(紬 M)「今思うと、がっこうっていうのはすごい場所だった」紬、真子と階段を下りてくる。想、湊斗と階段を上がってくる。(紬 M)「嫌でも週5で行く場所で」踊り場ですれ違う2人。想、階段の上から、下にいる紬に、(想)「青羽」(紬)「(見上げて)はい!」(想)「(笑って)いい返事。取って」と、ipodを落とす。紬、両手でしっかりと受け取って、(紬)「取った!」(想)「新譜入ってる。貸す」(紬)「借りる」笑顔の2人。(紬 M)「嫌でも週5で、好きな人に会える場所だった」
2014年 10月
テスト期間中。生徒達が帰り始めている。イヤホンを付けて教室を出て行く想。(紬)「·····」紬、想の背中を目で追う。(紬 M)「名前を呼びたくなる後ろ姿だった」早足に教室を出て行く紬。(紬 M)「卒業まで、あと何回名前を呼べるだろ。このまま、友達のままだったら、あと何回だろ」紬、名前を呼ばずに想の近くまで駆け寄る。想の真横まで来て、唐突に、(紬)「好きです。付き合ってください」想、聞こえなかった様子で、(想)「(イヤホンを外して)ん?何?」(紬)「·····あ、何聴いてんの?って、聞いたの」2人、並んで歩き出し、(想)「あぁ、スピッツ」(紬)「お、スピッツ。知ってる。スピッツ、ほんとに知ってる。ほんとに好き」(想)「うん、好き」(紬)「あれ好き。ハチクロのやつ」(想)「うん。俺も好き」(紬)「ね」(想)「うん」(紬)「うん」想、少し考えて、悩んでイヤホンのコードをいじってみたりして、(想)「·····青羽」(紬)「うん」(想)「好き。付き合って」(紬)「·····ん?」(想)「(さっきよりハッキリと)好き。付き合って」(紬)「あ、聞こえてます。聞こえたんだけど·····え?」(想)「え、もっかい言う?」(紬)「ううん、大丈夫·····言ってくれてもいいけど。あ、言っとく?言う?どうぞ」想、何も言わずに笑う。(紬)「あ、ちょっと待って。録音·····録音するから(スマホを出して)·····ど、どうすればいいの、録音」想、紬の様子を「おもしろいなぁ」と思って笑顔で見つめるだけ。(紬)「·····これ、あれ?なんか答えるやつ?」(想)「答えるやつ」(紬)「なんて答えればいいの?」(想)「それ、俺が決めていいの?」(紬)「いいよ。決めていいよ」(想)「あー、じゃあ、よろしくお願いします、じゃない?」(紬)「(食い気味に)よろしくお願いします」(想)「(満面の笑みで)うん。わかった」紬、照れて目をそらす。髪を耳にかける。想、それを見て、(想)「ん」と、自分のイヤホンを紬の耳に付ける。(紬)「ん」と、されるがままの紬。音楽を再生して、ipodを紬のブレザーのポケットに入れる。(紬)「(少し聴いて)·····あ、うん。これ。映画の、うん、好きなやつ(と照れ笑い)」想、紬の手を握って歩き出す。紬、されるがまま、手を繋いで歩く。ベッドに寝転んで電話している紬。(紬 M)「よく長電話をした」手元のメモ帳を折り紙にしながら話す紬(紬)「えーじゃあその子戸川くんのこと好きじゃん。協力してあげなよ」電話越しに「お兄ちゃーん!」と声が聞こえて(想の声)「(恥ずかしそうに)あっ、ちょっと待って·····」紬、笑いを堪えて、(紬)「わかった。待ってる。お兄ちゃん」(想の声)「やめて」紬、ついニヤニヤしてしまう。(紬 M)「時々、電話の奥から家族の声が聞こえるのが好きだった」向かい合って座る紬と想。(紬 M)「クリスマスにプレゼント交換しようって言って、予算だけ決めて。いざ交換したら、同じイヤホンの色違いで」同じ大きさの、違う包装紙のプレゼントを交換して渡し、同時に開ける。紬には白の、想には黒の同じイヤホン。顔を見合わせて笑う2人。(紬 M)「ほんとに交換しただけだねって言って、笑った」
2015年 4月
(紬)「高校を卒業して、進学して。その頃まだ、イヤホンの調子は良かったのに」紬、虚ろな表情で、想にもらったイヤホンで音楽を聴く。溜め息。スマホにLINEの通知音。慌ててスマホを手にして、愕然とする。想から【好きな人がいる。別れたい】と。(紬 M)「好きな人がいる。別れたい。その文字を見せられて終わった。あの声で聞くことすらできなかった」コードを引っ張り、イヤホンを耳から外す。イヤホンから音楽が漏れている。(紬 M)「イヤホンが壊れてしまったのは、3年くらい前。それからずっと、音が出ない」紬、腕時計を見て、小さく溜め息をつく。ワイヤレスイヤホンを耳に付けて歩き出す。改札の中へ入り、1人電車で帰って行く。(紬 M)「その好きな人とは、どうなりましたか?」想、本を読みながら誰か待っている。桃野奈々(27)、駆け寄ってきて、想の前にしゃがみ、本の陰から笑顔を見せる。笑顔を返す想。(奈々)「(手話で)お待たせ」想、奈々の背負うリュックのチャックを慣れた様子で閉める。並んで歩き出す2人。幸せそうな恋人同士のよう。(紬 M)「好きだった人の、好きな人って、どんな人ですか?」