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第14話 ヒーローショウ的なそういう

「ポチさん!? な、何をやってるんですか?!」

「え、見ての通りだけど?」

「それはわかりますけど!?」


アキ君が最初に混乱から立ち直った。

や、混乱はしたままかも。

何してるって言われてもまぁ見たまんまとしか。

実はヨウとは相談してたんだ。もしまたイレギュラーが起こったらどうするか。

アタシは……2人に逆境を打ち破ってほしいと思った。

ヨウは最初は反対したけど、『まぁ、それがドラマチックよね』と最後には賛成してくれた。

さて、全然余裕だけど演出しなきゃ。

笑顔半分、苦しさ半分みたいな顔で、青筋浮かばせてみたり汗かいてみたり。

アキ君がめざとくそれに気づいてアタシに必死に呼び掛ける。


「っ……! ポチさん! なんとかこっちに!」

「逃げちゃだめだよ」

「っ!? ポチさん?!」

「1度目は何も出来ず、2度目は尻尾を巻いて、3度目は? 4度目は? 二度あることは三度ある……毎回イレギュラーに怯えて、高い金払って逃げるばかりの算段立ててみみっちく生きていくつもり?」

「っ!? それは……」


おー! 効いてる! さすがヨウの考えた台詞。

アタシにこんなコジャレた言い回しは無理ですよ。

そんなヨウプレゼンツの発破に応えたのはハルちゃんが先だった。


「そうだ……そうだよ! ここで逃げたらずっと逃げっぱなし! 何のために鍛え直したのかわかんないよ!」

「ハル!?」

「一矢報いよう、アキ君!……何もせずに逃げるなんてダメだよ! ポチさん! もう少しだけそのまま!」

「はーいっ……ってウェ!?」


思いっきりアタシに向けて杖構えていないかな? かなぁ!? 炎の塊がどんどん膨らんでるよ! これはアレだ! ギリギリで飛び退いてってことだね! ハルちゃん無茶するねぇ……素敵!


「ポチさん! いきます! ファイアブラスト!!」

「っそぉい!」


飛び退いたアタシのすぐ脇を炎が抜けていく。

アタシじゃなきゃ髪がチリチリなるとこだよ。

炎はトロールに直撃、全身を包みこむ。

でもさすがに黒いやつ。咆哮で纏わりついた炎を吹き飛ばしこちらを忌々しげに睨む。また突進しようっていうのは念動力でロックっと。一旦ハル&アキのとこまで戻ってちょっと会話タイム。トロール君は映画お約束の待っててくれる親切な敵になっててね。


「ハルちゃんナイスナイス~」

「や、やってやりました!」

「ナイス~! じゃないですよ! ハルも! ポチさんに当たったらどうするんだ!」

“いや……ちょっと……いろいろおかしい”

“ポチさん本当に10レベル? レベルは自己申告だから実は高レベルでもおかしくないぞ”

“高レベルでもブラックトロール相手にガチンコは普通しないんだよなぁ”

“アキ君の綺麗なノリツッコミ”


アキ君が若干キレ気味だ、アハハハ。

まぁあれだね、人間余裕が無くなると笑ったり泣いたり怒ったりしかできなくなるからね。

あー、ホラ。ハルちゃんもシュンとしないの。


「ポチさんならちゃんと避けてくれる気がして……」

「そうそう! あれくらいお茶の子さいさい!」

「ポチさんも! 覚醒スキルが凄いのはわかりましたけど無茶をし過ぎです!」

「ん? 次はアキ君の番だよ?」

「え?」

「アタシもいったし、ハルちゃんもいった。と来たら次はアキ君でしょ」

「はぁ!? む、無理ですよ!」

「やる前から諦めんなよぉ! ま、あんなでかくて黒いの相手じゃしょうがない、お姉さんが後押ししてあげよう」


バンとアキ君の背中を叩きながら「ブースターギフト」と一声。

“バフ?”、“他人にもいけるのか!?”、“ガチ有能スキルじゃん” とコメントも盛り上がる。

え、もちろん他人をブーストなんてできませんよ? アキ君の身体を念動力の膜で包んで障壁と動作補助を人力でやるだけです。アタシの動体視力だからできること。


「か、身体が軽い……ポチさん……コレって」

「ブーストだよ~。ほらほら急がないとあんま長持ちしないぞ~」

「大丈夫……アキ君なら出来るよ!」


ハルちゃんのダメ押しでアキ君の表情が変わる。

キッとトロールを見据え脚を前に出す。

さぁ、ここからがアタシの頑張りどころ!

アキ君が不自然さを感じないように、念動力で動きの出力を増し増しに! トロール君には逆に圧力をかけて動きをノロノロに! まぁ万が一攻撃が当たっても念動力の膜が防いでくれるからね、安心設計。

傍目にはアキ君がトロールの攻撃をギリギリで躱して一撃打ち込んだ様に見えるかな。

切れ味も補助したのでトロールに浅いけど切り傷が刻まれた。


「っ!? 入った!?」


手ごたえあったとアキ君も驚きながらも興奮からか上気した表情でヒット&アウェイの要領で戻ってくる。

はい、トロール君はもうちょっといい子でね~。


「アキ君もナイスナイス~」

「アキ君、すごいよ! あのブラックトロールに一撃いれたんだよ!」

「う、うん!」


アキ君もハルちゃんもこの年頃にしては、落ち着いてるし分別もある。

でもやっぱりダンジョン配信なんかするくらいには若い無鉄砲さだって持っている。

自分よりずっと強い相手に一矢報いてアドレナリンがでてる。脳汁ブシャーってやつ。

こういう時は出来ないことなんてないってそういう気分になるんだよね。

いい大人ならここで諫めるんだけどあいにくアタシは悪い怪物だ。


「2人ともやるじゃん! ね! このままアイツを倒しちゃおうよ」

「っ?! ポチさん……いくらなんでも」

「だいじょうぶだいじょうぶ! いざって時は逃げられるんだから!」

「うん……アキ君……私、やるよ。 アキ君とポチさんがいればきっと勝てるよ!」

「ハルって結構無茶するんだね……でも、僕も同感! 僕らなら勝てるよ!」


“おいおいマジか……レベル差考えろって”

“無茶すんな!”

“いや……このパーティならいけるかも”

“俺は応援するぜ”


さあ盛り上がって参りました! モチロンあたしがいる限り勝ち確ではあるんだけども!

ヨウも見てることだしできるだけドラマチックな展開を見せつけていくぞー!


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