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第14話 収束と自責

 休む暇も挟まず、ゼブラと赤丸は走るコースターを次々とレール上から救出した。


 最後の5号機を降ろした所で、レールが暴れ出した。

 自分のコースターと乗客を盗まれたとでも言わんばかりに、ファイター達へ攻撃を始める。


 乗客を折り紙クラフトの船へと誘導している折姫を守りながら、ゼブラと赤丸は戦闘態勢を整える。


《折姫、船と一緒にワームホールへ進んで。チューブ内のレールの動きに気を付けて》

 ゼブラが指示を飛ばす。

《了解です〜》


 船と折姫がワームホールへ入るのを見届けて、ゼブラと赤丸はレールモドキのエネミーポウへ向き直った。


「さて。暴れるよ」

「得意分野っすよ」


 二人はニヤリと笑みを交わして、空間へ舞い上がった。


 自在に飛ぶファイターを追って、レールはぐにゃぐにゃとこんがらがって行く。

 ゼブラの黒い剣がそれを切り刻み、赤丸の赤弾が撃ち込まれる。

 逃れて延びようとするレールを白クラフト砲が破壊する。


《兄さん、俺の結界まで壊さないでよ? リリさんのみたく丈夫じゃねーっすから》


 誰が兄さんだよ。


《壊れたらソッコー補強な》

 ゼブラが笑って言い放つ。


 フッと、エネミーポウの攻撃が止んだ。


 まるで二人のやり取りに興味を持って、様子を窺うかのように。


《何だよ、楽しそうなのが気に食わないの? ジェットコースターで遊んでる人たちも、楽しそうだったからムカついて攫ったのか?》


 エネミーポウに問うているのか、ゼブラに話しかけているのか--

 その赤丸のセリフが、何かを探り当てそうなモヤモヤ感をゼブラの中に呼び起こす。


 やがて--


 再起不能と自ら判断したのか、レールモドキは端から崩れるように消滅して行った。


「なになになに?」

 赤丸が驚いて寄って来る。

「何が起こったの?」


「さぁ……戦意喪失、なのかな……?」

 ゼブラは何かを考え込むようにしながら、曖昧に言った。


 飛んでいるドローンに声を掛ける。

「このコースター、パークに戻したいんだけど、応援寄越して」

《了解。ワームホールは維持できる?》


 ワームホール……!


 ドローンからの問いにハッとする。

 それには返事もしないで、ゼブラは猛スピードでワームホールへ飛び込んで行った。


《え? ゼブラ〜? おーい》

「はいはい、ワームホール維持は俺が頑張るよ。ゼブラのアニキはリリさんが心配でぶっ飛んでったよ」

 ドローンカメラの前で赤丸が肩を竦めて見せた。




「リリ! 無事?」

 文字通りぶっ飛んで来たゼブラが見たのは、座り込んで肩で息をしているリリだった。

 ワームホールの締め付けに、結界を壊されないよう力を注ぎ続けた時間は大分キツかったらしい。


「最後チューブ内でレールが襲って来て……リリさん結界だけでも大変なのに船も守ってくださって〜……」

 リリに寄り添っていた折姫が、クスンと鼻を鳴らした。

「大丈夫よ、泣かないで姫ちゃん……」

 言いながら、リリは弱々しく笑顔を見せる。


「ワームホールの維持は俺が代わるっす。本部が後始末終えるまで」

 戻って来た赤丸が言う。


 オーサーからの抵抗はエネミーポウの消滅と同時に途絶えたので、維持するだけなら赤丸に任せられる。

 リリのいばらを赤丸の赤い結界が覆い尽くしたところで、リリはやっと結界を手放した。


「早く休ませてあげて下さいよ……力尽きたらまた身バレっすよ?」

 赤丸がおどけて言いながら、ゼブラとリリをシッシッと追い払う。


「後、頼むね」

 ゼブラはリリを抱えるようにして立ち上がり、二人に感謝の視線を向ける。

 ほぼ眠った状態のリリを抱いて、パークから飛び立った。


 白い流れ星を見送って間もなく、赤丸と折姫のイヤーカフがほろりと崩れて消えた。




 移動しながら、腕の中のリリが美百合に戻ったのを見て、ゼブラの胸が痛む。


 随分無理をさせてしまった。


 幼いあの日、両親を守れなかったという心の傷と同じ痛みが、幹を苛む。

 腕に、少しだけ力を込めて、美百合をぎゅっと抱き締めた。




 花京院家の本館を訪ねると、執事の中務が迎え入れてくれた。


「お疲れ様でございました」

 幹と美百合の秘密を、おそらく全て承知しているのだろう。中務は深々と頭を下げて言った。


「よろしければ、美百合様をお部屋までお連れ頂けますか?」

「そうさせて下さい……」

 自責の念で苦しげに幹が頷く。


 中務に案内されて、二階の南東の部屋へ入る。

 アンティークのレースが窓辺を柔らかく飾る、若い女性らしい部屋だった。

 美しい空間に、ふわりと美百合の香りがした。


 やはりアンティークレースの天蓋つきベッドに、そっと美百合を横たえる。


 女性の使用人が二人、静かに現れて、美百合の靴を脱がせ、柔らかそうなブランケットをかけた。

「後は私共にお任せ下さい」

 二人並んで礼をする。


 幹も頭を下げた。

 ありがとうございますも、お願いしますも、余所者の幹が言うのはなんだかおかしな気がして--返す言葉が見当たらないでいると、中務に廊下へと促された。


 廊下に出た所で、幹は誰かに抱き締められた。

 優しいコロンの香りと柔らかい身体の弾力で、女性だと確信する。


 為す術もなく固まっている幹を、相手はそっと解放した。


「そんなに思い詰めたお顔をなさらないで……幹さん」

 美百合とよく似たとびきり美しい中年女性は、包容力のある優しい笑みを浮かべていた。


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