カミラ・ローレンスは侯爵家の一人娘として生まれ、幼い頃から周囲に「完璧」を求められてきた。優れた容姿、卓越した知性、そして誰にでも冷静に接する姿勢。これらの特徴が「氷の令嬢」という評判を彼女にもたらした。しかし、誰も知らない事実がある。彼女は決して冷たい人間ではなく、その表情を隠す「仮面」をかぶり続けているだけなのだ。
カミラの住む侯爵家は壮麗な建築で、宮廷貴族の中でも特に権威を持つ家柄だった。大理石の廊下、金細工が施された調度品、手入れの行き届いた庭園。その中で育ったカミラは、幼い頃から家の名誉を汚さぬよう厳しく躾けられた。父であるラルフ侯爵は冷徹な人物であり、娘であるカミラにも同様の態度を期待していた。母であるクラリッサは社交界の花として知られていたが、娘に対する愛情は形式的なものだった。
15歳の頃、カミラはある事件をきっかけに「感情を見せること」の危険性を悟った。その事件は些細なものだったが、彼女の心に深い傷を残した。当時、彼女は心を許した侍女に自分の悩みを打ち明けた。しかし、その侍女がそれを利用して他の貴族たちに情報を漏らした結果、カミラの評判は一時的に傷つけられたのだ。それ以来、彼女は誰にも心を許さず、冷徹な仮面をかぶることで自分を守るようになった。
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カミラは今日も社交界の場に足を運んでいた。煌びやかなシャンデリアが輝く舞踏会場。貴族たちが華やかなドレスやタキシードをまとい、優雅な音楽に合わせて踊る。だが、カミラはその光景をどこか冷めた目で見つめていた。彼女にとって、これらの場はただ「参加する義務」でしかなかった。
「お嬢様、今夜の舞踏会では、特に気を付けてくださいませ。」
侍女が小声で耳打ちしてきた。
「どういう意味かしら?」
カミラは淡々と尋ねる。侍女は少し戸惑った表情を見せたが、すぐに答えた。
「最近、宮廷内で不穏な動きが噂されています。特に、お嬢様の婚約者であるエドワード様に関するものです。」
その名を聞いた瞬間、カミラの眉がわずかに動いた。エドワード・バーンズ。彼女の婚約者であり、公爵家の御曹司。形式的な婚約関係であり、カミラにとって彼は何の感情も湧かない相手だった。しかし、彼の行動に不審な点があることは以前から気づいていた。
「具体的には?」
「詳しいことはわかりませんが、彼の周囲で何かしらの陰謀が進行しているとの噂です。」
カミラは侍女の言葉を聞き流すふりをしながら、その情報を頭の中で整理していた。エドワードは最近、妙に行動が読めなくなっていた。舞踏会への出席が減り、姿を見せたと思えば短時間で帰ってしまう。そんな彼に対して、カミラは婚約者としての関心を抱くよりも、「この婚約が自分や家にどのような影響を及ぼすか」を冷静に見極めようとしていた。
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舞踏会の最中、カミラは窓辺に立ち、一人で外を眺めていた。煌びやかな舞踏会場とは対照的に、外の庭園は静寂に包まれていた。その静けさが、彼女の心を少しだけ落ち着かせる。
「お一人でいらっしゃるとは珍しいですね。」
突然、背後から低く落ち着いた声が響いた。カミラは振り返り、その声の主を見る。そこに立っていたのは、黒い仮面をつけた男だった。身長は高く、完璧に整ったタキシード姿が目を引く。その姿は一見して執事のようだが、ただ者ではない雰囲気を漂わせていた。
「どなたかしら?」
カミラは冷静を装いながら問いかけた。だが、相手は微笑むでもなく、ただ一礼した。
「私は本日よりカミラ様にお仕えすることになった執事、ルイスと申します。」
「執事?聞いていないわ。」
「侯爵様からのご指示です。今日付で私が専属としてお仕えいたします。」
カミラは父が何の相談もなく専属の執事をつけたことに内心憤りを覚えたが、その感情を表に出すことはしなかった。
「仮面をつけている理由は?」
「それについては、いずれお話いたします。ただし、今は時期尚早かと。」
