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第9話 慎一の決意




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冷たい風が村を吹き抜ける中、慎一は家の中で一人、考え込んでいた。

ユキが雪女だということを知ってから数日が経つが、彼の心は未だ整理がつかず、ユキともまともに話せていない。それでも、彼女の涙を思い出すたびに胸が締めつけられた。


「僕は……どうしたいんだ?」

慎一は小さく呟いた。彼の中にはまだ迷いが残っていた。しかし、その迷いを打ち消すように、一つの記憶がよみがえる。初めてユキと出会ったときの彼女の優しさ、不器用ながらも一生懸命だった姿。それは誰よりも人間らしいもので、彼にとって特別な存在だった。


「僕はユキさんが好きだ……。」

慎一は自分の気持ちを改めて自覚し、その思いを伝えなければならないと決意した。彼女が雪女だろうと、人間だろうと関係ない。自分が彼女のそばにいることで彼女を支えられるなら、それだけで十分だと思えた。



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翌朝、慎一は意を決してユキの家を訪れた。小さな木製の扉を叩くと、ユキが現れた。彼女の表情は硬く、目の下には薄いクマができている。慎一の姿を見た瞬間、ユキは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐにその目を伏せた。


「慎一さん……どうして?」

「話がしたいんだ。時間をもらえないかな?」

慎一の真剣な声に、ユキは戸惑ったように彼を見つめたが、結局、小さく頷いて家の中へと招き入れた。



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部屋の中は相変わらず冷たかったが、慎一はそれを気にせずに話を切り出した。


「ユキさん、僕は君に伝えたいことがあるんだ。」

「……なんですか?」

ユキは慎一をじっと見つめた。その瞳には恐れと期待が混ざり合っていた。


「僕は……君のことが好きだ。」

慎一の言葉に、ユキの目が大きく見開かれた。彼女の口元がわずかに震える。


「君が雪女だってことも知ってる。それでも……それが君そのものなんだって思う。僕にとってはそれが大事なんだ。」


ユキは言葉を失ったように慎一を見つめていた。彼の告白は、彼女にとって予想以上に重く、嬉しいものだった。しかし、それ以上に彼女の中には恐れがあった。


「私……あなたに何も返せません。」

ユキは震える声でそう言ったが、慎一は首を振った。


「何も返してほしくない。ただ、僕が君を支えたいんだ。それだけでいい。」

慎一の目は真剣だった。その目を見たユキは、心の中で渦巻く不安を少しずつ感じなくなっていった。



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しかし、その瞬間、ドアの向こうから誰かが静かに拍手をしている音が聞こえた。二人が振り返ると、そこには沙耶が立っていた。


「素敵な告白ね。おめでとう。」

沙耶の声には皮肉が混ざっていた。彼女の銀髪が月光を反射し、部屋の中を冷たい光で満たしているように感じられる。


「沙耶さん……。」

慎一が驚きながら名前を呼ぶと、沙耶は余裕のある笑みを浮かべた。


「でも慎一さん、あなたは分かっているの? 彼女と一緒にいるということがどういうことなのか。」

「どういう意味だ?」

「彼女の力は、あなたを傷つけるわ。いくら彼女を支えたいと思っても、あなた自身が無事でいられる保証なんてないのよ。」


沙耶の言葉に、慎一は反論しようとしたが、ユキが一歩前に出た。彼女は沙耶に向き直り、静かに言った。


「やめてください。彼を惑わすのは……。」

「惑わす? いいえ、私はただ現実を教えてあげているだけよ。あなたが自分の力をコントロールできない限り、慎一さんにとってあなたは危険な存在なの。」


ユキの体がわずかに震えた。沙耶の言葉が彼女の心の奥深くに刺さったのだ。慎一が何かを言おうとしたが、ユキは彼を制するように手を上げた。


「慎一さん……私にはあなたを傷つけたくない。でも、それを防ぐことができる自信がない。」

ユキの言葉には、慎一を突き放すような冷たさがあった。その冷たさに、慎一は言葉を失った。


「だから……近づかないで。」

ユキはそう言い残し、部屋の奥へと姿を消した。



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