トリックオアトリート1 セクション1
「――もう許さん!奴らを踏み潰せえぇぇっ!!」
カミーラの怒号とともに、三体の巨大ゴーレムが咆哮を上げながら動き出した。夜の街に地響きが轟き、建物が震える。
「……今回は前みたいな戦闘機程度の攻撃じゃ、倒せないわよ!」
頭上から響く高笑いに、ありすは肩をすくめる。
「数が一体から三体に増えただけで、随分と自信たっぷりじゃない?」
「シューティングスター!」
「エリーゼ!」
掛け声と共に、ありすとカミラの足元に魔方陣が浮かび上がる。赤と青の輝きが走り、それぞれの箒が出現した。
ひらりと宙へ飛び乗った二人は、ゴーレムたちの巨大な腕を縫うように飛び交い、空を舞う。
「ゴーレムG3!お前の真の力を見せてやりなさいっ!レッツ・トライクロス!!」
カミーラの叫びに応じるように、三体のゴーレムが空中で編隊を組む。
「トライアングル……フォーメーションだと?」
目を丸くするカミラの前で、三体のゴーレムが驚異の変形を始めた。
一体は頭と両腕に、もう一体は胴体に、最後の一体は脚部に。それぞれがメカニカルな変形を遂げ、ガシンッと音を立てて合体する。
「グレートゴーレムG3、ここに見参!!」
キメポーズを取る超巨大ゴーレム。
「……ねえ、子供向けのTVアニメでも観たのかな、あれ」
「ありすちゃん、あんな人をまともに相手したくありません……」
「同感。さっさと片付けよっか」
ありすは箒でゴーレムの周囲をくるりと一周する。するとその瞬間、ゴーレムの周囲半径100メートルにわたる空間が淡く輝き、異質の気配に包まれた。
「……っ、これは……!」
「結界。あれでもう外には出られないよ、グレートさん」
「ふん、だが術者である貴様を殺せば、結界など消えるのではないか?」
「甘いなー。こっちは――」
ありすがウインクする。
「結界の外に出られる」
カミラとありすは結界の境界をすり抜けるように、ひらりとその外へ出てしまった。
中に取り残されたグレートゴーレムは、しばし呆然と空を睨みつけていた。
以下に、**「ハロウィンの戦い トリックオアトリート1 セクション2」**のラノベ化をお届けします:
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セクション2
『メテオストライク・ハロウィンバージョン』
「閉じ込めたのは良いけど、あの頑丈なゴーレム……どうするの?ずっとあのまま?」
カミラが空中でありすの隣に並び、箒の上で眉をひそめた。
「いくらなんでも永遠に結界を維持はできないよ。だから――攻撃するしかないよね」
「でも攻撃魔法は通じないんだよ? どうする気?」
「――もちろん、物理で。」
ずいぶん軽い口調で言うありすの背後、ゴォン、ガァンッ、と重低音が鳴り響いた。
巨大なグレートゴーレムG3が、空間の結界を拳で叩きつけているのだ。バチバチッと空間に亀裂が走り、紫の火花が散る。
「うそっ!?物理的攻撃で結界が壊れるの!?」
「オホホホホホホッ! さすが私のグレートゴーレムG3!お前は無敵よぉぉぉ!」
ゴーレムの頭上、仁王立ちになったカミーラが両手を広げて高笑いしていた。
だが――
「こっちも、そろそろ終わりにしよっか」
ありすが箒の上で静かに呟いた、その瞬間。
コツン
「ん?」
カミーラの額に、小さな何かが当たった。
「なに? 雨……?」
手のひらをかざすと、ぽとりと何かが落ちてきて、指先におさまった。
「……飴?」
しかしそれは序章に過ぎなかった。次の瞬間、飴、チョコ、ビスケット――色とりどりの菓子が、空から土砂降りのように降ってきたのだ。
「いったっ、ちょ、ちょっと!? 痛いっ、痛いってば! なにこれ!?」
カミーラは慌ててゴーレムに命じ、その手のひらで自分の頭をかばわせた。だがその手も――
バキッ!
