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第9話 ハロウィンの戦い ACT1



「あれが……カミラの家かぁ」


ありすは空を飛ぶ箒の上で、眼下にそびえ立つお城のような建物を見下ろしながら感嘆の声をもらした。


まるで童話の世界から抜け出したような、真っ白で尖塔がいくつもそびえるその姿は、某夢の国のシンデレラ城にそっくりだった。


「……まったく、少女趣味もここまで来ると清々しいな」


ありすの前方、箒の先端にちょこんと乗っていた黒猫、ラスカルが呆れたように尻尾を揺らす。


「で、カミラちゃんはどこにいるの?」


「右側の塔だ。上層部に拘束されてる……はずだ」


「うーん……でも、あそこって結界が張られてるみたい。上からの突入は無理っぽいね」


ありすの言葉に、ラスカルはぴくりと耳を動かす。


「ということは――」


「そう。玄関から入るしかない。あからさまに罠ってわけ」


「……おいおい、それってどう考えても突入してくれって言ってるようなもんじゃないか」


「わかってるよ。でも――」


「助けに行かなきゃ、始まらない」


会話が終わると同時に、箒はふわりと軌道を変え、シンデレラ城もどきの玄関前に優雅に着地する。


その直後、ドスン!と重たい音を立てて、皇帝ペンギンの新右衛門も着地。よちよちと前に出てくるその姿はどこかユーモラスで、でも頼もしさを感じさせた。


「例え罠だとしても、行かねばなりません」


新右衛門の真っ直ぐな声に、ありすはコクリと頷いた。


「うん。カミラちゃんは私たちの大切な仲間だもんね」


ありすは躊躇なく、重厚な木製の玄関ドアに手をかける。そしてギィ、と音を立てて扉を開いた。


「お邪魔しまーす……って、こういうのって“侵入”って言うんだっけ?」


「そのセリフが言えるうちは、まだ平和だな」


後ろからついてくるラスカルがぼそっとつぶやく。


「さて……どんなお出迎えがあるのやら」


「きっとフロアごとに刺客が待ってる……ってパターン、ありそうだよね?」


「格ゲーじゃあるまいし。……いや、ありうるかもな」


「ただし相手は、格闘家じゃなくて魔法使いか、あるいは……」


ありすの言葉が途切れたそのとき、館の中から冷たい気配が、三人を包み込んだ。


「やれやれ……第一関門のはじまりってワケか」


ラスカルが肩をすくめ、ゆっくりと爪を研ぎ始める。


「いこっか。罠が待ってるって分かってても、それでも前に進むのが――」


ありすは前を見据えたまま、強く言い放った。


「魔法少女、だもんね!」



---


通路を曲がった瞬間、そこには三匹の獣人が立ちはだかっていた。


「狼男ね……。ラスカルさんは、ここは下がっていて」


ありすの足元に、突如赤く輝く魔方陣が現れ、光が彼女の体を包む。その眩い光の中から現れたのは、戦闘仕様の――と思いきや、なぜか学校の制服姿だった。


「……なんで制服?」


ラスカルが思わず突っ込みを入れる。


「なんとなく。こっちのほうが……かっこいいかなって?」


ありすは制服姿のまま、魔法と共に出現した剣を手に取り、戦闘態勢を整えた。


「カミラを助けに来たんだ。俺が後ろにいるわけにはいかない」


ラスカルは、ちょこちょことありすの前に出る。次の瞬間――


「ぬおおおおおっ!!」


獣の叫び声とともに、黒猫だったラスカルの身体が音を立てて膨張し、毛が逆立ち、筋肉が隆起し――漆黒の大きな豹へと姿を変えた。


「おおっ!ラスカルさんが大きな猫さんに!」


「いや……黒豹なんだが……」


豹となったラスカルが低く唸る。


「よーし!じゃあ僕も行くよ! えいっ!」


新右衛門が自らに軽く気合を入れると、その身体が「ずん!ずん!ずん!」と擬音を伴って徐々に巨大化していった。


「おいっ、その効果音、自分で言ってるよな?」



130cmだった新右衛門が150cmへとサイズアップ。


「……うーん、ちょっと大きめから特大サイズになっただけって気もするけど……」


「自然界ではあり得ないサイズなんです!誇っていいです!」


誇らしげな新右衛門の手には、どこからともなく現れた長さ1メートルを超える大剣が握られていた。


「てか、その羽でどうやって握ってる!?」


新右衛門は小さな翼をひょいと動かして大剣を持ち直す。


「気にしたら負けです!」


「うん、まあ、いいけど……よし、行くよ!」


ありす、ラスカル、新右衛門――三者三様の姿で、狼男たちに立ち向かっていく。




セクション3


「アニキ、あいつら食っていいのか?」 「おう、この城に入ったやつは好きにしていいってボスが言ってた」 「マジか、腹減ってたんだよなー。あの猫もうまそうだぜ」 「いや、待て。あの女、食う前にたっぷり可愛がってやろうぜ」 「ふふ、細いくせにムネはそこそこあるな。どうやって味わってやるか……」


