私の案内でミゲルのアジト付近に到着した『死よりの者』たちは、近くの茂みで姿を隠すことにした。
目撃者は少なければ少ない方が良い。
ミゲルの仲間には悪いが、ミゲル以外には『死よりの者』を見られたくはない。
「アジトが町から離れているおかげで、誰にも見られずに着地できましたね」
セオは興味深そうにアジトの洞窟を眺めている。
「ここに目的の人物がいるということですね」
「はい。アジトの入り口はこちらです」
セオと一緒に洞窟の入口へ向かうと、夜も遅いというのにミゲルはアジト内の椅子に座って待っていた。
「遅かったな」
「ごめんなさいね。子どもが寝る時間に訪ねてしまって」
「このくらいの時間は普段でも起きてるよ」
ミゲルは子ども扱いされたことが嫌だったのか、指で目を見開きながらそう言った。
しかし指を離すとミゲルのまぶたが若干落ちてきた。
本当のところは少し眠いのかもしれない。
「その人は?」
ミゲルがセオを怪訝そうな目で見つめた。
「護衛として屋敷まで一緒に来てくれるセオさんよ。さすがにミゲルと私だけで旅をするのは無理があるから。セオさん、この子はミゲルです」
「初めまして、ミゲル君。屋敷まで同行するセオです」
「……ふーん。敵じゃないならどうでもいいけど」
ミゲルはセオのことを上から下まで眺めてから、興味無さそうに言った。
「すみません、セオさん。ミゲルって根は良い子なんですけど……」
「気にしないでください。夜にいきなり訪ねてきた初対面の怪しい相手に、礼儀正しくする人の方が少数派ですから」
その言い方だとまるで不審者のようだが、セオは王の側近だけあって姿勢がよく、真面目そうな顔つきもあって、一見できちんとした人だということが分かる。
「それで、屋敷まではどうやって行くんだ? 馬車か?」
「見れば分かるわ。茂みに乗り物を隠してるから。乗り物というか……うん」
「馬車じゃないのか? 用意できるかもしれないとか言ってた特殊な乗り物が用意できたのか?」
「ええ。しかも三体いるから、私と一緒に乗らなくても良さそうよ。こっちに待機させているの」
「三……体?」
私の数え方に疑問を抱いた様子のミゲルは、それでも一緒について来てくれた。
三人で『死よりの者』の隠れる茂みの近くまで歩いて行く。
「ビックリするだろうけど、絶対に大声は出さないでね。彼らは敵ではないから」
「ビックリするような乗り物ってなんだよ。それに乗り物に敵も何も無いだろ」
ああ、これはビックリするなあ。と思いつつ、ミゲルに『死よりの者』を見せた。
「うわっ……」
大声を出しそうになったミゲルは、急いで自身の口を覆った。
そして必死で声を抑えつつ叫んだ。
「おい! なんでこいつがここにいるんだよ!? こいつって、この前襲ってきたやつの仲間だろ!?」
「でも今回は協力してくれるの。彼らが私たちを屋敷まで運んでくれるのよ。ちなみにここまでも彼らに乗って飛んできたの」
「はあっ!?」
ミゲルは三体の『死よりの者』を見比べて、さらに夜空を見上げてから、また小声で叫んだ。
「こんなやつらに命を任せろって言うのかよ!? 落とされたら死ぬだろ!?」
「そりゃあ落とされたらね……」
「やっぱりおれは屋敷に行くのをやめる」
さっさと帰ろうとするミゲルの腕を、急いで掴んだ。
「お願い。お母様が大変なの。ミゲルにしか助けられないのよ!」
「その前に全員落ちて死ぬだろ!?」
「そんなことないわよ。ねえ?」
≪ 我らが“扉”と“扉”の大事な者を墜落死させるはずがありません。我らは“扉”を失いたくはありませんから。 ≫
私が同意を求めると、『死よりの者』たちは私の意見を肯定してくれた。
「だからそいつらの言葉はおれには分からないんだってば!」
しかし『死よりの者』たちの意見は、ミゲルには聞き取れないようだった。
一方セオはセオで、言い合いを続けるミゲルと私を放置して、『死よりの者』の身体を調整するように撫でている。
「運ぶのが子どもなのは幸いですね。彼くらいの重さなら、こっちの『死よりの者』でも楽に運べることでしょう」
セオが蜂型の『死よりの者』を示した。
そしてペリカン型の『死よりの者』ののど袋の中を確認してから笑顔を見せる。
「ミゲル君は蜂型の『死よりの者』に肩を持ってもらえば寝ていても問題ありませんし、ローズ様はペリカン型の『死よりの者』ののど袋に入れて運んでもらえば快適に眠ることが出来ます」
「私ではなく、ミゲルをのど袋の中で眠らせた方が良いのではないでしょうか。理由は汚……その、肩を持たれるのはミゲル君が辛いかもしれないので」
「あいつの口の中で眠るくらいなら、肩を持たれた方がマシだよ」
「私も口の中に入るのはちょっと……」
自慢げにのど袋を見せつけていたペリカン型の『死よりの者』が、私たちの反応を見てしゅんとしてしまった。