砕けた。菓子が、凄まじい速度で落ちてきているのだ。
「ギャーッ!? なにこれ!? お菓子!? お菓子に殺されるうぅぅ!?」
カミーラの絶叫が響きわたる中、無数のスイーツが音速でゴーレムに降り注ぎ、巨体を容赦なく削っていく。バキバキと破壊音が鳴り、巨大なゴーレムがみるみるうちに崩れ落ちていく。
「ありすちゃん、これは……?」
箒で旋回しながら見ていたカミラが、唖然として尋ねた。
「メテオストライク。ハロウィン仕様だよ」
「え? メテオって、あの流星をぶつける強力魔法の……?」
「うん。今回はね、流星の代わりにお菓子を落としてるの」
「お、お菓子でゴーレムを壊すの?」
「音速で落ちてきたら、チョコだって凶器だよ? しかもハードビスケット入り。痛いよー?」
「っていうか、あとで拾って食べる気!?」
「もちろん。全部とは言わないけど……まだ食べられるやつはあるかも?」
「焼け焦げてないといいけど……」
降り止まないお菓子の雨の下で、世界一甘くて危険な戦いが幕を閉じようとしていた――。
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以下に「ハロウィンの戦い トリックオアトリート2 セクション2」を台詞の流れを自然に整えて、欠けていた部分も補完し、ラノベ風に書き直しました:
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トリックオアトリート2
『お菓子の山と約束』
ゴーレムを中心とした結界の内側は、お菓子の墓場と化していた。
ありすとカミラは空からその様子を見下ろしながら、箒の速度を緩めた。
「……あれが、メテオストライク・ハロウィンバージョンの威力ね……」
「お菓子でここまで破壊力あるとは……」
結界の中には、粉々になったゴーレムの残骸が埋もれ、その上をカラフルな飴やチョコ、ビスケットが山のように覆っていた。
「確認に行こうか」
ありすは真剣な顔でそう言うと、魔法のポケットから黄色いヘルメットを取り出し、カミラに手渡した。『安全第一』の文字がちょっとだけユーモラスだ。
「……?」
カミラがヘルメットを見つめていると、ありすは自分のヘルメットをすっとかぶりながら言う。
「魔法は止めたけど、落ちてくるお菓子がまだあるかもしれないから、念のためね」
「……なるほど。合理的ね」
カミラもヘルメットをかぶろうとしたが、ありすがくいっと手を伸ばして止める。
「違う違う。まず、猫耳外して」
「え?猫耳?」
「そのままじゃヘルメットがちゃんと乗らないでしょ」
言われた通り、カミラは猫耳カチューシャを外した。するとありすがヘルメットを装着して、その上から猫耳を再び取り付けた。
「うん、これで完璧!」
「……意味あるの?」
「ぐっど・じょぶ!」
親指を立ててにっこり笑うありすに、カミラは呆気にとられたまま箒に乗り込む。
二人は箒で結界内へと突入し、お菓子の山に着地した。あたりには甘い匂いが漂っている。
「この辺かしら……掘ってみよ」
ありすがスコップを2本取り出し、1本をカミラに手渡した。
カミラは言葉を失った。ナース服と猫耳を装備した少女二人が、安全ヘルメットをかぶってスコップでお菓子の山を掘る――その構図が、あまりにシュールだったからだ。
「……この光景、夢じゃないわよね……?」
「ん? なにか言った?」
「……いえ、なんでも」
ザク、ザクとスコップが音を立てる中、ありすがふと手を止めた。
「……ん?」
ありすの眉がひそむ。
「今……何か、固い感触がしたような……」
その瞬間、微かに聞こえた声。
「……いたい……」
ありすとカミラは顔を見合わせ、すぐにスコップを放り出すと、手でお菓子をかき分け始めた。
「うっ……」
現れたのは、ボロボロになったカミーラだった。
「生きてる!」
「……心配するな……じきに死ぬ……」
「そんなこと言わないで。助けるよ。もう悪いことしないって約束してくれたら、助けるにやぶさめじゃない」
ありすはカミーラをそっと抱き起こす。
「……やめておけ……悪人の約束なんて、信用できない……それに、“やぶさか”だ。“やぶさめ”じゃない……」
「細かいわね……」
カミラが身を寄せる。
「どうして……どうしてあんな下っ端貴族の言いなりになってたの?」
「そうだよ、あんなポンコツ男爵」
「私のコピーなら、私と同じ魔力があるはずでしょ? あんなやつに逆らえないはずがない」
「そうそう、あんなチンカ……」
「ありすちゃん! それ以上は言わなくていいから!」
あまりに下品になりそうで、カミラが慌てて止める。
カミーラはかすかに笑った。
「……コピーの私には、彼しかいなかったの。私を創ったあの人だけが、私の全て……それがたとえ、ポンコツでも……チン……でも」
「……重症だね」
「でも、カミーラ。あなたが“それでいい”って思えるなら、それもひとつの答えかもしれない」
「ただ……」
ありすがカミーラの肩に手を置いた。
「それでも、もう人を傷つけるのはやめようよ。今のあなたなら、別の道を選べるはずだよ」
カミーラは、少しの間、沈黙した。
そして――
「……考えてみる」
と、小さくつぶやいた。
空にはまだ、ゆっくりと飴玉が舞い落ちていた。まるで救いのように。
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