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第40話 サツイガワイタ

「何? 知り合いなの?」

「ま、ちょっとな。なぁ?」

「グルルルル」

「ポチ! ……ダメよ」


金髪の女がタケルとのやり取りを見て何か言う間もアタシは不機嫌……を通り越した感情に支配されていた。背中の美月さんがいなければ飛びかかってたかも。

そこにヨウが一喝。ハッと我に帰ったアタシは美月さんをそっと席に降ろしてヨウをタケルの視線から隠すように立ちはだかる。


「……大丈夫。落ち着いた」

「うん、いいコね」


ヨウと比べればアタシの方が少し小柄だ。でも背中に安心したヨウの気配を感じる。タケルが貶すように嗤うけどもう気にならない。


「なんだぁ? 女同士出来てんのか? チビ、いっとくがその女はとんだアバズレだぜ?」

「ヨウが身体売ってたのなら知ってるよ。それが何?」

「ハッ、俺もソイツと寝たことあるんだぜ」

「だから? 関係ないって。アタシはヨウのものだし。ヨウはアタシのだ……お前なんかお呼びじゃない」

「言ってくれるじゃねえか」


アタシとタケル。互いに睨み合って一触即発状態だ。

や、コンナやつ雑魚でどうとだって出来るけどさ。一応監視カメラだってあるし店員さんだっているからぶっ飛ばすのは最終手段だよね。


「ちょっと! 実力行使は最終手段だって!」と同じようなことを考えてたのか金髪の女が割り込んできた。

手を出してくるなら受けてたつぞー!


「あーもう……とにかくよ! そのおばさんからウチらの依頼を聞いたでしょ? 何で断るわけ?」

「ミツキの? じゃあアンタも豪放磊落の?」

「そうよ! 報酬も2000万あるし、クランに入れてあげるってのに断る理由なんてないじゃない」

「ん……特に依頼を受ける意味がないから?」


ヨウのあっけらかんとした返答にますます憤慨する金髪。口を開こうとしたのをヨウが「ていうかさ」と先手を取る。


「頼みごとしに来たのなら名前ぐらい名乗りなさいよね。あ、そっちのクズ男はもう知ってるからいいわ」

「あ?」

「はぁ?」


喧嘩を売るようにヨウまでタケルに眼を飛ばすから、逆にアタシはちょっと冷静に。あと意外にもこっちも冷静だったのか金髪もブスッとした名乗りをあげた。


「……城見梨央……これでいい?」

「リオね。で、なんで断ろうとしてるのわかったの?」

「ウチは耳がいいのよ! そのおばさんが失敗するかもって見張ってたの! 全く酔い潰れた上に断らせようだなんて……何が統括よ」

「ご苦労様ね。でも答えは一緒。ね、ポチ」

「うん、お断り~」

「何でよ!?」


まぁそれから梨央は金切り声というかキンキンと響くような早口でクランに入るメリットとか、あとマスター……ゴウラさんだか何だかの素晴らしさを説きはじめた。

ほぼマスターさんの賛美だった気もするけど。

あと、崩れた独占体制を立て直したいとかそれ言っちゃっていいの? みたいな内容も。

まぁ美月さんにも聞いてたけど。

誠意があるのかないのかよくわからんなぁ、梨央。

ちゃんと説明するのが脅し役っぽいタケルを連れてきてるのと噛み合わないし。


「長い! 三行で!」

「豪羅様素敵! 報酬バッチリ! だからクランに入りなさい!」

「「パス」」

「何でよ~!!」


完全に平行線だ、コレは。でもまぁちゃんと三行で答える梨央にヨウが可笑しそうに吹き出していたりからかいがいがあるというか、まぁちょっと手伝うくらいならという気がしないでもなかったところだった。


「まだるっこしい」とタケルが割り込んできた。

おっ? やるか? とアタシは拳を構えたけどタケルが付き出してきたのは携帯端末の画面。

写っていたのは……女性のあられもない姿。


「おい、ヨウが大事なんだろ? コイツをばらまかれたくなきゃ黙って従えよ」


そう……写っていたのはヨウだった。

コイツと関係を持った時に勝手に撮られていたのか「最っ低」とヨウは毒づいた。

本気で殺意が沸いたのは初めてかもしれない。

アタシの気配が変わったのに気づいたヨウが咄嗟に抱きついていなければアタシはコイツを殺してた。


「何だよ? 止めんなよ、手ぇ出して来な……っ!」


ヘラヘラしていたタケルすら息を飲み、梨央共々数歩後ずさる。

あー、アタシ、今どんな顔してるのかなあ?



「……わかったわよ」


沈黙を破ったのはヨウだった。


「ポチ……悪いけどさ、この人らに協力してくれる?」

「ヨウ!? 何で…………アハ」


振り向き様に目に入ったヨウの貌に嗤いが漏れる。

あぁ……そっかぁ……ヨウもかぁ……きっとアタシ達は同じ種類の顔をしてるに違いない。

以心伝心、何をすべきかはもうわかる。


アニメとかみたいに殺気で人が死ぬってことはないみたいだけどピリピリした空気が気付けになったらしい。酔い潰れていた美月さんが「うぅん……」と浅い眠りから覚めた。


「あ、れ……城見さんに、大和さん? 何でここに?」

「あぁ、ミツキ。丁度良かったわ。さっきの話だけど受けてあげる。良かったわね? そこの二人も」

「うん、やってあげるよ」

「え、ハイ。それは、有難いのですが……」

「じゃあ詳しくはまた連絡して。私達、色々準備があるから……ポチ、帰るわよ」

「はーい……エヘヘ」

「フフフ」



フフ、ウフフ、エヘヘと嗤い合いファミレスを立ち去るアタシとヨウを豪放磊落の3人は誰も引き留めることが出来ないみたいだった。















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