セクション1:カミーラ、帰宅。そして怒りのダイヤル
その日の夜。
カミーラ・ドルベークは、帰宅するなり迷いなく自宅の固定電話の受話器を取り上げ、手慣れた様子で番号を打ち込んだ。
コール音のあと、聞き覚えのある低い声が受話器越しに響く。
「私だ。……誰かね?」
「お久しぶりです、伯爵。カミーラ・ドルベークです」
「ほう!これはカミーラ嬢ではないか!君から連絡とは珍しい。さてはようやく私の下僕になる覚悟ができたかね?」
「なるわけないでしょ!この変態エロ伯爵!」
「おやおや、ツンデレ属性まで備えていたとは……ますます魅力的だ」
「うるさい!そういう茶番をしに電話したんじゃありません!」
「ふむ、では一夜の契りを申し込むためかね?」
「頭冷やして来い、スケベ貴族!」
怒鳴り返しつつも、相手の軽薄さにはもう慣れている。すぐに本題に入った。
「伯爵、私を――売りましたか?」
「おや?いつから君は“出品”されていたのかね。いや、買えるものなら買いたいくらいだが」
「光栄ですこと。エロス公爵様」
「これはこれは、皮肉まで上達したな。だが……ふむ、今調べさせたところ、確かに国際指名手配に君の名前があるようだな」
「それ、どう見ても私の大人バージョンの写真なんですけど?」
「……ああ、この妖艶な美女か。実に好みだ。歳を重ねた君も素晴らしい」
「その画像、たぶん十年後の私です」
「おお、ますます欲しくなってきた。私の下僕に――」
「そういう話じゃない!」
思わず机を叩いてしまいそうになりながらも、なんとか冷静を保つカミーラ。
「それで……伯爵、これは冗談じゃ済まない話ですよね?指名手配が正式手続きで出てるなら、政府が私を――」
「そういうことになるな。何か政府に恨まれるようなこと、したかね?」
「……思い当たる節が、多すぎて……絞れません」
「はっはっはっ!実に君らしい。素晴らしい!」
満足そうに笑う伯爵に、カミーラはぐっと言葉を飲み込む。
「だが一つ提案だ。私の下僕になれば、政府に圧力をかけてその指名手配――取り下げさせてやろうか」
「お断りします!」
バチン、と小気味よく受話器を叩きつけて通話終了。
深くため息を吐いたカミーラは、くるりとターンしながら服を魔法で黒い私服からパステルピンクのキャミソールへと着替える。
ふわっとクッションに腰を落とし、天井を見上げた。
「ったくもう……税金上げるし、年金減らすし、政府ってホントろくなことしないわね……」
そう愚痴りながらも、ふと思い出す。
「あれ? 正式な手続きで、って……つまり、マジで私は“国際指名手配犯”ってことじゃない?」
ズーン……。
床にそのまま崩れ落ちて、まるで干からびた魚のようにうつ伏せに寝転がった。
「ううっ……凹むぅ……」
どこか遠くで、箒がカタリと揺れた音がした。
以下は、ラノベ形式で整えた「カミラ・由美・ありすの三者視点“日常夜編”セクション」です。それぞれのキャラらしさとテンポを意識しつつ、対比が楽しめるように構成しました。
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【カミラ編】
夜の帳が下り、カミーラ・ドルベークは制服から私服に着替えると、ソファに倒れ込んだ。
「……ふぅ、今日は疲れました」
その瞬間、部屋の隅から「トコトコ」と小さな足音。
現れたのは、艶やかな黒毛の小さな猫だった。
「おかえり、どうだった?新しい学校は」
「ラスカルさん……」
「その名前、まだ使うのか?俺はラスカルじゃなくて、猫だ。しかもオスだ」
「可愛いからラスカルがいいんです」
「……ま、好きにしな」
猫――ラスカル(仮)は、ぴょんと机に飛び乗る。
「で、どうだった?学校」
「友達ができました」
「……それ、いいことだろ?」
「ええ。でも、同時に……国際指名手配もされちゃいました」
「……はあ?」
事情を簡潔に説明するカミーラ。ラスカルは眉をひそめる(猫の顔で表現するのは難しいが、雰囲気で分かる)。
「バカ言ってんじゃねぇ!政府だろうがなんだろうが、罪なき者を裁いていい理由にはなんねぇぞ!」
「ありがとうございます。……ちょっとだけ元気、出ました」