ルイスの口調は丁寧で、何も疑問を残さないように感じさせる。それでも、カミラは彼の言葉の裏に何かしらの意図が隠されていることを察していた。
「では、よろしくお願いするわ。」
そう言い残し、カミラはその場を去った。背後からルイスの視線を感じながらも、それを無視して舞踏会の喧騒の中に戻っていった。彼女の心には、一抹の不安と興味が交錯していた。
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この時、カミラはまだ知らない。この仮面の執事が、彼女の人生を大きく変える存在になることを。
セクション2:仮面の執事
カミラが新たに配属された執事ルイスと初めて対面した翌日、彼女は父であるラルフ侯爵に事情を問いただすため執務室を訪れた。
「お父様、新しい執事について説明をいただけますか?」
大理石の床に反響するカミラの冷たい声。それに応じるように、ラルフ侯爵は書類から目を離し、娘を一瞥した。
「特別な事情だ。それ以上の説明は不要だろう。」
侯爵の一言は重く、反論の余地を与えない。カミラはその言葉に従う素振りを見せつつも、内心ではその事情が「特別」とされる理由を疑問に思わずにはいられなかった。
彼女は幼い頃から父の命令に疑問を挟むことを許されなかった。だが、今回は違う。仮面をつけた執事が突然配属されるなど、尋常ではない。
「かしこまりました。」
そう言って頭を下げたカミラは、執務室を後にした。その瞬間、彼女の心の中では「この執事の正体を必ず突き止めてみせる」という決意が固まっていた。
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その日の午後、カミラは執事ルイスと初めて正式な会話をする機会を設けた。彼女の指示で用意された侯爵家の応接室は、外界の騒がしさを完全に遮断した静謐な空間。柔らかなソファ、香り高い紅茶の湯気。だが、カミラの目線はただルイスの仮面に釘付けだった。
「あなた、仮面をつけたままでは紅茶も楽しめないでしょう?」
カミラは皮肉を込めた言葉で探りを入れる。ルイスは穏やかな微笑みを浮かべたが、仮面越しの表情は読み取れない。
「確かに、少々不便ではあります。しかし、仮面は私にとって不可欠なものです。」
「不可欠とは?」
「安全のためです。」
簡潔すぎる答えにカミラの眉がわずかに動く。仮面が安全に関わるなど、聞いたことがない。
「安全のために顔を隠す執事など、私は初めて聞きました。もう少し詳しく説明していただけませんか?」
カミラは紅茶を口に運びながら、目線を逸らさずに問い詰める。ルイスは一瞬だけ沈黙した後、口を開いた。
「私の素性を知れば、お嬢様を危険に巻き込む可能性がございます。それが、仮面をつける理由の一つです。」
「それでは、あなたの正体を知ること自体が危険だと?」
ルイスは答えない。その沈黙が、カミラに彼の言葉の信憑性を感じさせた。何か重大な事情があるのは明らかだ。
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その後の数日間、カミラはルイスの動向を観察した。彼は完璧な執事としての職務を果たしていた。カミラのスケジュール管理、書簡の整理、そして客人への対応。どれをとっても非の打ち所がない。しかし、それ以上に目を引いたのは彼の「異常な」能力だった。
ある日、カミラが庭園を散策している最中、一匹の猛禽が突然空から急降下してきた。護衛の騎士たちが咄嗟に対応しようとするも、間に合わない――と思った瞬間、ルイスが驚くべき速さで飛び出し、素手で猛禽を追い払ったのだ。
「危険でしたね、お嬢様。」
仮面の奥から穏やかな声が響く。カミラはその光景に言葉を失ったが、すぐに平静を装って問いかけた。
「あなた、ただの執事ではないわね。」
ルイスは微笑むだけで何も答えなかった。その微笑みがカミラには少しだけ不愉快だった。
その日の夜、カミラは寝室で一人、考え込んでいた。彼女の人生において、ルイスほど謎めいた人物は現れたことがない。仮面をつけた理由、異常な身体能力、そしてその穏やかすぎる態度。すべてが彼の素性に関する疑念を強める要素だった。
