セクション1:その格好でブリーフィング?
「課長、特殊部隊は?」
「既に空自の駐屯地に展開済みだよ。……しかし、本当に今日、何か起きるのかね?」
午前八時。超常現象対策課の事務所には、独特な緊張感が漂っていた。けれど、そこに立つ工藤由美の足取りは軽い。
「可能性は高いと思います」
落ち着いた口調とは裏腹に、彼女の服装は――ネイビーブルーを基調とした、どこかアニメチックなミニスカ軍装スタイル。
「何もなければ、それはそれでいいじゃないですか。むしろ、お菓子だけ貰えればラッキーです」
「まあ、何事もないに越したことはないが……」
課長の言葉を最後まで聞かず、由美はくるりと踵を返す。
「じゃ、ちょっと行ってきます。特殊部隊のところに顔出して、ブリーフィングしてきますね」
「おい、待て。それ……その格好で行くのか?」
書類から目を上げた課長は、一瞬、言葉を失った。
「なにか問題でも?」
由美は、ニコリともせずに問い返す。ミニスカートの裾がふわりと揺れて、ベレー帽が傾いている。どう見ても任務中の国家公務員には見えない。
「問題……というより、意図が読めん。なんだその格好は?」
「ハロウィンですから!」
どや顔で即答された課長は、ついに溜息をついた。
「……楽しそうだな」
「当然です!」
ぴしっと、どこかふざけた敬礼を一つ。満足げに一礼すると、由美はくるりと回って事務所を後にした。
課長は、扉の閉まる音を聞きながら、深く椅子に沈んで呟いた。
「はあ……若いってのは、いいもんだな……」
---ハロウィンの戦い トリック・オア・イート 1 セクション2
「隊長、空自の奴等が横目で見ていくぜ」 「構うな、ほっとけ」
最新鋭の輸送機から降り立った彼らは、最精鋭の特殊部隊「第7特殊部隊GR」。その物々しい装備と雰囲気に、空自の駐屯地に配属されている兵士たちは一様に注目していた。だが彼らの注目の大半は、隊員たちではなく――
「俺たちじゃなくて、隊長を見てるんじゃねーの」
そう軽口を叩いた兵士の視線の先には、金髪巨乳の美女――リサ・北條少佐の姿があった。
「ちげーね、女っ気のない基地じゃ無理もない」 「男の視線など、蚊に刺されるより気にならん」 「いや隊長、それ慣れすぎっすよ……」
「そろそろ乳が磨り減るぞ」
「……磨り減らんって」
そんなやり取りをしていた彼らのもとに、突然現れたのは――
「失礼ですが、第7特殊部隊GRの方々でしょうか?」
現れたのは、信じられないことにバニーガール姿の女性だった。
「私は第7特殊部隊隊長、リサ・北條少佐だ。貴官は?」
隊員たちから歓声と口笛が漏れる中、彼女は真面目な顔で敬礼した。
「自分は超常現象対策課エージェント、高柳美佐です。皆さんを仮司令部にご案内します」 「了解。野郎ども、移動だ!」 「了解っ!」
掛け声とともに装備を手際よくまとめる隊員たち。その動きは無駄がなく、まさに精鋭と呼ぶにふさわしい。
「ところで高柳さん?」 「はい?」
「なぜバニーガールなのだ」
ずっと聞かれるのを恐れていた質問に、こめかみをぴくつかせながらも答える。
「ハロウィンだからですッ!」
「そうか……」
それ以上は何も聞かないリサ。やがて、空倉庫へと案内される。
「ここを自由に使ってください」
「ありがたい。これだけの広さがあれば、装備の展開にも困らない」
程なくして倉庫の扉が開き、一人の少女が現れる。逆光で見えなかったその姿が、近づくにつれてはっきりする。
ミニスカート、ワイシャツ、ネクタイ、ベレー帽。 ネイビーブルーを基調とした、アニメに出てきそうなミリタリー風ファッション。
「由美ちゃーん! 由美ちゃんだー!」
それが誰かを見た途端、リサは全力で走って抱きついた。
「リサさん、お久しぶり……っ」
言い終える間もなく、その豊満な胸に顔ごと埋まる由美。
「会えて嬉しいよー! 結婚式には来て欲しかったのにー!」
「えええぇっ……!? ……っ、窒息するかと思った」
由美は椅子に座らされ、息を整える。
「ごめんね、嬉しくてつい……」 「私も会えて嬉しいよ」
隊員の一人がボソッと。
「隊長の乳、凶器だな」
「やかましい!」
「で、その子は?」
「隊長の隠し子?」
「馬鹿もん! この子は私の友人であり、今回のミッションの責任者。超常現象対策課の工藤由美エージェントだ」
ふらつきながら立ち上がる由美。
「工藤由美です。現場指揮を担当します」
「こんな小娘が……?」
隊員たちの不満の声に、リサが凛とした声で告げる。
「私が信頼する者だ。文句があるなら私に言え」
その一言で、全員が黙る。
「リサさん、妊娠中なのに大丈夫なの?」
「適度な運動はお産を軽くするっていうし、大丈夫よ」
その時、大量の荷物を積んだ台車を高柳が押してきた。
「由美ちゃん、持ってきたよ」
「ありがとう、美佐さん。似合ってるよ、その格好」
「もう……好きにして」
箱を開けると、中にはぎっしりと銀製の銃弾。
「こんなものが必要な相手なのか……?」
「全部の口径の弾、事前に聞いていた通りに揃ってます」
「まさか、敵は狼男かい?」
軽口を叩いた隊員に、由美は淡々と返す。
「確認されているのは、狼男・オーク・ミノタウロス。そして吸血鬼と思われる存在も」
「由美ちゃん、小野くんから連絡。中央墓地で大規模な墓荒らしがあったって」
「やっぱり……」
「そこらじゅうに、這い出た痕跡があったそうよ」
「……ゾンビも追加、ね」