」

「ほっぺでもいいから! ね?」

「もー!」


そのまま扉が開き、真っ赤になるハルちゃんの背中を押してボス部屋に突入だ。転移の感覚が途切れた瞬間、アキ君が抜剣し、アタシとハルちゃんの声が重なる。


「エンチャントファイア!」

「ブースター!」


トロールが戦闘態勢になった時にはもうアタシとアキ君は目の前にいる。

燃え盛る剣のアキ君にトロールが注意を向けた隙にアタシは背後に走り抜け、そして。


「必殺膝カックン!」


げしっと、トロールの左のヒザ裏を蹴り抜いた。

デカイ図体が災いしてトロールはバランスを崩しがくんとなる……や、誰でもなるか。己がヒト型なのを恨むがいい!

さて、バランスを崩したら当然手をつくわけだけど、そこには既にアキ君が構えていて。


「セアァ!」


つこうとした、右手をザックリ。

ぶっとい腕の半ばまで切り込みしかも燃え上がる、たまらずトロールはびったんとうつ伏せに。


アタシとアキ君が目配せして、ぴょんと横っ飛びして距離を取る。

当然待ち受けるのはハルちゃんの。


「いきます! ファイアブラスト!」


ハルちゃんの杖の先で留まっていた炎の塊が一気に解放される。指向性を持たされたエクスプロージョンともいえそうな、一直線に突き進む爆炎がトロールの頭から全身に抜けるように直撃。これはひとたまりもないでしょ。


ハルちゃんはあれから火力もサポートも伸ばしてきたみたいだね。

アキ君も扱い辛そうな炎の剣を完全に使いこなしてる。

いやぁ伸び代のある子は見ててワクワクするね。


炎が消えたあと、トロールは1度ぐっと身体を起こすように動いたけどそのまま力尽きて倒れこんだ。


「勝利! ぶい!」

「新魔法、うまく行きました!」

「ポチさん! ハル! ナイス連携! バッチリだよ!」


“ナイス”

“ナイス!” 

“うおおおぉお! 瞬殺かよ!”

“ハルちゃん、火力やば” 

“必殺膝カックンは吹いた”

“でも実際かなり有効だったな”

“アキも追撃のタイミングが完璧”

“ポチちゃんも即興パーティでこの連携”



ハル&アキもコメントも歓喜爆発……でも、なんか……。


“……転移門は?”


1つのコメントを皮切りに、皆がハッとした様子になる。

アキ君の、ハルちゃんの、アタシの、カメラ越しの視聴者の視線が、倒れたハズのトロールに注がれる。

トロールは……艶のある黒い皮膚へと変化して立ち上がり、黒く染まったこん棒を突き上げ咆哮した。


「っ!?」

「嘘……また?」

“おいおいおいおい” 

“ヤバイって”

“またイレギュラー!?”


アタシ以外が愕然としている。

そりゃ普通はイレギュラーなんかそうそう起こるものじゃないみたいだし。

アタシが姿を見せている以外は、状況はほぼおなじ。

まるでリバイバル上映だね。


「き、帰還の翼を! ポチさん! ハル! 急いで!」

「う、うん!」


アキ君が必死の形相で呼び掛ける。

こうしてる間にもトロールはこちらを見据え、膝を屈め、身体を射ち出そうとしている。


「……ブースター! マックス!」


アタシはハル&アキに聞こえるようにスキル発動の声をあげる。あとマックスとかつけてみる。それっぽく。

そして諸手を広げ、2人の前でトロールを待ち受けた。


アキ君とハルちゃんの、ほとんど絶叫みたいなアタシを呼ぶ声は交通事故みたいな衝突音にかき消され、土煙が舞う。

視界が晴れれば、ガッシリとトロールのこん棒を真正面から受け止めるアタシがバッチリ見える。


「キャアアアアアッチ!! どんなもんだい!」

「は?」

「へ?」

“は?”

“は?”

“はぁ?”  

『はぁ……やっちゃったわ』


顔を見なくても皆がポカンとしてるとわかる状況。

アタシは首だけで振り返りハル&アキにニカッと笑いかけた。

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