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第15話 ハロウィンの戦い トリック・オア・イート5

セクション1


 中庭での対決を、少し離れた植え込みの陰から見守る三つの影があった。

 皇帝ペンギンの新衛門、黒猫のラスカル、そして宮の森家のお嬢様、里美である。


「見事な策略でしたね。ありす嬢、やるときはやるんですね」


 新衛門が腕を組みながら、感心したように呟く。


「……あの。あなたはカミラさんの使い魔なんですよね?どっちが本物かわかったりします?」


 少し緊張気味に尋ねたのは、里美だった。


「うむ。当然だ」


 自信満々にラスカルが鼻を鳴らす。


「ほう、それは興味深い。何か決定的な違いでも?」


 新衛門の問いかけに、ラスカルは声を潜めるでもなく、さらりと答えた。


「本物は処女だが、偽者はそうではない」


「……」


「……」


 風が、静かに木々を揺らす音だけが残る。


「……ちょっ、それってどうやって確認したんですか!? それに、そういう発言は、女子中学生の前で口にしていい話じゃ――!」


 里美が顔を真っ赤にしながら、声を上げる。


 ラスカルは振り返ると、里美の赤く染まった顔を見て小さく息を呑み――


「……す、すまん。失言だった」


 ぺたりと耳を伏せ、素直に謝罪した。


「全く、話題が繊細すぎるんですよ……まったく……!」


 ぷんすかと頬を膨らませる里美に、新衛門が肩をすくめて言う。


「まあまあ。ともあれ、ありす嬢とカミラ嬢はしっかり優位に立っているようです。あの魔方陣も、なかなかの演出でしたね」


「ええ、あれはびっくりしました」


 そう語る彼らの視線の先で、対峙する二人のカミラの空気が一気に張り詰めていく――。





セクション2


 突如として、前庭に三つの光が輝き、その光が消えるとともに三つの影が現れた。


「お前ら、やっておしまい!」


 ありすの叫びが響く。目の前に現れたのは、豚のような顔をしたオーク、牛のような姿のミノタウロス、そしてヘビと鶏を合わせたような姿のバジリスク。まるでそれぞれが異なる食材を象徴するような怪物たちだ。


「食用家畜兄弟が増えた」


 ありすは冷ややかに言う。


「てめー、この間はよくも雑魚扱いしてくれたな!」


 オークが歯をむき出しにして、しばらく歩み寄ってくる。


「実際、雑魚じゃん」


 その言葉に、ありすは平然とした顔で返した。だがその瞬間、オーク、ミノタウロス、そしてバジリスクの三体が、一斉に動き出す。


「いけぇ!」


 ありすの指示で、魔法の火が一気に広がり、三体を包み込んだ。


「焼き豚、ステーキ、焼き鳥の出来上がり!」


 炎が跳ね上がると、目の前のモンスターたちは一瞬で火の海に包まれ、焼け焦げていく。ミノタウロスの角がひび割れ、バジリスクの鱗が焦げて崩れ落ち、オークはその体を裂かれるように炎に焼かれていった。


「まったく、簡単な仕事ね」


 ありすは余裕の表情で、炎の中に消えていった敵を見つめていた。彼女の周りには、もう敵の気配はない。焼け残った骨や焦げた肉が、残骸として地面に散らばっているだけだった。


「さて、次はどこに行くかしら」


 ありすはもう一度周囲を見渡し、次の一手を考えながら歩き始める。

-



セクション3


「――役に立たない獣どもね。まぁいいわ、決戦はこれからよ!」


カミーラはそう吐き捨てると、箒にまたがって空へ舞い上がり、夜空の彼方へと姿を消した。


「追いましょう、ありすちゃん!」

カミラが気迫をこめて叫ぶが、ありすは微かに笑うだけだった。


「たぶん、必要ないと思う。向こうから来るから」


 その瞬間、ズズン、ズズンと地を揺るがす足音が響き始めた。


「ほら、きた。まーた巨大ゴーレム。ほんと芸がないわね」


「これって攻撃魔法が通じないんですよね? 結構面倒じゃ……」


「大丈夫。対抗策は考えておいたから」


 しかし、次第に近づいてくる重低音に、ありすとカミラは同時に違和感を覚える。


「……あれ、これってもしかして――」


「う、うん。ありすちゃん、あれって……!」


 闇を切り裂いて現れたのは、巨大な人型の影。しかも一体ではなかった。二体、三体……。


「ゴーレムが三体!? 物量作戦がお好きね……」


「しかも中央のゴーレムの頭の上……あれ、カミーラじゃない?」


 ゴーレムの上で高笑いを響かせるカミーラの姿があった。


「ホッホホホホホーーーッ!!」


 どうやら彼女は、ゾンビが街を蹂躙する光景を想像しているようだ。すでに自分の勝利を確信している顔だ。


「……そういう状況にはなってないと思うけどね」


 カミラが小声でぼやく。


「ホッホホホホホーーーッ!!」


「聞いてないわね、完全に。あれが私と同じ遺伝子なんて……ちょっと情けないです」


 二人で並んで呆れ顔になる。


「誰が“あれ”ですって!?“あれ”って言うな! モノみたいに!」


 聞こえていたらしい。カミーラが突如、怒鳴り散らしてくる。


「でも“あれ”で合ってるでしょ?」


「うん。“あれ”としか言いようがないよね」


「きィィィィーーっ! ゆるさんっ!ゾンビどもに食わせてやるっ!」


「……そんな余裕ないと思うけど」


 ありすの冷静な指摘に、カミーラが眉をひそめる。


「どういう意味よ?」


「自分で確かめたら? そのくらいの魔法は使えるでしょ」


 カミーラはふんと鼻を鳴らし、空間に魔法のスクリーンを展開する。


「ゾンビ部隊指揮官、ゴブリン1。状況を報告しなさい」


『はっ、はいっ、こちらゴブリンワンです。命令通り街の北側より侵入しましたが、武装した人形に襲われまして……現在、生存は一割未満です』


「人形だと……?」


『はい……着せ替え人形ってやつです』


 地上からありすが叫ぶ。


「着せ替え人形ミカちゃん人形だよ。等身大までスケールアップしてゴーレム化して警備に配置したの!」


『ゾンビが噛みついても壊れるだけでゾンビにならない上に、壊れても攻撃を続けてきます!』


「ば、ばかな……! ゴブリン2、そっちはどう?」


 画面が切り替わる。


『こちらゴブリンツー。西側からの侵入を試みましたが、武装したぬいぐるみに待ち伏せされ、壊滅しました……』


「ぬいぐるみィィィ!? ……ゴブリン3は? 返答せよ、ゴブリン3!!」


 ……応答はなかった。


「……何をしたのよ、ありすっ!!」


「東側には怪獣がいたの。ソフビ人形だけどね」


「着せ替え人形に、ぬいぐるみ、そしてソフビ怪獣ぉぉぉ!?」


「そう、ゾンビに効かない素材だし、攻撃も強い。まさに玩具の兵隊部隊って感じね」


「ふ、ふざけるなーーーーーっ!!」


 カミーラの絶叫が夜空にこだました。



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