「一体、何者なの……?」
カミラは窓辺に立ち、月明かりに照らされた庭園を眺めながら独り言をつぶやいた。その時、部屋の扉がノックされた。
「お嬢様、失礼いたします。」
現れたのはルイスだった。カミラは少し驚いたが、その表情を隠し、冷静に彼を迎え入れる。
「何か用かしら?」
「一つ、ご報告がございます。」
「報告?」
ルイスは一歩前に出て、仮面越しの目を彼女に向けた。
「婚約者であるエドワード様が、ここ数日間行方不明であるという情報が入りました。」
その一言はカミラの胸に重く響いた。婚約者への個人的な感情はなかったものの、侯爵家にとってその状況が意味するものは重大だ。
「どういうこと?」
「まだ詳細は不明ですが、彼の失踪には宮廷内の陰謀が関係している可能性が高いです。」
ルイスの冷静な声が、かえって不安を煽るようだった。カミラは数秒の沈黙の後、口を開いた。
「分かったわ。この件、あなたに任せる。」
その言葉を聞き、ルイスは一礼して部屋を後にした。だが、カミラは胸に湧き上がる不安を隠すことができなかった。彼女はまだ知らない。この夜が、彼女の人生を大きく揺るがす転機となることを。
エドワードの失踪に関する報告を受けた翌朝、カミラは侯爵家の食堂で朝食をとっていた。銀製のカトラリーが皿の上で音を立てる中、彼女の脳裏には昨夜のルイスの言葉が繰り返し浮かんでいた。
彼女の婚約者であり、公爵家の次期当主であるエドワード・バーンズは、単なる家同士の利害関係による婚約の相手だった。個人的な感情はなかったが、その地位が失われることで侯爵家がどう影響を受けるのかは容易に想像がついた。
「失踪とはいえ、彼がどこかの別荘で気ままに過ごしている可能性もあるわ。」
自分自身にそう言い聞かせながらも、胸に湧き上がる不安を拭い去ることはできない。
ルイスが紅茶を淹れながら静かに口を開いた。
「お嬢様、少々失礼ですが、エドワード様に関する詳しい情報をお持ちでしょうか?」
「詳しい情報?」
「失踪の背景を探るためには、彼の日頃の行動や交友関係が鍵となるでしょう。」
カミラはフォークを置き、ルイスに向き直った。
「彼の行動はほとんど報告されていないわ。宮廷の行事に出席する際も、いつも短時間で退席していたし、特に親しい友人がいるようにも見えなかった。」
「なるほど。」
ルイスは一瞬目を閉じて考え込むと、再びカミラに目を向けた。仮面越しに視線が交わるその瞬間、彼がすでに何かを掴んでいるかのような雰囲気を感じた。
「お嬢様、私に少し時間をいただけますか?独自に調査を進めさせていただきます。」
「あなたに任せるわ。ただし、私も彼の失踪が家に及ぼす影響を正確に把握したい。報告は逐一お願いするわよ。」
「かしこまりました。」
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その日の午後、ルイスは侯爵家を出て調査に向かった。一方のカミラは、執務室に籠りながらエドワードに関する過去の記録を調べ始めた。婚約の条件、過去の振る舞い、彼が侯爵家に送った手紙――すべてを再確認するうちに、一つの奇妙な点に気が付いた。
エドワードの手紙には、彼自身の言葉よりも秘書と思われる人物の筆跡が多く見られる。それも、特定の時期以降急増しているのだ。
「これは……一体?」
カミラは眉をひそめながら手紙の山を見つめた。エドワードは本当に自ら手紙を書いていたのか、それとも誰かが代筆していたのか。この疑念が、彼の失踪がただの偶然ではないという確信に変わっていく。
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夕方、ルイスが戻ってきた。彼の手には一冊の小さな黒い手帳が握られている。
「お嬢様、少し進展がありました。」
「進展?」
「エドワード様の行動に関する目撃情報をいくつか集めました。彼は失踪直前、宮廷の裏手にある貴族街の一角を頻繁に訪れていたようです。」
「貴族街?あの場所には特に目立った施設もないはずよ。」
