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第15話 覚醒スキル(本当です)

「僕が引き付けます! ハルはとにかく火力重視で! ポチさんはハルに注意が向いたらなんとかトロールを止めてください!」

「おっけ~」

「うん! 全力で!」


そんなわけで戦闘再開! あ、トロール君も動いてもいいよ~。

前に出るアキ君が怪我しないようにと細心の注意を払うよ。

んで~ま~……結果から言っちゃうともう完全勝利って感じ?

いやぁ……完全にアタシの予想外ではあったんだけど、これ以上ないくらいにドラマチック。

ヤラせをしようとしていたアタシが「これ仕込み?」とか思っちゃうくらいには最高の展開だったのだ。



「くっ、振り回される!」


まさか僕らでブラックトロールを倒そうなんてことになるとは思ってなかったけど、ポチさんの覚醒スキルのおかげで勝算が見えてきた。体感、僕の身体能力は3倍近くになっている。これならレベル差を補って余りあるくらいだ。少なくとも回避に集中していれば攻撃をもらうことが無いと思えるくらいには身体が軽い。

むしろ軽すぎるくらいで、回避の度に僕の間合いからも外れてしまって上手く切り返せないでいた。


「(余分な動きが多すぎる……もっと引き付けて……最小限の動きで)」


ポチさんのブーストは肉体の動きは補助してくれているけれど、動体視力までは及ばないらしい。

素早すぎる自分の体に目が追い付かない。トロールの動きもぶれて見える。

これじゃだめだ。こんなんじゃとても渡り合えてるなんていえない。


思い出すのは僕の師匠でもある祖父の教え。ありきたりといえばそうなんだけど、祖父曰く「目で見えるものが全てではない、心の目で捉えよ」だ。僕の家が代々受け継ぐ古流『駆流』はその名の示す通り走る動作と切る動作を同時に行う技が多い。元は戦場で走りながら戦うことを想定していたかららしい。四方八方から打ちかかってくる敵を搔い潜り、手足にわずかにでも傷を負わせる……そういう流派だ。


「(見てからじゃ間に合わない。トロールがどう動くか感じるんだ)」


一度目を閉じると集中力が限界まで高まっていく。トロールの動きを気配が、殺気が教えてくれる。

ふいに僕の脳裏にある言葉が浮かんだ……いや、これは目覚めたんだ……僕に眠っていた力が。


「”心眼”」


目を開けば、景色が変わっていた。

トロールがどこを狙い、どう打ち込んでくるか、それがあらかじめ像として見えている。

それはほんのわずか先の未来の映像。だから、僕はあとは合わせるだけで良かった。

鼻先をこん棒が掠めるギリギリの間合い、振り下ろされる腕の勢いも利用して刃を当てる。

足運びで体ごと剣を振りぬけば、硬い皮膚に裂傷が刻まれる。

はっきりとした手ごたえに満足することなく僕はさらに追撃に移った。



「(やれる……なんて言っちゃったけど)」


アキ君がすごい動きでトロールに肉薄している。ポチさんだって私を守るため両手を広げて備えてくれている。2人ともあんなに大きくて強い相手に……怖く、ないのかな。

私は怖い。私もアキ君のお家の道場で小さいころから一緒に教わってたのに。近づいて戦うのはとても怖い。

道場に通ってもアキ君みたいに動けるようにはなれなかった。一緒に練習してるのにどんどん差が開いちゃって、それでも置いて行かれたくはなくて。

アキ君がダイバーをやるって言った時だってそう。無理やりついていったはいいけど、全然役に立てなくて焦ってばかりだった。

たまたま、本当にたまたま火魔法のスキル石がドロップして、魔法担当になった時は正直ほっとした。

これで比べられなくなるかなって。そんなの気にしてるのは私だけなのにね。

でも。だからこそ、魔法を使う役目だけは全うしようって、アキ君に内緒でダンジョンにいったりして練習もした。だから、少しだけど、魔法には自信がついた。

その自信が、少し揺らいでいる。


「(私の一番強い魔法を当てても、アイツは全然堪えてなかった……)」


何発も打てば倒れるだろうか? いや……そんな考えじゃダメだ。

私が期待されてるのは大技だ。とにかく強力な一撃だ。こんなに時間を作ってもらって活かせないようじゃダメージディーラー失格……私は、私の仕事を全うするんだ!


「(もっともっともっと……火力を!)」


私の望みに応えるように、体の底から力がみなぎってくる。

これなら、きっと……!


「”魔の司”」


脳裏に浮かんだ力ある言葉を唱えると、さらに言葉が溢れてくる。


「”精神集中”、”重奏”、”合一”……10連重奏……」


もう迷いはない、心配もない……人生の一番の一撃をアイツにお見舞いしてあげる。



「(あれ……? これアタシいらなくね?)」


違和感はすぐに確信に。ほんの数合でアキ君の動きが明らかに良くなって……いや良くなってるとかいう次元じゃないかも。

完全にトロールの動きを見切って、浅いけれどザックザック切り刻んでる。試しに動きの補助をやめても変わんない。

こりゃ念のための障壁だけ維持しとけばおっけーかなぁなんて思ってたアタシの背後。

太陽でも産まれましたか? みたいな熱を感じて振り向けば、白熱化した火の玉がございました。


「お~……ご来光~」


って惚けてる場合じゃないわ。

え、これハルちゃんの魔法? さっきの一発と火力が全然違うよね?!

2人ともこの超短時間で何があったし?! ってくらい成長してません?!


「10連重奏……」


発射寸前の爆炎をアキ君も察知したのか、なんとトロールの目を一文字斬り。

たまらずトロールも目を抑えて吠える吠える。

がむしゃらにこん棒を振ってもとっくにアキ君はハルちゃんの為に射線から外れて間合いの外だ。

よし、アタシもどけるかってところでトロール君の悪あがき。

潰れたのに見えてんのかってくらい正確にこん棒をハルちゃん目掛けてぶん投げてきよった。


「はい! キャッチ! あん! リリース!」


もちろんアタシが受け止めて投げ返したけど。……トロール君の足の小指の先目掛けて。

グチっと鈍い、骨と肉の潰れた音がしてうずくまるトロール君。

そこに……。


「一点集中……フレイムピラーーーーぁああああ!!」


なんかもうゴジラの熱線みたいな? ずビーーーームってかんじで白い極太の炎が一直線。

ハルちゃんが放った強烈な一撃がトロールをぶっ飛ばしてボス部屋の壁に叩きつけそのままジュアアアっと炙って消し炭にしてしまったのだ。

……若者って怖いね……ちょっとの間に成長しちゃうって30秒ちょっとで伸びすぎ!!

そうして2人にとってはやっとというか、待望の10層ボス討伐を知らせるように11層への転移門と地上への帰還門が出現したのだった。













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