「今日は初日だろ。早く休んだほうがいい。明日もある」
「でも宿題が……」
「お前、真面目かよ」
カミーラは机に向かい、ノートとテキストを広げた。が——
「……む、むずかしい……。ラスカルさん」
「俺は猫だぜ?何を期待してんだ」
「教えてください」
「猫に頼るとか、プライドないのか?」
「“溺れる者は猫をも掴む”って言うでしょ」
「それ“藁”だよ!」
「じゃあ“猫の手も借りたい”ってことで」
「お前、ことわざのチョイスが雑なんだよ……」
ごろりと机から降りて丸くなるラスカル。
「……使えない」
「使い魔のくせに」
「宿題は自力でやるもんだ!」
「手伝ってよ~!」
「いいこと教えてやろう。“それっぽい答え”を適当に書いておけ」
「そんなのダメ!」
「提出さえしてりゃいいんだろ?」
「ダメだってば~!」
「……絶対俺にやらせようとしてたよな?」
「ふふっ……バレた?」
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【由美編】
同時刻。
超常現象対策課・市ヶ谷支部——深夜でも明かりが灯る特殊任務機関。
由美は自分のデスクで唸っていた。
「う~~~ん……」
「どうした?任務か?」
隣の席から顔を覗かせたのは、スーツ姿の上司・滝一哉。冷静沈着、眼鏡男子でありながら、意外と気さくな男だ。
「あ、滝さん。確か大卒でしたよね?」
「うん?そうだけど……」
「助けてください。これ……」
由美はおずおずと、学校の数学テキストを差し出す。
「……宿題?」
「業務に支障が出ます。非常に重大な案件です!」
真顔で言い切る由美に、滝は苦笑しながらうなずいた。
「わかった。任せて」
ほんの数分後、滝はさらさらとノートを埋めてテキストを閉じた。
「はい、完成。明日提出できるぞ」
「すごーい!さすがキャリアは違いますねぇ!そんけー!」
「いやいや。現場叩き上げの由美ちゃんのほうがすごいよ。俺なんて事務屋だからね」
「えへへ、そんなことないですよ~」
由美は照れながら頭をかいた。
「ありがとう。おかげで助かりました!」
「エースの働きに支障が出たら困るからね」
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【ありす編】
同時刻、山里家——
山里ありすはベッドの上でスヤァと寝息を立てていた。
顔には、安堵と無防備な笑み。
着替えもせず、宿題も放り出したまま。
当然ながら、課題の存在すら――完全に忘れていた。
月は静かに窓から差し込み、部屋に穏やかな光を落としている。
「……すぅ……むにゃ……トリック・オア・トリート……」
明日、彼女は宿題のことを思い出すのだろうか?
その問いの答えは、誰にもわからない。
カミラ セクション3
朝の光がまだ眠気を引きずる街並みに差し込むころ。
山里ありすは、玄関を出るとすぐに目に入った黒塗りの普通乗用車のそばに立つ男に声をかけた。
「おはようございます」
「やあ、おはよう。今日は徒歩通学かい?」
男はスーツ姿の青年。真面目そうな見た目で、さりげなく人目につかぬ距離を保っている。
「昨日はすみませんでした。飛んじゃって」
ありすが少しばつの悪そうに頭を下げると、男は軽く笑った。
「助かるよ。昨日みたいに箒で空をぶっ飛ばれると、車じゃ追いつけない。こっちの仕事にならないんだ」
「朝から大変ですね」
「仕事だからね。じゃ、また後で」
ぺこりと頭を下げて歩き出すありす。
10メートルほど進んだのを見計らって、男も静かにあとをついてくる。
「……毎日私の監視って、そんな楽な仕事じゃないと思うけどな」
ありすはぽつりと独り言をこぼしながら、通学路を歩いた。
角を曲がると、ちょうど交差点で合流したのは――
「おはよう、由美ちゃん!」
「おはよ、ありすちゃん!」
元気に挨拶を交わした由美は、すぐにありすの背後に視線を送る。
「滝さーん!おはようございまーす!」
――ぶんぶん。手をこれでもかと振る。
スーツ姿の男、滝は静かに手をひらひらと振り返した。
彼は由美の職場、超常現象対策課の同僚――でもあり、ありすの監視担当でもあった。
