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第66話


「島国には、ある時期から『死よりの者』が数多く存在するようになったと書いてありました。

 しかしこの時点の『死よりの者』は人間を襲うことはなく、ただ存在しているだけだったようです。

 島民も『死よりの者』を、実害の無い幽霊や妖怪のようなものだと認識していたようです。


 しかし実害が無いとはいえ気味が悪いため、退治をしようとした者もいました。

 ですが、物理攻撃も魔法攻撃も効かなかったそうです。


 なお『死よりの者』から攻撃をしてくることはありませんでしたが、島民がしつこく攻撃を続けると反撃をしてくることがありました。


 その反撃が凄まじく……『死よりの者』はその名の通り『死』に精通していて、望んだ相手を一撃で死に追いやることが出来ると判明しました。


 『死よりの者』のあまりの強さを知った島民たちは怯えましたが、そのうちに対処法も見つかりました。

 唯一、聖女の使う聖力だけが『死よりの者』を灰と化すことが出来ることが分かったのです。

 運よく島には一人の聖女が存在していたため、聖女の聖力で『死よりの者』を灰にしていきました。


 『死よりの者』は、逃げるどころか聖力を浴びることを望んでいるようでした。

 どの『死よりの者』も、聖力を避けず弾かず真正面から浴びていたからです」




 確かに私の出会った『死よりの者』は、全員が聖力を避けようとはしなかった。

 ということは、ジェーンの持ってきた本に書かれている内容は、ある程度は本当のことが書かれていると思っても良いのかもしれない。


「聖女の登場で、めでたしめでたし、というわけか」


「……いいえ。そうはならなかったのです」


 もし、めでたしめでたしなら、今も日本は存在しているはずだ。

 しかし島民は『死よりの者』を退治したいと思い、『死よりの者』は聖力を浴びたがっている状況で、聖力が使える聖女もいるのに……何故めでたしめでたしにはならなかったのだろう。


 その答えはすぐにジェーンがくれた。




「島国の王は、『死よりの者』を軍事利用できると考えました。

 物理攻撃も魔法攻撃も効かず、相手を一撃で仕留められる『死よりの者』を、王の兵にすることにしたのです。


 『死よりの者』と言葉を交わすことは出来ませんでしたが、『死よりの者』は人間の言葉を理解していました。

 そのため島国の王は『戦いに勝ったら聖力を浴びさせてやる』と言って、彼らを酷使したのです。


 その頃、島国では重税に反発した島民が各地で暴動を起こしていました。

 王は『死よりの者』という圧倒的な武力により、それらの暴動を鎮圧しました。

 重税に苦しむ民衆の声を、『死よりの者』の武力で消したのです。


 物理攻撃も魔法攻撃も効かない『死よりの者』に、島民は手も足も出ませんでした。

 王の意志に反発する島民は、『死よりの者』によって次々と消されました。


 そうしていつの間にか島国は、王の独裁国家と化していました」




 国のトップが民衆の声を聞かない国は、崩壊の道を進む。

 それは『私』の元いた世界でも同じだ。


 この世界と元いた世界は全く違うと思っていたが、変なところでリンクしている。

 きっと元の世界でも、そのうち日本は……。




「国内の暴動が静まった後、王は国外に目を向けました」




 思考によって遠くなりかけた意識を、ジェーンの言葉が引き戻した。


 いけない。

 今の私は、ローズ・ナミュリーだ。

 この世界で生きるローズ・ナミュリーは、違う世界の日本のことなんか気にしない。

 今はジェーンの話に集中しないと。




「王は『死よりの者』がいれば、戦争にも勝つことが出来ると考えました。

 そのため国内の暴動を制圧したときと同じことを『死よりの者』に言いました。


 聖力を浴びたい『死よりの者』は、王に従いました。

 戦場に出向いては勝って戻り……また次の戦場に駆り出されました。

 あちらの国で戦っては、こちらの国で戦って、『死よりの者』は王の命令に従って戦い続けました。


 『死よりの者』は何度戦争から戻っても、聖力を浴びることは出来ず、まだ戦争は終わっていないと言われてまた次の戦場に駆り出されたのです」




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