「おっしゃる通りです。しかし、地下に隠された集会所が存在する可能性があります。」
ルイスの言葉にカミラは驚きを隠せなかった。侯爵家の情報網でも聞いたことのない話だ。
「集会所?それは何のために?」
「まだ確証はありませんが、違法な賭博や秘密の会合が行われている可能性があります。」
「エドワードがそのような場所に?」
カミラは困惑の表情を浮かべた。エドワードは表向き礼儀正しく優雅な青年だった。そのような裏社会の活動に関わるとは到底信じがたい。しかし、ルイスの冷静な説明は、彼の言葉に信頼性を与えていた。
「お嬢様、私が現地を調査します。少々危険な場所ですが、何か有益な情報を得られるかもしれません。」
「……分かったわ。気をつけて。」
ルイスは一礼し、その場を後にした。
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その夜、カミラは寝室の窓辺に立ち、満月に照らされた庭園を見下ろしていた。彼女の胸には、ただならぬ緊張感が走っていた。
「エドワードがそんな場所に通っていたというの?彼が表向きの姿以上に何かを隠していたなんて……。」
カミラの心は揺れていた。これまで冷静沈着に振る舞ってきた彼女が、ここまで感情を動かされるのは珍しいことだった。
その時、再び扉がノックされた。現れたのはルイスではなく、彼女の侍女だった。
「お嬢様、大変です。屋敷の門前に怪しい者たちが現れました。」
「怪しい者たち?」
「はい、黒いフードを被った一団です。門番たちが対応していますが、緊迫した状況のようです。」
カミラは即座に立ち上がり、命じた。
「護衛たちに準備をさせて。私も様子を見に行くわ。」
彼女が屋敷の門に向かう途中、再びルイスの姿が現れた。彼の表情は見えなかったが、仮面越しに冷徹な気配を感じ取ることができた。
「お嬢様、危険です。ここは私にお任せください。」
「あなた一人では心配だわ。」
「私はこうした事態に備えるためにいるのです。どうか中にお戻りください。」
カミラはその言葉に迷いながらも、彼の決意に押される形で一旦屋敷内に戻ることにした。
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それから数時間後、ルイスは無事に戻り、一団は追い払われたと報告した。しかし、彼の服には血痕がついており、明らかにただの脅しではなかったことがわかる。
「これから、ますます慎重になる必要があります。」
「彼らは何者だったの?」
「まだ特定はできていませんが、エドワード様の失踪と何らかの関連がある可能性が高いです。」
その言葉を聞いたカミラの胸には、ますます強い疑念と不安が募るばかりだった。彼女は気づき始めていた。エドワードの失踪は、侯爵家全体を巻き込む重大な陰謀の入り口にすぎないのだと。
ルイスが黒いフードの一団を撃退してから数日が経過した。その間、侯爵家の周辺では不穏な気配が漂い続けていた。門番たちの増強や警備の強化が行われたが、カミラは気が休まることはなかった。
エドワードの失踪は単なる偶然ではない――その確信だけが彼女の胸中に広がっていた。
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カミラは執務室で手元の資料に目を通していた。エドワードが失踪する前に送ってきた手紙、それに加えて宮廷からの報告書の断片。いずれも具体的な手がかりを与えるものではなかったが、ある共通点が浮かび上がってきた。
「彼が消える直前に接触していたのは、いずれも宮廷内でも影響力の大きい派閥の貴族たち……。」
カミラは口元に手を当て、考え込んだ。彼らの目的は何なのか。そして、その影に潜む「夜の梟団」という組織の存在。
その時、扉がノックされ、ルイスが姿を現した。
「お嬢様、重要な報告がございます。」
「入りなさい。」
ルイスは静かに執務室に入ると、カミラに一枚の紙を差し出した。そこには簡潔な地図といくつかの書き込みがされている。
「これは?」
