湊斗、スマホで【佐倉想】と検索をかける。特に想に関する記事はヒットしない。紬から着信(湊斗)「びっくりした·····はい」と、電話に出る。(光の声)「(大声で)お兄ちゃーん!」(湊斗)「びっくりした·····え?」騒がしい電話の奥。「やめてよ」「湊斗くんをその気ニさせる」「何言ってんの?」と姉弟喧嘩の声が聞こえる。湊斗、照れ笑いして、堪えて、(湊斗)「紬?」(紬)「はい。紬です」(湊斗)「光どしたの」(紬の声)「なんか、そういう年頃らしくて。姉ちゃんに飽きちゃって」(湊斗)「そっか。よくわかんないけど」(紬)「あ、聞いて。部屋ね、また良いの見つけちゃったの。LINE送っとく」(湊斗)「また悩んじゃうね」(紬)「ね。ちょっと作戦会議しよ。次のシフト出たら教えるから」(湊斗)「うん。わかった」(紬の声)「じゃ、またね」湊斗、電話が切れて、一息つく。スマホにはさっきまでの検索画面。気にしていたことがバカバカしく思えて、【佐倉想】という検索履歴を消す。紬、湊斗との電話を切る。(光)「早めに荷物整理しなよ。いらないもの捨てたりさ。湊斗くんに迷惑かけないでよ」(紬)「(微笑んで)はいはい」と、スマホの検索履歴に残った【佐倉想】を消す。紬、押し入れの中を整理している。箱が出てきて、開けると1番上に白い有線のイヤホン。(紬)「·····うわ」一瞬捨てようと思うが、とりあえずよけるだけ。箱の下のほうに、折り畳まれた数枚の原稿用紙。広げてみると作文。タイトルは【言葉】。筆者は【佐倉想】。紬、つい読み込んでしまう。
2013年 10月
高校2年の秋。朝礼。全校生徒が集まる体育館。壇上に上がる想。生徒の列の中で、興味なさそうにぼんやりしている紬。壇上で作文を読み始める想。(想)「言葉。佐倉想」紬、その声に引き寄せられるようにふと顔を上げる。次第に惹かれ、くぎ付けになる。泣いてしまいそうになる。(紬 M)「好きな声で、好きな言葉を紡ぐ人だった」紬、作文を読み終える。思い立ったように立ち上がる。想、改札を出て、駅の外へ歩いて行く。紬、想と入れ違いの駅に着き、周りを気にしながらうろうろする。(紬)「(小さな声で)·····佐倉くん·····」想、なんとなく足を止め、振り返る。(想)「·····」誰かいるわけでもなく。「気のせいかな」と思い、また歩き出す。