「……由美ちゃん。尾行されてる本人がいる前で、尾行者に全力で手を振るのってどうなの?」
「何言ってるのよ。ありすちゃんだって、毎朝その尾行者に丁寧に挨拶してるじゃない」
「う……そ、それは。なんか目が合っちゃうから……」
「しかも名前も知ってるくせに」
「滝さん、って言うんだね……って、ねえ由美ちゃん。もしかして――」
ありすがニヤリと意地悪そうに笑う。
「ひょっとして、滝さんのこと、好きだったり……?」
「なっ!ちっ、違うからっ!」
由美は顔を赤くして、ぶんぶんと手を振った。
「昨日、宿題を教えてもらっただけなんだからっ!」
「教えてもらった……の? やってもらったんじゃなくて?」
「教えてもらったの!」
「ふーん……。じぃ~~~~~」
ありすのジト目攻撃が炸裂する。
「……はい。やってもらいました……」
「やっぱり~!」
「……」
「ねぇねぇ、そのノート……写させて?」
「だーっ!もうっ!」
バレバレの会話に、2人で顔を見合わせて笑い合う。
そうして、2人の足は再び通学路を進んでいった。
背後からは今日も、滝が静かにその姿を見守っている――。
了解しました。以下に カミラ セクション4 をラノベ調に整えて書き直しました。
キャラクターの掛け合いをテンポよく、カミラのマイペースぶりとラスカルのツッコミ役が際立つように意識しています。
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カミラ セクション4
朝の静けさがまだ残るドルベーク家。
カミーラ・ドルベークは制服に着替え、身支度を整えた後、リビングのソファで丸まっていた黒猫に声をかけた。
「ラスカルさん。今日、ご一緒していただけますか?」
「……なぜに?」
黒猫――ラスカルはピクリとも動かず、尻尾だけで返事をした。
「学校で、お友達にご紹介したいと思いまして」
「やめとけ。どうせ大騒ぎになるぞ」
「大丈夫です。紹介するのは魔法少女と、そのお友達ですし。使い魔の一人や二人、驚いたりしませんわ」
「いやいや、その前にだな……そもそも“猫”を学校に連れてくって、校則違反だろ」
「それがですね、生徒手帳を隅々まで確認しましたけど、どこにも“動物を連れてきてはいけない”とは書かれていませんでした!」
カミーラは、どこか誇らしげに胸を張る。
ラスカルは、ぱたりと耳を伏せた。
「……それ以前の問題だって、普通気づかないか?常識的にアウトだろう、それは」
「というわけで、よろしくお願いしますね」
カミーラはにっこり微笑むと、ラスカルをひょいっと抱き上げた。
「こらこら!放せ!俺は行かんぞ!断固拒否!」
「エリーゼ、お願い!」
彼女の声に反応するように、廊下の隅から風のように現れた一本の箒――それがカミラの愛機、エリーゼだった。
「ちょ、待っ……飛ぶなよ!? おいおいおいおい――!!」
カミーラはラスカルを抱えたまま箒にまたがり、出力全開で空へと飛び上がる。
ズバァッ! という音が空気を裂き、エリーゼは3秒で最高速度に達するという鬼スペックを誇示しながら、一直線に校舎へと向かっていった。
ラスカルは、風にたなびく耳を押さえながら呻いた。
「……なんか、エリーゼ、前より凶暴になってないか?」
「そうなんですよねぇ。どうも、ありすちゃんのシューティングスターにライバル意識を燃やしているみたいなんです」
「ありす……ってのが友達か。で、シューティングスターがその子の箒……と」
「はい、まさにそうです!」
「はぁ……で、その学校、ホントに箒での通学OKなのか?」
「はい。生徒手帳には“空中移動手段の使用は禁止”とは一言も書いてありませんでしたので」
「常識はどうした、常識は……」
もうこれ以上は無駄と悟ったラスカルは、カミラの腕の中で観念して丸くなった。
「……もういい。今日だけは、風になるわ」
「ありがとう、ラスカルさん♪」
カミーラの笑顔の奥で、エリーゼがごくわずかに「ふふん」と鼻で笑った気がした。
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