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第20話 ダンジョン戦争

「考えないようにしてたんだけどなぁ」とヨウはアパートと同じ間取りのマスタールームのクローゼットを開く。

そこには赤く輝く水晶玉があった。


「なにこれ?」

「ダンジョンコア……っていうらしいよ。コレを使ってダンジョンの操作をあれこれするの」

「……なんでクローゼットに」

「使ってなくてさー」


よっと、ヨウが水晶玉を持ち上げるといろいろと、モニター画面のようなものが表示された。

「頭いたくなりそ」と愚痴りヨウが指を動かす様子はスマホの操作に似ていた。


「通知機能とか切っちゃっててさー。ポチと暮らし始めてから警告もこなくなったし。入り口は必ず作らないといけないらしいんだけど、ほら。場所が場所だったでしょ? 誰も来ないようにあそこに置いたんだよね……まさかアンタに見つかるとは思わなかったわ」

「見つけたというか、辿り着いたかなぁ」

「あの時、アンタを帰すのに何年かぶりにマスタールームに来て、アンタの近くに帰還門を出したのよ。それで通知に気づいたの」


ヨウが見せてくれたのは、なんだか重要! みたいなマークのついたスマホの通知に似た表示。

“ダンジョン戦争が開催されます”と点滅していて、タイマーが表示されていた。


「ダンジョン戦争……?」

「ダンジョン同士で潰し合わないといけないみたいなんだよね、説明を確認したらさ?」


ヨウとコアの表示する説明を読めばずらずらと何か書いてある。これ、たしかに頭痛くなりそうだ。

なんとか理解出来たことを要約するとこう。


・戦争は宣戦布告、もしくは強制執行により開催される。

・分身体、眷属が相手ダンジョンにて“宣誓書”を読み上げることで宣戦布告とする。 

・一定期間、戦争を行わなかったダンジョンは強制執行の対象となる。

・強制執行によりランダムで戦争相手が決まり戦争を行わされる。


「どうも強制執行に引っ掛かっちゃったみたいで……」

「い、いつ戦争なの!?」

「……3日後」

「なんでおしえてくれないのー!」

「おしえられなかったんだって! それにポチは参加出来ないし」


戦争のルールはだいたいこう。

・開催の定刻になり次第、ダンジョン同士が接続される。

・接続時点で眷属、及び同盟ダンジョンの眷属以外の存在はダンジョン外に転送される。

・戦争に使用できるダンジョンの階層は眷属、及び同盟者以外の存在により踏破された階層のみとする。

・踏破後、階層構造に変化を加えた場合は未踏破扱いとする。

・眷属の配置は階層構造の変化には含まない。

・戦争開始後、終了までの間階層構造の変化、及び眷属の召喚は不可とする。

・ダンジョンコアの破壊により戦争は決着する。

・戦争開始72時間の時点で決着が付かない場合は、進行されていない階層が多い側を勝者とする。



「む、難しい……」

「要するにね。部外者は立ち入り禁止。絶対先に進めないようなダンジョンも禁止。戦争始まった後の後出しも禁止。事前に準備しなさいってこと……。んでコレを壊されたら負け」


そう言ってヨウはダンジョンコアを弄んでみせた。


「壊されたら……どうなるの?」

「まぁ……死ぬわね」

「そんなのダメだよ! あ! アタシが相手のダンジョンに行ってコアを壊すのは!?」

「無理。ダンジョンマスターは基本的に保護されてて、戦争中じゃないとコアの破壊も出来ないの」


「おまけにさ」とヨウは深いため息を吐く。


「相手、トーキョーダンジョンなのよね」

「え、あの?」

「そ……戦争が決まったらなんか互いに連絡が取れるみたいなんだけど、うちには勝てないから降参したらとかなんとかメールみたいなのがね。トーキョーダンジョンから」

「うわ、性格悪……」

「通知気付いてなくて未読だったけど……でも実際アタシの未完成ダンジョンよりはずっと凄いダンジョンなんじゃない?」

「……ヨウ」


なんだかあきらめムードというか、ヨウの顔は暗い。

アタシは少しそれに腹が立った。


「ヨウ! らしくないよ? いつものちょっと横暴で無茶苦茶なヨウはどこいったの?」

「お、横暴って……自覚はあるけど……でもどうしたらいいって言うのよ!? 見てよ!」


ヨウが指差ししたのはモニターの右上。

そこには3Pという表示。


「たったの3PしかDPが無いのに、何もしようがないのよ」

「えぇえ……何に使ったの?!」

「し、知らないわよ……放置してたんだから!」


なんてこったい! DPが無さすぎて身動きとれないって……や、ある意味ヨウらしいんだけど、今回はそれじゃ困るのだ。というか、さすがに3Pじゃ維持ポイントとかも払えないんじゃないの? それを指摘するとヨウも確かにと考え込む。


「……本当だわ。50階層分で1日5000DP必要なはずだけど維持できてるじゃない。え、故障? そんなことある?」

「とにかく! 諦めるのは絶対ダメだよ! アタシも一緒に考えるから!」

「わ、わかったわよ……やってやるわよ! ポチも手伝ってよね! 私、シミュレーションゲームって苦手なのよ」

「アタシもだって~、ゲームしないのに」


そうして顔を突き合わせながらアタシとヨウは3日後に迫るダンジョン戦争に向けて、無い知恵を絞り始めた。







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