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第3話 クラフトファイター

「リリ様被弾!」

「そこへ登場したのが……!」

「「ゼブラ様〜」」

 女子生徒たちはうっとりと声を合わせた。




 空気を切るように飛んできた白いクラフトが、ダイオウイカモドキのエネミーポウを貫き、動きが止まった所へ黒い影が走り込んでその体を切り裂いた。一瞬の出来事だった。


 白と黒のクラフトを操る「サイレント・ゼブラ」は、鋭い身のこなしが群を抜くA級クラフトファイターだ。

 音もなくいつの間にか忍び寄る事から、その通り名で呼ばれるようになった。

 彼の白いクラフトは遠距離攻撃に特化しており、主に飛び道具として扱う。黒いクラフトは強度が高く、接近戦での手持ち武器となった。




 サイレント・ゼブラとクリスタル・リリはバディ関係であった。


 クラフトファイターのバディは、単に背中を預け合える仲間というのとは少し異なっている。

 互いに「監視し合う」関係でもあったのだ。

 反乱の芽が出ないよう互いを監視し、危険と判断したら拘束せよ。異能管理部からそう命じられていた。


 能力の高さに比例して、脅威も大きくなる。

 成果を期待され、その身を呈して戦っていながら、しかしA級以上のクラフトファイターは同時に、危険分子としても扱われているのである。


 バディに力の差があっては、互いを制するという任務の遂行が困難なため、ステータスは釣り合うように組まれている。

 結果、皮肉にも互いを高め合う相乗効果となり、同時に危険分子度数も引き上がったハイレベルのバディが育つ。

 ファイターとして活躍もめざましく、民衆からの注目度も高くなる。


 ゼブラとリリは、そういうバディのひと組であった。




 この日ゼブラは、現場へ向かう途中で足止めを食らった。

 ダイオウイカモドキが道路を破壊した衝撃で、何台かの車が川に突っ込んでいる場に出くわしたのだ。

 リリが単独で戦っている事を思えば、車を引き上げている時間はなかった。

 取り急ぎ車内に閉じ込められている人々をレスキューして、後は駆け付けた消防に任せて先を急いだ。


 リリの事だから心配する事もないだろうとタカをくくっていたのだが、まさか一般人が紛れ込むというイレギュラーな事態に追い詰められていようとは。


 飛び道具の白クラフトで靴を生成すれば、自分を飛ばす事も出来る。

 ゼブラは高速で宙を駆けながら、結界の中に見える巨大なダイオウイカモドキに白いクラフト砲を放った。

 バディであるゼブラのクラフト砲は、リリの結界に弾かれる事はない。勢いを失わず飛び込み、ダイオウイカモドキを貫いた。

 続いて自らも結界に飛び込み、黒クラフトで生成した剣を閃かせてダイオウイカモドキを袈裟斬りにした。




 ゼブラに殲滅される直前に放たれたダイオウイカモドキのクラフト弾を、一般人を庇ったリリが受け、彼女の体は空中高く跳ね飛んだ。


 クラフトモンスターは死んでも--破壊されても、と言うべきか--骸を残さない。霧散するようにゆっくりと消滅する。

 それは生成されたクラフトの共通する特徴で、クラフターが意識を失った時も同様に形を失う。


 巨大なダイオウイカモドキの体が消え行くそばで、周囲を覆ういばらの結界が揺らぎ薄れて行く。

 結界を生成していたリリが気を失ったのだ。

 空中を落下する彼女のバトルスーツやマスクも消えようとしていた。


 盗撮男はリリの素顔を捉えようと、慌ててカメラを構える。

 そこへゼブラの白いクラフトが飛んだ。

 カメラを弾き飛ばし、男の両手両足に枷を付けて地面に縫い付けた。


「次は無いからね……」

 ゴーグルの奥、恐ろしく冷たい光を湛えた瞳で、ゼブラは男を見た。

 二度と近寄るなとの最後通告だった。


 ゼブラは白クラフトのブーツで地を蹴り、落下して来るリリの体をふわりと受け止める。彼女の後頭部を抱き寄せ、薄れるマスクの下の素顔を隠すように自分の胸に埋めた。

 そのまま白いクラフトは宙を滑り出し、流れ星のように消えた。




「尊い……」

「受け止めて、抱き寄せて、消えるふたり……きゃ〜だよ叫んだよ」

「腹立つけど、盗撮男グッジョブ言いそうになったわ」

「麗しのクリスタル・リリを抱くクールなサイレント・ゼブラ。はぁ……尊い……」

 女子生徒たちの興奮も絶好調だ。


 ああうるさ……

 誰が言い出したのか、その中二病みたいな通り名もどうよ……


 ベンチで目を閉じてはいるけれど、幹は結局眠れないでいた。


「盗撮男はあの後パトカーで連れて行かれたんだよね?」

「カメラ壊れてたらしい」

「良かった、ざまぁだよ」

「うん、良かったホント」


 清く正しい応援団が、その後の情報も喋ってくれる。


 めでたしめでたし……


 幹は目を閉じたまま、そっと安堵の溜息をついた。


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