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第15話 さよならを告げた本当の理由…好きになれてよかった♯1

放課後の教室。


紬と想の2人きり。


紬、課題の数学のプリントを解いている。


想、紬の前の席の椅子に座り、見守っている。


紬、問題が解けなくて、手が止まって、


(紬)「·····つまんないなぁ(と呟く)」想、プリントを折りたたみながら、


(想)「紙を、42回折ると、月に届くんだって」


(紬)「(考えて)·····なにが?」


(想)「紙が。紙の厚さが。こう、折ってくと、だんだん分厚くなるじゃん。その、厚みが、月に」


(紬)「え?45回で?」


(想)「42回で」


(紬)「え、嘘。絶対嘘。いけてスカイツリー。盛って富士山」


(想)「ほんとだよ。計算したもん」


(紬)「計算したの?·····キモ」


(想)「キモくないでしょ。なにキモいって」


(紬)「どう計算するの」


(想)「(紙に数式を書きながら)紙の厚さを0.1ミリとして、1回折ると0.2ミリでしょ。2倍を繰り返すから、」


(紬)「あーやめてやめて。ほんとやめて。数字聞くと頭痛くなっちゃう」


(想)「青羽が聞いたんだよ·····月までの距離が!」


(紬)「(耳を掌で叩きながら)わあーーーー」


(想)「(大声で)約38万キロだから!」


(紬)「(同じ動作を繰り返して)きゃーーーーー」


ふざけながら笑う2人。


(想 M)「どうでもいい話ばかりしていた。あの時、あの場所でしなくてもいい、くだらない話ばかりしてた。話の内容に意味なんてなくて、ただ、好きな人と話しているその時間に意味があった」


古賀、教室の外から紬と想を真顔で見ている。


想、古賀に気付き、紬に「ねぇ」と。


紬、ようやく古賀に気付きビクッと。


(古賀)「(溜め息をついて)部活引退して、進路決まって、残りの高校生活で恋愛か·····完璧か!」


(紬・想)「·····ありがとうございます」


(古賀)「絶対幸せになれよ!」想、紬に「帰ろ」と。


紬、古賀を気にして「いいのかな」となりつつ帰る支度をする。


気にせず話し続ける古賀。


(古賀)「お前ら2人が付き合い出して学校中が失恋パンデミックだよ。お前ら自分がモテるって自覚あるか? 自覚ないだろ? 自覚のないモテるやつ、先生嫌いじゃないよ!」 


紬と想、そそくさと教室を出て行く。


(古賀)「おー、帰れ帰れ。手繋いで帰れ!」


紬と想、思わず笑ってしまう。


廊下に出て歩いて行く2人。


想、古賀が見えなくなったのを確認してから、紬の手を取る。


(紬)「ほんとに繋ぐんだ」


(想)「顧問の指示だから」


笑って歩いて行く2人。


照れくさくなって、つないだ手をブンブンと振り回す紬。


(想 M)「特別なものなんていらなかったし、このままでよかった。卒業して遠距離になることなんて、なんでもなかった」


(想 M)「なんでもなかったのに」


高校の卒業式終了後。


想、紬に笑顔で手を振って、歩き出す。


想、紬にもらったイヤホンを耳に付ける。耳鳴りがして、立ち止まる。


イヤホンを外し、耳を押さえる。


(律子)「想?」律子の声がして顔を上げる想。


律子、心配そうに駆け寄って、


(律子)「どうした?頭痛いの?」


想、耳鳴りを気にしないふりをして、


(想)「ううん、大丈夫」


(律子)「うん·····あ、ごめんね、駐車場ちょっと遠いとこになっちゃった」


「あっち」と示して、2人並んで歩き出す。


(想)「先帰っていいのに」


(律子)「助手席に乗せたいの」


(想)「じゃあ乗るけど」


(律子)「いつか助手席に乗せてもらうときに、ほら感慨深いでしょ」


(想)「(照れ笑いで)免許がんばるわ」


(律子)「(嬉しそうに笑って)楽しみだなぁ」

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