獣人たちは下品な笑いを交えながら、ありすたちを物色するように眺めていた。だが、その言葉の一つ一つが、ありすのこめかみに青筋を浮かばせていた。


「新衛門さん!やっておしまい!」


ぴくり、と新衛門の目が鋭さを増す。


「ありす嬢、その言い回し……なんか悪役のセリフっぽいんだが」 「うるさい!私は正義の味方ですっ!」


新衛門はぴょんと前へ出て、構えていた大剣を肩に担ぐと、しずかに一礼した。


「――遠山新衛門、いざ参る」


次の瞬間、その巨体からは想像できないほど俊敏に、そして静かに間合いを詰めた。まるで風のように滑るように移動すると、


「シュン――ッ!」


わずかに剣が閃いた。


「ぐ……ああっ!」


気づけば、二体の狼男は首を切り落とされており、その場に崩れ落ちていた。


「一体……? 助けてくれ、アニキ……!」


残された狼男――兄貴格らしい一匹は、袈裟斬りにされた身体を押さえながら地面に倒れ、血を吐いていた。


「一匹は残しておけと言われたのでな。命までは取らん」


新衛門は剣を振って血を払い、ありすの方に目を向ける。


「残したのは……兄貴狼か」


ラスカルが唸りながら睨みつけると、ありすが苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。


「いやぁ、あの食欲全開野郎とスケベ発言連発したやつは、私の手でぶちのめしたかったけど……まあ、新衛門さんに任せて正解だったかな」


「やっぱり悪役っぽいぞ、ありす嬢」


「ほっといてよ……」


ACT1-4 銀と洗剤と下っ端男爵


「お前に聞きたいことがあります。」


静かに、けれど明確に。

ありすは倒れた狼男の兄貴格に向けて剣の切っ先を突きつけた。


「何を言ってる。俺達は不死身だぜ?首を切り落とされたくらいじゃ、すぐ復活するんだぜ?」


にやりと笑うその顔に、ありすは一歩もひかず言い返す。


「そんなこと、知ってます。それに、狼男の弱点もね。」


「ほぉ?」


「でも今はどうでもいいの。目的はカミラちゃんの救出。そのための時間稼ぎになれば十分よ。どうせ、後から蘇ってきたら……その時は二度と復活できないようにしてあげる。」


「ふん!誰がそんなことペラペラ喋るかよ。お前なんかに何をしたって――」


「新衛門さん、その大口、ちょっと広げてあげて。」


ありすの指示に、ペンギン姿の新衛門が真顔でこくりと頷き、狼男の顎にごつい木のつっかえ棒を差し込んだ。

口が見事にパカーンと開いたままになる。


「さて……」


ありすの手元に、突然白い直方体の箱が現れる。

キラリと光るそのラベルには――


「家庭用洗濯洗剤。Ag(銀)イオン配合、殺菌・消臭効果アップって書いてありますね。」


「はっ?」


そのまま、スプーンでひとさじすくい――


「はい、あーん。」


サラサラと白い粉が狼男の開いた口へと注がれる。


「ぐばああああああっ!」


暴れ、苦しむ狼男。喉を焼かれるように悶え叫び、涙を流す。


「効いてる効いてる。さすが銀入り洗剤。」


「……いや、それただの洗剤の粉を詰め込んだだけでは……?」


黒豹に変身していたラスカルが疑わしげに言ったが、ありすは気にせず第二波。


今度はスプーンなしで、箱からドバドバと口の中へ直注ぎ。


「うぎゃああああああああああああっ!!!」


「よし、さらに効果てきめん。」


新衛門がタイミングよくつっかえ棒を抜くと、狼男はぜぇぜぇと苦しみながら言った。


「もうやめてくれ……言う、言うから……」


「おお、洗剤で尋問できる時代!」


「いや、効果あったのか? それ……」


ありすは聞き出す。


「ボスの目的は、この市を征服して支配者になることだ……」


「……せこっ」


「せめて世界征服とか言って欲しかったですね」


「下っ端だな、あの男爵。」


「男爵って爵位の中じゃ一番下だからね。」


「つまり、格だけ大きく見せて実はチンピラレベルと。」


「はい。なので用は済みました。」


ありすは静かに剣を振り上げる。


「お、おいっ!情報は話しただろ!?助けてくれるって!」


「そんな約束、してませんけど?」


「たしかに言ってない」


「確認しました、言ってません」


「それに不死身でしょ?これぐらいじゃ死なないって自分で言ったじゃん」


ズバッ!


あっさりと首を落とされ、狼男の兄貴格は黙り込んだ。


「さて、後で蘇ってくるとして……どうする?」


「大丈夫。こういうの得意なお友達がいるから、処理をお願いしとく。」


ありすは残った3つの狼の首に、さらなる洗剤をぶちまける。


「溶けるかな~と思って」


「ナメクジと塩じゃないんだから……効かんだろう」


「さてと、下っ端男爵のチンケな野望もわかったし……」


ありすは、くるりと後ろを振り返る。


「カミラちゃんの救出、行きましょう!」






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