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第44話 過剰演出


「だめぇええええ!!」


突然の絶叫に思わずビクッとなったアタシです。ポチです。

ゴウラさんの一撃でヒュドラちゃんが撃破されて楽勝ムードのまま、さぁ51層への転移門へいざ! ってところだったんだけど、全員の足を止めるくらいにはけたたましい悲鳴をあげたのはリオだった。

リオは顔面蒼白で歯をカチカチならして過呼吸気味になっていて、さすがに心配したのかゴウラさんが転移門の手前から戻ってきた。


「おい、どうした梨央」

「豪羅様……さ、先に進んじゃダメ。み、皆死んじゃうの……う、ウチ……見えたの!」

「見えた? 何が見えた?」

「ぜ、全員が転移させられて……み、密林みたいなとこ……それで恐竜が襲いかかってくるの! すごい数で皆……どんどんヤられて……か、帰ろ! 今なら間に合うから! ね、ゴウラ様!」


言い切った梨央に、けれどクランメンバーからはドッと笑いが巻き起こった。

口々に「恐竜? ダンジョンに恐竜って(笑)」とか「ビビりすぎじゃない?」とか小馬鹿にするような小声もチラホラ。

ただ、アタシはリオの発言がただのビビり発言でないとわかっていた。


「……ヨウ……なんかバレてるんだけど」

「……あり得ない……なんでかな?」


音が漏れないようにしてヨウに聞いてみるとミツさんが割り込んできた。


「……覚醒スキル……かもしれません。未来予知系の」

「マジ? このいいとこで?」

「あー。なんかずっとアタシのこと睨んでたし……警戒心MAXだったから?」


なんてことでしょう。リオは土壇場の未来予知でこれから襲い来る危機を察知してしまったらしい。

まだ信じてる人はあんまりいなそうだけど、このまま粘られるのはよろしくなさそうだ。


「どうしよっか? ヨウ? ミツさん?」

「こんな映画あったわねー。ほら、事故を予知して何人かは回避するけど現実修正みたいに死ぬヤツ」

「あー! あった! あった! アレ結末どうなるっけ?」

「シリーズによりますが……大体最終的には全滅ですね」

「じゃ、そうしちゃいましょ。ポチ、ミツキ、プランB強制排出よ!」

「アイアイヨウ!」

「はい、ヨウさん」


というわけでグダグタとやってるクラン豪放磊落の皆様。

強制排出です! ボッシュートになります!


「わああああなんのひかりだあああ」


とりあえず大声を出しながら強烈な光を放って全員の視界を潰しまーす。

棒読み? わかってるよー! 演技は下手なんだって!


ぐわああああって目が塞がってる隙に念動力!

51層への転移門に全員を突っ込んだらお仕事完了!

テキトーに混ざって「なに? なにがおこったの?」みたいな顔をしておけばあとはミツさんのお仕事だよ。


「一体何が起こった?」

『……どうやら時間を使いすぎたようですね。強制的に次の階層に排出されたようです』

「何? そんな話聞いたことが……」

『ですがこの状況はそうとしか。それより見てください海堂さん。51層は……どうやら宝の山のようですよ』


ミツさんの有無を言わさぬそれっぽい理屈と畳み掛けるように眼前に広がるのは……大量の鉱石鉱石鉱石!

もうわかりやすくお宝だよ! みたいに壁からつきだす金色に輝く鉱石の山!


「ゴ、豪羅様!! 鑑定しました! こ、これ全部がオリハルコンですよ!!」


はい! 鑑定担当さん、ありがとうございます!

そう! 全部全部がオリハルコンなの!

これ売ったらいくらになるかなぁとか想像も付かないレベルの大量のオリハルコンが洞窟状に続く通路を埋めている。

まぁ……もちろん、罠なんだけど。

アタシでも流石にあからさま過ぎと思うくらいに罠だね。でもでもそこは物欲には負けるよねぇ。


「ウッヒョオオオ」と我慢出来なくなったクランメンバー……それは奇しくもタケルだった。

うっは! お誂え向きじゃん!

タケルがオリハルコンへと飛び付こうとするのにリオが「ヤメテエエエエエエ!!」と絶叫クイーンもかくやの滅茶苦茶イイ悲鳴をあげる。

リオにどこまで先が見えてたか知らないけど所詮は手の平の上、もう止められないし止まらない。


タケルの手が触れた瞬間だ。

オリハルコン全てが真っ赤に染まる異様な光景。

視界が血の色に塗り替えられクランメンバーが硬直する。

歪なノイズ混じりの『Judgment for GREED』というおどろおどろしい声が響き渡る。


……ちなみにこれ全部アタシの人力演出なんだからね?

ダンジョンといえどさすがにこんな機能はございません!

さぁ恐れおののけ! アタシの涙ぐましい努力に!

ま! 「何だ何だ」とたじろいでる場合でもないけどね!

ヨウがせっせとあらかじめ仕込んでいた罠……51層全て、天井も床も壁も、フロアを埋め尽くす転移陣が一斉に起動。ノーエスケープ! 逃げ場無し! ていうかほとんどが無駄だけど! いいんだよ! こういうのはやりすぎくらいが丁度イイって言うでしょ!?


「「は??」」


いっそ間抜けにすら聞こえる困惑の声音を残し、クラン豪放磊落攻略メンバー約40名は転移の浮遊感と共に見慣れない空間に飛ばされる。


そこは……あ、リオが「だからいったのにいいいいい!?」って絶望の悲鳴をあげてるからもうわかるよね?


そう! ここは密林! ザ・ジャングル!

トーキョーダンジョンから一気にヨウのダンジョンのジュラシック・エリアに全員を転移させたのです!


さ、混乱から立ち直れない内にアタシはもう一仕事。

ステルス状態に移行して……所持品から帰還の翼を回収しまっす! 今日のアタシは神速の黒子なのだ!

裏方でアレコレやるのがお仕事!

ふはははは誰も逃がさんぞー!












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