【佐倉】と表札のある一軒家。想の実家にやってきた湊斗。緊張して手が震える。一息ついて、チャイムを鳴らす。(萌の声)「はーい」と、玄関の戸を開ける想の妹・佐倉萌(20)。(湊斗)「あ·····萌ちゃん?」(萌)「(誰かわからず)·····はい」(湊斗)「あ、わかる?想の、高校の同級生の」(萌)「·····(思い出して)あっ、サッカー部の。えっとー、湊斗くん?」(湊斗)「うん。久しぶり」萌、想の顔が浮かんで湊斗を警戒する。(萌)「·····どうしたの?」(湊斗)「あー、今、実家帰ってて」(萌)「うん」(湊斗)「想いるかなぁ、って、寄ってみたんだけど」(萌)「いないけど·····」(湊斗)「あ、うん、だよね。俺あの、連絡先わかんなくなっちゃってさ、想の」(萌)「え?」(湊斗)「スマホ死んで、データ飛んで。想いたら聞こうと思って来たんだけど」(萌)「(少し考えて)·····湊斗くんてさ」(湊斗)「うん」(萌)「知ってるんだっけ?」(湊斗)「ん?」(萌)「だから·····あの、お兄ちゃんのさ、ね」と、察してもらおうとする。湊斗、何のことかわからないまま、(湊斗)「あぁ、想のね、うん。知ってる」萌、少し緊張がとけて、(萌)「あっ、そうなんだ。なんだ、そっか。仲良かったもんね」(湊斗)「うん·····」(萌)「あ、じゃあ番号教えるよ。スマホスマホ」と、家の奥へ。湊斗、騙したようで申し訳ないと思いつつ、(湊斗)「あ·····ありがと」萌、声を張って、(萌)「よかったよー、お兄ちゃん高校の友達プッツンだったでしょー、卒業してすぐ」(湊斗)「(愛想笑い)プッツンされたね」萌、スマホを操作しながら玄関に戻っきて、(萌)「新しい友達もなかなか作らないしさぁ、耳聞こえなくなってから」(湊斗)「·····(え?)」動揺し、返答できない湊斗。萌、スマホを見ていて湊斗の様子に気付かない。(萌)「あ、これか」と、番号をメモしながら、(萌)「お兄ちゃんてさぁ、人に甘えられないのが唯一の欠点だよね」(湊斗)「·····」紬、試聴機のヘッドホンで音楽を聴いている。ゆかこ、紬の顔を覗き込んで、(ゆかこ)「·····つむつむ?」(紬)「(ゆかこに気付いて)·····あ」(ゆかこ)「あ、じゃなくて。時給発生してるから」(紬)「(笑って誤魔化して)すみません」スピッツの特集コーナー。紬が聴いていた試聴機、『フェイクファー』の6曲目が再生されている。想の母・佐倉律子(49)、買い物からの帰り道。向かいから歩いてくる湊斗。律子、湊斗とすれ違い、すぐに振り返る。(律子)「·····(湊斗くん?)」湊斗、動揺で律子に気付かずに歩いて行く。律子、玄関を上がってすぐ、(律子)「萌、誰か来た?」ソファでスマホをいじっている萌、スマホを見たまま、(萌)「んー、あれ、あの、湊斗くん」(律子)「·····(やっぱり)」(萌)「(律子に振り向いて)覚えてない?お兄ちゃんの友達」(律子)「·····何しに来たの?」(萌)「お兄ちゃんの連絡先聞きに」(律子)「は?」(萌)「湊斗くん、知ってたんだね。耳のこと。高校の友達は誰も知らないと思ってた」(律子)「·····知らないよ」(萌)「知ってたよ」(萌)「知ってたよ」(律子)「知らないよ」(萌)「知ってたってば。知ってる?って聞いたら知ってるって」(律子)「何を知ってるって言われたの?」(萌)「·····」(律子)「湊斗くんからそう言ったの?」(萌)「(やらかしたと気付いて)·····あ」(律子)「(やっぱりと思って、溜め息)·····」(萌)「·····ごめんなさい」(律子)「·····お兄ちゃんに謝りなさい」