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第17話 沙耶の退場

 冷たい風が雪原を吹きすさび、夜空には青白い月が静かに輝いていた。激しい戦いの余波が静まり返り、雪原には冷気の余韻と月光の残響が漂っていた。その場に立つのはユキと慎一、そして膝をつき息を整える沙耶だった。


沙耶の銀髪は月光を受けて輝いていたが、その姿にはかつての圧倒的な威厳はなかった。彼女の周囲を取り巻いていた月光のオーラもほとんど消えかけている。彼女は深く息を吐き、ゆっくりと顔を上げた。



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「これで終わりよ、沙耶。」

ユキの冷たくも力強い声が雪原に響く。彼女の目には迷いがなく、慎一を守るという決意が宿っていた。その決意に満ちた瞳は、沙耶に対して一切の容赦を許さない覚悟を示していた。


沙耶はその言葉を聞いて微笑んだ。しかし、その微笑みは挑発的なものではなく、どこか寂しさが漂うものだった。彼女は口元にかすかな笑みを浮かべたまま、静かに立ち上がる。


「ふふ……勝ったつもりなのね、ユキさん。」

その言葉にはかつてのような余裕や挑発の色はなかった。沙耶はふらつきながらも、月光を背にして立つ。その姿は美しいながらも、どこか儚げだった。



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「これ以上、慎一さんを巻き込まないで。」

ユキは冷静な声で言葉を放つ。冷気のオーラがまだ彼女の周囲を漂い、雪をさらに白く染め上げていた。その言葉には、慎一を守りたいという強い意志が込められていた。


沙耶はその声を聞き、ゆっくりと顔を上げた。その目にはどこか憂いを帯びた光が宿っている。


「いいわ。今日はこれ以上何もするつもりはない。でもね……。」

沙耶はユキを見つめ、わずかに微笑みながら続けた。


「いずれ、彼もあなたの隣にいることを後悔する日が来るわ。」

その不穏な言葉に、慎一が鋭い目で沙耶を睨みつけた。



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「そんなことは絶対にない。」

慎一の声は力強く、月光の中に立つ沙耶に向けられていた。その言葉は、彼の揺るぎない信念を示していた。


沙耶はその言葉を聞いて、一瞬目を伏せた。その後、静かに再び顔を上げると、柔らかい微笑みを浮かべた。


「そう……あなたがそう信じるのなら、それでいいわ。」

沙耶は慎一の言葉を否定しようとはせず、ただ静かに受け止めたようだった。


「でもね、愛なんて儚いものよ。いつかその言葉がどうなるか、私も楽しみにしているわ。」

その言葉には、少しの皮肉と彼女自身の哀しみが込められているようだった。



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沙耶はゆっくりと踵を返し、月光の中にその姿を溶け込ませていった。雪に残された彼女の足跡は、風によって少しずつ消されていく。その背中は、勝者のようにも敗者のようにも見えた。


「愛がすべてを超えるだなんて、そんな綺麗ごとがいつまで続くのかしらね。」

そう呟くと、沙耶は月光をまといながら、雪原の闇の中へと消えていった。


その背中には、孤独と哀愁が滲み出ていた。彼女が完全に見えなくなったとき、雪原には静寂だけが残った。



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慎一はしばらく沙耶が消えた方向を見つめていた。その表情には緊張と警戒が残っていたが、彼はそっとユキの方へ振り返った。


「大丈夫だった?」

その問いに、ユキは小さく頷いた。彼女の顔には疲労が見て取れたが、その瞳には確かな決意が残っていた。


「ありがとう、慎一さん。あなたがいてくれたから……私は負けなかった。」

ユキは慎一の目を見つめ、微笑みながらそう言った。その声には感謝と安堵が込められていた。


「これで本当に終わったのか……?」

慎一は小さく呟いたが、その胸には沙耶が残した言葉がわずかに引っかかっていた。


「いずれ……彼もあなたを後悔する。」

その不穏な言葉が、雪の静寂の中で慎一の心に微かな影を落とした。




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