「先日の集団を追跡した結果、彼らが利用しているとされる隠れ家の位置を特定しました。」
カミラは地図に目を通し、驚きを隠せなかった。その場所は、侯爵家からそう遠くない貴族街の裏手に位置していた。
「この距離……まさか、ここまで近くに?」
「彼らは侯爵家に対して何かを仕掛ける準備を進めている可能性があります。」
ルイスの言葉は冷静でありながら、危機感をはらんでいた。
「あなたはその場所を調べに行くつもり?」
「はい。お嬢様を危険に晒さないためにも、私が先に確認する必要があります。」
「私も同行するわ。」
その一言に、ルイスの表情がわずかに変わった――仮面越しでもその動揺を感じ取れるほどに。
「お嬢様、それは――」
「危険だとわかっているわ。それでも、私は無関係のままでいるつもりはないの。」
カミラの目には揺るぎない決意が込められていた。ルイスは一瞬だけ考え込むと、やがて小さくため息をついた。
「かしこまりました。ですが、私の指示には従っていただきます。それが条件です。」
「いいでしょう。あなたに従うわ。」
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その夜、カミラとルイスはひっそりと侯爵家を出発した。周囲の目を避けるため、少人数での行動が求められた。カミラは黒いマントを身にまとい、貴族街の裏手に向かう。街灯の明かりが届かない路地に入り込むと、そこには異様な静けさが漂っていた。
「ここが隠れ家の入口です。」
ルイスは小声でカミラに囁き、建物の壁際に身を寄せた。そこには古びた扉があり、一見してただの廃屋にしか見えない。だが、扉の下部には微かな光が漏れており、内部で何者かが活動していることがわかる。
「音を立てずに。」
ルイスは手でカミラを制し、自ら扉を押して中を覗いた。その先には狭い通路が続いており、奥から複数人の話し声が聞こえてくる。
「お嬢様、ここで待機してください。」
「勝手に突っ込むつもり?」
「彼らの動きを確認するだけです。」
カミラは不満げだったが、仕方なくその場に留まることにした。ルイスは音を立てずに通路を進み、話し声の近くまで接近した。彼が隙間から中を覗くと、そこには黒いフードを被った男たちが集まり、何やら書類を広げて議論していた。
「次の標的は……侯爵家だ。」
その言葉に、ルイスの目が鋭く光る。
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数分後、ルイスは再びカミラの元に戻ってきた。その表情には緊張感が漂っていた。
「お嬢様、急いで戻りましょう。彼らの次の計画は侯爵家に対する攻撃です。」
「何ですって……?」
カミラはその場で言葉を失った。侯爵家が標的になるという事実は、彼女にとって想像以上に衝撃的だった。
「彼らが動く前に準備を整える必要があります。」
「わかったわ。すぐに対策を講じましょう。」
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その夜、カミラは侯爵家に戻るとすぐに父に報告した。しかし、ラルフ侯爵は娘の報告を一蹴するかのように冷静だった。
「ただの脅しに過ぎないだろう。それに動揺する必要はない。」
カミラは父の態度に苛立ちを覚えたが、それを表には出さなかった。代わりに、彼女は自分自身で行動することを決意した。
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翌朝、カミラは執事たちに命じ、屋敷内外の警備をさらに強化させた。同時に、ルイスにはさらなる調査を依頼した。
「彼らが次に動くまで時間があるとは思えないわ。すべてを把握する前に、こちらから仕掛ける必要がある。」
「その通りです、お嬢様。ですが、慎重に行動する必要があります。」
カミラとルイスは目線を交わしながら、侯爵家に迫る危機に立ち向かう覚悟を固めた。その日が、彼女の人生の転換点となることを予感しながら――。
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