冷たい月光が雪原を照らし、静寂が辺りを包む夜。村の祝宴が終わり、慎一とユキが新たな日常へ歩みを進めようとしているその時、遠く離れた森の中で沙耶は静かに立っていた。
彼女の銀髪が月光を受けて輝き、背中に広がる光のオーラが妖艶な美しさを放っていた。その美しい姿とは裏腹に、彼女の表情にはどこか険しい影が差していた。
---
「ふふ、二人は祝福されているようね。」
沙耶は自嘲気味に笑いながら、目を細めた。遠くから村の様子を感じ取っていた彼女は、慎一とユキの笑顔を見つめるように目を閉じた。
「愛が全てを超える? そんな甘い幻想がどれだけ続くのかしら。」
彼女の声には冷たい皮肉が込められていた。彼女にとって、人間とあやかしの愛など、長く続くはずがないという確信があったのだ。
---
沙耶はそっと手を上げると、その指先から月光が揺らめくように広がった。月の力を自在に操る彼女にとって、この光は武器であり、同時に彼女自身の孤独を象徴していた。
「結局、私には誰もいない。」
沙耶の声は静かで、どこか寂しげだった。
彼女は慎一とユキの関係を壊そうとしながらも、その裏には羨望と嫉妬が混ざり合っていた。彼女が持たないものを、ユキが手に入れようとしている。それが彼女の胸を締め付けていた。
---
沙耶は月光の中に立ちながら、静かに呟いた。
「彼らがどれだけの覚悟でこの愛を貫くのか……興味があるわ。」
その言葉には皮肉だけではなく、わずかな期待も込められていた。彼女自身、愛を信じたい気持ちがどこかに残っているのかもしれない。しかし、それを認めることは沙耶にとって敗北を意味していた。
「まあいいわ。どちらにせよ、私の手を離れたわけじゃない。」
沙耶は微笑みながら、空に向けて手を伸ばした。月光が彼女の指先に集まり、まるで月そのものを掴もうとするかのようだった。
「彼らの愛が終わる日を待っている。」
その言葉には、冷たい決意とわずかな哀れみが込められていた。
---
沙耶は静かに踵を返し、雪の上を歩き出した。その足跡は深い雪に刻まれ、やがて風に消されていった。
月光が再び雪原を静かに照らし出し、彼女の姿は森の闇の中へと溶け込んでいく。その背中には、孤独と哀愁、そして執念が漂っていた。
「愛とは何か……いずれ私にも教えてくれるのかしらね、慎一さん、ユキさん。」
沙耶は誰にも聞かれない声で呟き、冷たい夜の中へと消えていった。
---
その夜の終わり
村では慎一とユキが肩を寄せ合い、暖かな灯りの中で新たな未来を語り合っていた。その光景は幸福そのものだったが、彼らの知らない場所で沙耶は密かにその行く末を見守る存在となっていた。
沙耶が抱く孤独と執念――それはいつか二人の愛に試練をもたらすかもしれない。しかし、今はただ、静かに彼らを見守る影となった。
月光が雪原を照らす中、物語は新たな章の始まりを告げるように静かに幕を閉じた。
---