「曲がり角警戒、足音からオーガ3頭、黒化種は無し……5,4,3,2,1,会敵」
「「フレイムランス!!」」
「「おらぁあああ!!」」
曲がり角から顔を出した瞬間、魔法の集中砲火、ひるんだところを前衛が突貫、瞬殺。
体力を温存しながらもモンスターになにもさせてない。
アタシの目からみた豪放磊落の面々の実力は~……まぁまぁやるじゃんって感じ?
少なくとも今のハル&アキよりはずっとずっと強い。
そりゃレベルとか装備の質とかが上っていうのもあるんだけど、かなり戦い慣れしてるんだよね。
ミツさんが言ってたけど、豪放磊落はダンジョンで素材を回収して利益をあげてる典型的な職業柄ダイバー集団らしい。求められるのは効率化ってわけで配信とかはあまりせずにガンガン階層を回ってはドロップを漁るのが目的。
クランのトップ、マスターの海堂豪羅さんには世界中のダンジョンを攻略する目標があるらしいけど、まぁその資金稼ぎって感じかな?
特に斥候っていうの? モンスターの接近を察知したりしてる梨央はこの間押し掛けてきた時とはまるで別人。
ピリッとして鋭い視線を向けている。主にアタシに向けて。
あっるぇ~? ひょっとして企んでるのがバレてる?
や、バレてたら悠長に攻略なんてしてらんないし、梨央は勘が鋭いのかもね。
アタシは最後尾からノンビリ一向についていく。
攻略は順調そのもの。まぁ今日はヨウが調整してるからね。
「いつもよりモンスターが少ないですね」なんて会話まで聞こえてくる。
まぁあとでね……嫌ってほど見ることになるから!
さて、アタシ達一向は現在40層ボス扉前。
アタシがまだボスを倒してないって設定だからさ。
倒しちゃるってことになってるわけです!
「おう、ポチ! どうだ俺のクランは!」
「うやっ……えーと……凄い……です?」
「ハッハッハ! まだ緊張してるようだなぁ! だが安心しろ。お前さんには傷一つつけさせんからな!」
アタシがびっくりするくらいの大声をかけてきたのは豪羅さん。緊張じゃないよ?
こうして話してる分には気のいいオッチャンみたいなキャラで、演説してるときとはまた違う雰囲気だ。
「さて、これから40層のボスに挑むわけだが攻撃は俺がやる。ポチ、お前さんには俺にブーストを使って貰う。50層の前にどんなもんか体験しておきたい、構わないか?」
「はーい、大丈夫でーす」
「……なんだか急に緊張感が無くなったな、ポチ」
「そーですか?」
や、だって……全然緊張も驚異も何も、ここパートナーの家みたいなもんだし?
むしろ悪巧みがバレないか、そっちの方が心配!
ほら! 豪羅さんと話したら視線が刺さるの!
主に女性メンバーの!
うん……別に豪羅さんを狙ってるとか無いから!
むしろ狙ってるのは……ね?
「よし、早速40層ボス……ブラックオーガの討伐だ! 何度も倒してる相手だろうが油断はするな!」
「「はい、豪羅様!」」
『豪羅様』
お、ここでミツさんから連絡だ。
ってことは予定通りに進んでるみたいだねー。
「なんだ、美月」
『どうやら先の消失以降ボスエリアの人数制限が取り払われているようです』
「そうなのか? 我々としては都合が良いが奇妙な話だな」
勿論、ヨウの仕業です! 今日は特別仕様なのです!
まぁ、ん十人も揃えられるのは大規模クランくらいだから実質豪放磊落専用キャンペーンではあるんだけど。
そんなわけで一気に20人で40層ボスエリア突入ー。
あ、ちなみに今日はアタシ抜きで40人くらいが参加中。
残り半分は待機してて41層から合流予定。
「よし、ポチ頼む」
「はーい。コホン……『ブーストギフト』」
なんちゃって覚醒スキル発動。
浮遊感に「おぉ……」とか言っちゃってる豪羅さんが可愛く見える、若干。
「せっかくだ。俺の覚醒スキルも見せておくとしよう!」
宣言するやいなや、単身黒化オーガに突貫する豪羅さん。ちょ、急に動かないでよ! 念動力合わせなきゃなんだから!
拳を握り込みオーガに肉薄した豪羅さんは迎撃するオーガの豪腕を片手で掴んで受け止めてしまう。
念動力の補助無しでも余裕そうだ。
「『爆裂撃』!!」
ここからの出来事にアタシ、それにダンジョンコアで見ていたヨウは大興奮だった。
スキル名を叫びながら繰り出された拳は赤熱したように光を放ち、オーガの土手っ腹に突き刺さる。
オーガは地面を滑るように数メートル吹き飛ばされた。
さらにその拳が打ち込まれたお腹。
くっきりと拳骨マークが刻まれていて、真っ赤に光っている。
豪羅さんがオーガに背を向け押忍! って感じでポーズを決めると拳骨マークを起点に ドッゴオオオオン 大爆発が起こった。
「「何これスッゲエエエエ!!」」
アタシとチョーカーマイク越しのヨウの歓声が重なったのも無理はないでしょ?
なんか堅実なクランかと思ったら1人だけ特撮ヒーローだもん。
こんなん生で見せられたらそりゃ「ついていきます!」ってなるよね。
「……ヨウ、これ豪羅さんはキープでしょ」
「だね。キープキープ」
マイク越しに小声で言葉を交わすアタシとヨウに梨央だけが視線を寄越すけど、追及まではしてこない。
耳がいいってのは本当みたいだし、そろそろ音漏れしないようにマイクの周りの空気は固めておこっと。