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第13話 ハロウィンの戦いトリック・オア・イート3

 セクション1


各小隊が配置について間もなく、第3小隊――通称“バニー小隊”から緊急通信が入った。


「こちらバニー小隊、バニーリーダー。報告します。狼の群れが幹線道路を進行中。数は三十体以上、全員武装、こちらに接近中」


「こちらミニスカ小隊、ミニスカリーダー。こちらも確認。西の街道からオーク部隊が進行中。チャイナ小隊は現状維持、持ち場を死守して。バニー小隊、ミニスカ小隊は敵の殲滅を優先せよ!」


「バニー小隊、了解!」


「チャイナ小隊、了解!」


バニー小隊が設営した検問にはすでに黒い影が近づいていた。


月明かりの下に現れたのは、血に飢えた狼男たち。複数が群れをなし、ぞろぞろと道路を歩いてくる。その口々から、奇妙な言葉がこぼれた。


「トリック…オア…イート…」


「悪戯するか、食っちまうかってことか? しゃれになってねぇな…」


一人の隊員が苦笑いを浮かべながら銃のトリガーに指をかける。その横で、高柳美佐が短く指示を下した。


「撃て。迷うな。撃ち続けろ!」


掛け声と同時に銃声が一斉に響き渡った。純銀弾頭を装填したライフルの弾が、夜を裂いて狼男たちの体を貫いた。


狼たちは最初、それが通常の弾だと思い込み、突き進んできた。自分たちの肉体が“不死身”であると信じていたからだ。


だが――。


「うぎゃああっ!」


次々に倒れ、起き上がらない。銃撃から数分で彼らの数は三分の一にまで減っていた。


「兄貴、やべぇよ! これ、普通の弾じゃねぇ!」


「撤退するぞ! 整列して――」


兄貴格の狼男が指示を出しかけたその瞬間――


パンッ。


乾いた銃声と共に、彼の額から血飛沫が弾け飛ぶ。次の瞬間、隣の狼も胸を撃ち抜かれ、崩れ落ちた。


残った者たちは何も言えず、ただその場に倒れ伏した。


静寂。


風に吹かれる銃煙だけが、確かに戦いの終わりを告げていた。




セクション2


「白兵戦に自信のある者は、前へ!」


高柳の鋭い呼びかけに、即座に三名の隊員が一歩前に出た。彼らの目には一切の迷いはなかった。地面には倒れ伏す狼男の死体が累々と転がっているが、それらが“本当に”死んでいる保証はどこにもない。


「よし。ついてこい。残党狩りだ。まだ息のある奴には、しっかりと止めを刺す」


「隊長自ら行かれるのですか? 死に損ないなんて放っておいても、いずれ…」


「バカ言うな。奴らは人間じゃない。半端なダメージじゃ蘇ってくる。後顧の憂いは断つ。迷うな」


高柳はそう言うと、無駄のない動きでホルスターからM92を抜き、死体の山へと足を踏み入れた。足元に転がる死体はまるで人形のように静かだが、いつ牙を剥くか分からない。


「慎重にいくぞ。撃ち漏らしがないように」


3人の隊員が頷き、それぞれに左右と後方をカバーしながら進む。高柳は一体ずつ確認しながら歩みを進めていった。


「……息のあるやつは、いませんね」


隊員のひとり――軍曹がそう呟いた瞬間だった。


「軍曹、気を抜くな!」


高柳の叫びと同時に、死体の山から一匹の狼男が跳ね起き、軍曹の背後に襲い掛かる!


「っ──!」


高柳は即座にM92を構えるが、軍曹と重なっていて撃てない。咄嗟に軍曹の背中を突き飛ばした。


振り下ろされた狼男の爪は、高柳の胸元を横一文字に引き裂いた。バニーガールの衣装が破れ、右の乳房があらわになる。その柔らかな肌に、真っ赤な引っ掻き傷が4本、鋭く浮かび上がった。


「くっ……!」


痛みと衝撃で反応が一瞬遅れた。


その隙を逃さず、狼男は高柳の右手首を掴み、M92ごと強引にねじ上げる。銃は握力を失い、地面に落ちて乾いた金属音を響かせた。


さらに狼男は左手で高柳の首を鷲掴みにし、彼女の体を盾のように持ち上げた。


「ぐっ……! 構わず撃て! 私ごとこの化け物を!」


「こ、小隊長!?」


隊員たちは一瞬で動きを止める。銃を向けながらも、その引き金に指をかけられなかった。


「な、何をしてる! 撃てと言ってるだろ!」


「できませんっ!」


「迷うな! ぶち殺せぇぇっ!」


高柳が叫ぶその耳元に、低く冷たい声が囁かれた。


「……そう、死に急ぐな」


その瞬間、高柳の体は宙に浮き、狼男とともに森の奥へと跳躍していった。2度、3度と飛び、あっという間に暗い木立の中に姿を消す。


「くそっ……!」


「小隊長ーっ!!」


残された隊員たちが、叫び声とともに森へ銃口を向けるが、もはやそこに彼女の姿はなかった。




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