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第12話 オフ

「姫、怪我はないか?」

 エネミーポウが消滅した結界の中、散っていた四人のファイターが何となく集合した所で、赤丸が折姫に訊いた。

「大丈夫ですぅ。赤丸は?」

「ふんっ、誰に訊いてんだ?」

 軽口を叩いて、互いにヘラっと笑っている。


 何だか意外だった。


 クラフトファイターのバディは、バトルの協力者でありながら、互いを監視し合う関係でもあった。

 破壊活動としてエネミーポウを送り込んで来るオーサーは、ダークサイドに堕ちたクラフト能力者とされているからである。

 ファイターが務まる程の高い能力者が、オーサーと同じように権力を欲しがる可能性を恐れて、「お偉い方々」が打った「対策」が--


 傍に居るバディを疑え。

 怪しい動きや危険な思想が感じられたら制圧せよ。


 というものだった。


 血の気が多く負けん気の強い赤丸が、バディである折姫を牽制するでもなく当たり前のように気遣う様子が、ゼブラの目には新鮮に映った。


「ちゃんと仲良しですのね」

 リリが微笑みながら言う。


 大なり小なり、うっすらとした差別を受けながら生きてきたのだ。

 今も、人々の生活を守るため献身的に戦って、それでも疑いの足枷をはめられている。

 根底に流れるモヤモヤは皆同じだ。

 リリの言葉の芯に深い意味が漂っている事に、気付かない訳はなかった。


「命を預け合ってんだ……情が湧かないはずがない」

 胸クソ悪いルール押し付けやがって……と赤丸は小声で吐き出した。


「信じても貰えず、信じる事も許されず……か……」

 ゼブラが自嘲気味に呟く。


 いつの間にか、ドローンは四人から距離を取り、結界内の上空を旋回しながらカメラを向けている。

 ドローンを遠隔操作しているのは本部内勤のクラフト能力者だ。

 不満を零す彼らの声をマイクが拾わないよう離れたのは、同じく足枷をはめられた同志だからであろう。


「私は、何と言われようがゼブラを信じていてよ? 大切な存在ですわ」

 リリが堂々と恥ずかしいセリフを吐く。

「分かります、私も赤丸が大事ですぅ」

 折姫も便乗する。


 おいおいおい。


 ゼブラと赤丸はソワソワと視線を泳がせた。

 互いに目が合って、バツが悪そうにそっぽを向く。


「リリさん、今度ダブルデートしましょうよ〜」

「まぁ。良いですね!」


 おいおいおい。

 本当にもうやめて。

 お家帰りたい俺。


 すぐにでも逃げ出したいゼブラであった。






 で。なんでこうなった……?


 その週末、四人はテーマパークのジェットコースターで絶叫していた。




「こっわ〜! 何でだろな、俺ら普段飛ばしてる自分のクラフト、もっと速いのにな……」

 クラフトの件から小声になりながら赤丸……もとい、赤井獅子丸(あかいししまる)が言った。

「叫びすぎて喉が乾きましたね〜」

 折姫こと姫川千代(ひめかわちよ)がドリンクを差し出しながらニコニコ笑う。


 赤丸のバトルスーツは作務衣っぽく、折姫のバトルスーツは着物ワンピのような「和風テイスト」のチームなのだが、オフ時の獅子丸と千代は普通の高校生と中学生だった。


 ってか赤丸、本名獅子丸って、クラフターネームより派手じゃんか。

 折姫、中3だったんか。赤丸まさかのロリコンかと疑ったけど、1歳しか違わないんだな。


 幹は色々色々、思わず口から出そうだけれど、面倒なので呑み込む。


 因みに、ゼブラのバトルスーツは黒多めのシンプルな黒白モノトーン。

 リリのバトルスーツは、百合の花のようなAラインの白いドレスにゴールドのアクセントが散りばめられている。


 ……が、こちらも今日は普通の高校生。

 いや、美百合に至っては、普通じゃないレベルの美貌の高校生だけれども。


 四人はカフェのテラス席で休憩をしていた。




 本部内で、能力者たちはマスクもゴーグルも付けないで素顔を晒して居るのだが、名前はクラフターネームで呼ばれていた。

 しかし出役のファイター達が外の世界でその名を口にする事は、身バレの危険と隣り合わせだ。

 なので、仕方なく本名での自己紹介を経た訳だが、どうにも調子が狂う。


 そもそも、内勤のクラフターとは軽口を叩く間柄になっても、別のファイターチームと顔を合わすタイミングは少なかった。それぞれ戦いに駆り出されているため、出退勤の時間は決まっていないのだ。


 自ずと、若干の人見知りから始まる訳で。


「獅子丸は友達からシシィと呼ばれたりもするんです〜。可愛いでしょう?」

 女の子は和気あいあいだ。

「まあ。女性の愛称みたいですね。実は幹も、ミッキーと呼ばれています」

 クスクスと笑い合う。


 クソつまんねーけど

 クソ可愛い


 幹と獅子丸は無言で楽しそうな彼女たちを見ている。


「二人は学校で身バレしたとか聞いたけど、その後どんな感じ……っすか?」

 獅子丸、二人が年上だと思い出し、頑張って丁寧に言ったらしい。


 この問題はやはり他人事ではないのだろう。皆「明日は我が身」の思いは拭い切れないのだ。


「本部の処理班が頑張って下さったから、私は特に困っていなくてよ。でも幹は……」

 美百合が面白そうに幹の方を見た。


「目立たないようにモブキャラで通して来たんだけど、平和な日常の崩壊だよ」

 ため息混じりに言うと、美百合が続ける。

「お引越しまでする羽目になったのよ」


 君が言う?

 知らん間に家財一式持ち出した君が?


 複雑な心境の幹を他所に、そりゃ大変ですね……と盛り上がる三人。


 楽しいテーマパーク。

 うららかな昼下がり。

 若い男女のダブルデート(?)


 モブ崩壊と同じレベルで、自分には縁のない世界だと思っていたが--




 不意にどこからか、慌てたり荒らげたりするような声が風に乗って耳に届く。


 四人を現実に引き戻す異変が、この園内で起こっていた。


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